◆もう一つの裏金問題、直ちに調査へ
防衛装備庁が入る防衛省の正門=東京都新宿区で
潜水艦の修理を巡り、架空取引で捻出した資金で海上自衛隊の乗組員に金品や物品を提供した疑いがあり、税務調査を受けている…。
川重の担当者からの報告に、防衛装備庁の幹部は困惑を隠さなかった。
「防衛力強化のこの時期に…」
2027年度までの5年間で、防衛費を従来の1.5倍となる43兆円に引き上げる5カ年計画の真っただ中。省内に緊張が走った。
翌日には防衛装備庁の調査が開始。間もなく神戸市にある川重の神戸工場に職員が派遣された。
◆与党からも「強い憤り」
同じ頃、防衛省では潜水手当の不正受給や特定秘密のずさんな取り扱いも相次いで発覚。自民党国防族の一人で、元防衛相の岩屋毅衆院議員も「防衛省・自衛隊への信頼が損なわれている。今後の防衛力強化にとって好ましくない」と苦言を呈す。
大きく膨らんだ防衛費だが、急激な円安や物価高によってコストが高騰。早くも計画に狂いが生じ始めており、さらなる増額を求める声も聞こえてくる。
防衛力強化の流れに水をさす接待疑惑に、防衛省幹部は「予算の執行を止めるわけにはいかないが、われわれの原資は税金。国民からの視線は厳しくなる」と顔を曇らせる。
◆いまだ残る「防衛増税」という宿題
そもそも防衛費増額には、まだ宿題が残っている。財源問題だ。
「防衛力強化に必要となる内容、予算の規模、財源の確保を一体的かつ強力に進める」
ところが、世論の反発が予想され、2年連続で増税の判断が見送られた。
2023年度は、歳出改革で2000億円、決算剰余金の活用で4000億円、東京・千代田区の複合ビル「大手町プレイス」などの国有財産の売却益などの税外収入で1.2兆円を捻出し、財源を確保した。
◆財務省「一生懸命かき集めているのに…」
今秋から本格化する税制議論では、防衛増税の開始時期が最大の焦点だ。
自民党国防部会長の経験者は、こうクギを刺す。
◇
<連載:防衛特需の裏で 43兆円の行方>
8月30日に公表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8兆5千億円に達した。川重による接待疑惑は、防衛特需に沸く裏で官民が癒着を深め、不正へと発展しかねない危うさを突き付ける。私たちの税金は適切に執行されているのか。43兆円へと肥大化する防衛費を6回にわたって検証する。(この連載は加藤豊大が担当します)
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