連載③ブラックボックス
潜水艦の乗組員だった海自OBはかつて、ある下請け企業の社員が「川崎重工業」のヘルメットをかぶって修理作業をするのを見た。
下請け企業でなければ分解できない部品もあり、作業は会社の垣根を越えて進んだという。「川重のような元請けの大企業だけでは防衛産業は成り立たない。下請け、孫請け企業が生命線だ」
◆防衛特需の恩恵は大企業から下請けまで
防衛産業は今、防衛費増額を追い風に特需に沸いている。
防衛装備品には、部品メーカーまで含めると戦闘機で1100社、戦車で1300社、護衛艦で8300社が関わる。特需の恩恵は、川重のような「プライム企業」と呼ばれる大企業だけでなく下請け企業にまで及んでいる。
◆同じような部品でも「もうけは民間向けの倍以上」
自衛隊の戦車や航空機、潜水艦向けに部品を納めている関東地方のメーカー役員の男性は、「10年ほど前は自衛隊関連の仕事が少なくなって大変だった。防衛予算が増額されてから、見積もりが高めでも通るようになった」と話す。
このメーカーの場合、同じような部品でも防衛装備向けは民間よりも高い単価で卸している。利益率は30%に達し、民間向けの倍以上のもうけがあるという。
◆取扱業者限られ、市場原理が働きにくく
防衛装備品は特注品で厳しい品質管理も求められる。取り扱う業者も限られ、市場原理が働きにくい。メーカーの役員は「民間向けよりも強気で価格交渉ができる」と打ち明ける。
戦車のエンジン部品を製造する関東地方の別メーカーの男性幹部も、「少数の調達品向けに毎回、特注の部品を製造する。スケールメリットが働かない分、販売価格は高くしている」と言う。
◆部品調達の価格算出に防衛省は介在せず
◆「実効的なコスト管理ない」財務省指摘
財務省の2021年の調査によると、三菱重工業や川重の航空機やヘリコプターでは、国産部品価格が約10年間で最大3倍に高騰していた。財務省は「(部品の調達は)プライム企業任せとなり、実効的なコスト管理がなされていない可能性がある」と指摘する。
◆企業の撤退相次ぎ、防衛省は利益率をアップ
ただし、装備品のコスト管理を巡る課題は積み残されたままだ。
今年5月下旬、防衛装備庁が企業向けに開いた支援金制度の説明会=名古屋市で
◆「接待しても、余りあるほどもうかる仕事」証明
川重の接待疑惑では、下請けとの架空取引で作った裏金をプールし、海自の乗組員への接待の原資に充てたとされる。過払いの有無についても防衛省は調査を進めている。
「確かなことは、潜水艦事業は予算権限もない乗組員を接待しても余りあるほどもうかる仕事だったということだ。官民のなれ合い、もたれ合いの極みじゃないか」
◇
<連載:防衛特需の裏で 43兆円の行方>
8月30日に公表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8兆5千億円に達した。川重による接待疑惑は、防衛特需に沸く裏で官民が癒着を深め、不正へと発展しかねない危うさを突き付ける。私たちの税金は適切に執行されているのか。43兆円へと肥大化する防衛費を6回にわたって検証する。(この連載は加藤豊大が担当します)
8月30日に公表された防衛省の2025年度予算案の概算要求額は、過去最大の8兆5千億円に達した。川重による接待疑惑は、防衛特需に沸く裏で官民が癒着を深め、不正へと発展しかねない危うさを突き付ける。私たちの税金は適切に執行されているのか。43兆円へと肥大化する防衛費を6回にわたって検証する。(この連載は加藤豊大が担当します)
【関連記事】<連載①>チェック届かぬ「潜水艦ムラ」 温存された官民癒着 防衛特需に沸く川重に何があったのか
【関連記事】<連載②>「ますます増税なんてできんぞ」自民国防族はうめいた…川重ショックに加え、防衛省内で相次ぐ不正発覚に
【関連記事】<連載②>「ますます増税なんてできんぞ」自民国防族はうめいた…川重ショックに加え、防衛省内で相次ぐ不正発覚に