斎藤元彦知事がいくら粘ったとしても結末は…「いいやつほど早く死ぬ」地獄を作りだす“パワハラボス”への対処法はあるか(2024年9月8日『文春オンライン』)

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斎藤元彦知事 ©時事通信社
 兵庫県知事の斎藤元彦さんが粘りに粘っていて、百条委員会もバッシングも何のその、俺悪くないもんぐらいの勢いで頑張っております。斎藤さん擁護側も、さすがに2人も部下が亡くなっていることの因果関係に踏み込まれると藪蛇と思っているのか、どことなく遠慮気味の論陣を張っていて、兵庫を巡る暑い夏は続きそうです。
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 なにぶん、今回斎藤さんがいくら粘ったところで、知事の任期は来年2025年7月31日で満了です。知事の椅子にしがみついても地獄、追い込まれて辞めて再出馬しようにも人心が完全に離れていれば地獄。大変ですな。パワハラボス最大の危機がここにあるんですよね。
 つまり、どっちに転んでも近いうちに知事選にはなるのでしょう。声望がここまで失墜してしまうと難しいにせよ、斎藤さんがもし次を考えるなら「知事の辞め方」が大事になります。
 知事の不信任決議が議会で可決されたり(地方自治法178条)、有権者の3分の1以上によるリコールが出たり(地方自治法81条)、あるいは「おねだり」を含む贈収賄に絡む刑事告発住民訴訟の提起が出たり(地方自治法242条の2)、いろんなバッドエンドルートはあります。
 どれも、日本維新の会がどのタイミングで斎藤さんを見放すかで決まるという点が重要になってきています。ダメなら傷口の浅いうちに次いこ次、ってなるのが政治ですからね。仕方ないね。日本維新の会菅義偉さんの、斎藤都知事に対する“製造物責任”が問われているとも言えましょう。
 さらに、明石市勃興の立役者で瞬間湯沸かし器の声望も高い俺たちの泉房穂さんも兵庫県知事に名乗りを挙げるの挙げないので騒ぎになっております。見た目はああだけど割と優秀なんですよねえ、泉さん。
 新旧パワハラ対決が実現してしまうのか、注目が集まります。もっとも、やらかした意識を微塵も感じていなさそうな斎藤さんに対して、ブチ切れるたびにその後冷静になって反省してしまう泉さんはまだまともなほうです。
ヒラとして活躍しているうちは慎ましく静かな奴でも…
 日本維新の会の声望が兵庫県で地に堕ち、逆噴射を始めている現状では「ほかにもっとちょうどいい奴はいないのか」という兵庫県民の声がこだましています。
 思い返せば前回2021年の自民党総裁選でも、パワハラをテーマにした政治記事を書いていました。検索したら出てきたので「文春も酷い記事を書いてるな」と笑って読んでいたら、まさかの自分の記事でした。すっかり忘れていた( 河野太郎平井卓也西村康稔茂木敏充の“自民党パワハラ四天王”はどこへ向かうのか )。
 この斎藤元彦さんも兵庫県知事になる前は俺たちの総務省でキャリア官僚をなさっており、当時の斎藤さんのことを知る総務官僚に「あいつどうなのよ」とイタ電すると、「言われているほど悪い奴ではなかった」とか「パワハラするような雰囲気ではなかったんですけどねえ」などの回答が得られます。
 ただ、これはもう組織あるあるですけど、ヒラとして活躍しているうちは慎ましく静かな奴でも、権力を握り、部下を扱うようになると態度が豹変することがあります。お前、そんな奴だったっけ。
 私の棲息する事業家界隈でも、どこぞの会社の技術者として雇われているうちは生真面目で優秀な社員でも、ひとたび独立し、ベンチャーキャピタルから億円単位の投資が行われて手元に現金が来ると、途端にオフィスが煌びやかな内装になったり、高級外車を買おうとしたり、愛人を秘書に雇ったり、芸能人や女子アナと合コンを繰り返したりするようになります。権力や財産を握ると、いままで抑圧されてきた隠された欲望が表出して、本来の人間性を露呈してしまうものなのかもしれません。
 これはもう大企業でもベンチャーでも政治家でもあるのでしょうが、いわゆる「上に媚びへつらい、下に異様に厳しい人」っていうカテゴリーは絶対にあるんです。こういう人ほど「俺も若い頃苦労したのだから、お前もその苦労を味わえ」とか「厳しい現場を潜り抜けるほど人間は磨かれるんだ、俺のように」などの困難体験型アトラクションを強いる体育会系になっちゃうものなんですよね。
 斎藤さんもそうでしたし、自民党パワハラ四天王も皆さんそのような傾向があるかと思いますが、彼らは気に入ったごく少数の側近・取り巻きの言うことしか聞かなくなっていきます。もちろん、そういう茶坊主に優秀な人がいれば、そのパワハラボスも仕事はできるという評価に繋がっていくのでしょうが、なにぶんパワハラですから、まともな人ほど擦り切れて周辺から去っていきます。
 どんなにパワハラボスの信任が篤かろうが、寵愛されていた優秀な人でもひとたび「やっていられない」となると、すんなりフッといなくなってしまうものなんですよ。
 もちろん「辞めないで」ってみんなで慰留するけど、一度心が折れちゃうとなかなかむつかしいのも現実でやんすね。身の回りで、パワハラボスの下で頑張っていた人が真の円満離脱・退社できているケースはとても少ないです。
パワハラをする人は、指摘されると逆ギレする
 私のような外側の立場の人間は、そういうパワハラ系権力者を見かけたら遠巻きにしてつかず離れず仲良くする行動を取ることも多いのです。立場は不安定だけど、筋の悪い要求をしてくるクライアントやワンマン経営者などからは、距離を置いて身を守ることができるのは利点とも言えるんですよ。
 ただ、組織に長年勤めていた人のところへどこかからパワハラボスがスライドしたり降りてきたりして就任してしまった場合はどうしようもありません。その組織、その仕事でずっと頑張ってきた人ほど、上にイカれたパワハラ野郎が来ると、逃げ場もなく精神を病むものなのです。
 その仕事にやりがいを感じ、この組織で真面目に勤め上げようと思う人ほど、話の分からないパワハラ野郎がボスになってしまうと消耗具合も激しくなります。こういう仕事ができて組織に忠誠を誓う人は、組織にとって宝のはずなんですけどね。
 実際、職場で自殺してしまう人たちは、企業であれお役所であれ学校法人のような閉鎖的な組織であれ、上司のプレッシャーと状況にもの凄く左右されるものです。鬱になってしまって離脱されるのはまだいいほうで、私のつたない人生経験においても両手ほどあった組織内の理由による自殺は、話を聞くたび切なく残念な思いになります。
 訃報を受け取るたび、死を選ぶほどだったら辞めればいいのにという気持ちと、確かにあの人の下で働くのは相当なストレスだったろうなあという推察のほか、あのとき顔色悪かったな、言葉遣いが普段と違ったな、相談してくれればよかったのに、という生き残った側の贖罪意識と、でも相談されても返り血を考えると自分が直接パワハラ上司に強くは言わない(言えない)な、という思考がぐるぐる巡ります。そして、出た結論は「いいやつほど、早く死ぬ」。
 ごく最近も、個人的に親しかった秘書官氏がパワハラ大臣の所作に悩んでいたので深夜酒を飲ませたら半泣きで相談されたことがありました。某省では若手エースの1人で嘱望もされてましたから、潰されては大変だと騒ぎになっていたんですよね。
 ただ、私ができるアドバイスも「それは先生に直訴しても無理だろうから、心ある同僚議員に時間を取ってもらって状況を全部説明し、心情的な理解をもらってから『秘書官はもう続けられない』と役人の皆さんに宣言してスイッチしてもらうしかないですね」しかありません。
 パワハラをする人は、パワハラをしているという自己認識がないうえに、何か起きても罪を感じることはなく、外部から「それはパワハラですよ」と指摘されると大変に逆ギレされるものなのです。
パワハラ軍団は、「瞬間風速的に成果がバッと出る」ことがあるが…
 そして、ごくまれに「パワハラ上司と相性の良い部下」が出現するのも事実です。とりあえず3000円払ってガチャ回したら、パワハラ対処スキルを持つレアカードが出るようなものです。やったぜ。
 ただ私の経験では、だいたいそいつもパワハラの素質があるんですよね、悲しいことに。そして、組織内にパワハラ軍団ができる。関東軍とかなんとか言われつつも、とにかく威圧して組織で仕事を部下に詰め込めば成果が出るタイプの案件では、携帯電話販売会社かと思うぐらい優秀な組織ができてしまうんです。瞬間風速的に、成果がバッと出る。
 例えば、3か月で3600万人の高齢者が2回接種できる量のワクチンを全力で打たせろって強硬策をやるような感じの、とりあえず振り向かず頑張れという仕事なら、パワハラでもうっかり成果が出て「優秀」と判断されてしまうんですよ。
 しかし、世の中にはそういうブルドーザーを前に出せば終わるような仕事ばかりではないから、いざ込み入った話をしようとなると誰もついてこなかったり、すでに人気が失われていたりして「こんなはずじゃなかった」となる。まあ、当然だと思うんですよね。
 気に入らない意見は理由つけてブロックするとか、政権を支える責任者の一人として推進していた防衛増税をやめる表明をして顰蹙を買うとか、まあいろいろあります。周りに人がいなくなったパワハラは、斎藤さんのようにどこかで躓いて、再起できないほど晒し者にされてしまうことになるのです。
 一番厄介なのは、自分でやりたい放題やって、退職者や、場合によっては自殺者を出しているから責任を問われているにもかかわらず、俺は悪くないの気持ちの果てに何かを未遂するケースです。
 法的措置に出るぞとか、飛び降りるぞとかやるやつですね。「人間だもの」では済ませられない結論になりがちなのも、こういう組織で起きるトラブルですし、どこの組織でもボスが天皇化してワンマンになり、パワハラ組織が蔓延して統制が利かなくなる前に周辺は逃げるしかありません。残念ながら。
山本 一郎