中央アジア5カ国の地政学的な重要性が再認識され、東アジアと欧州を結ぶ物流網「カスピ海ルート」構築に向けた動きが加速している。隣接するロシア、中国と関係が深い地域だが、日本や欧米の関心も高い。国際社会は分断を持ち込まず、地域の発展と物流の円滑化に向けて協調すべきだ。
岸田文雄首相は南海トラフ地震の臨時情報「巨大地震注意」を受けて中央アジア5カ国トップとの首脳会談を取りやめたが、日本政府は2004年に5カ国との対話の枠組みを創設して以来、外相レベルの協議などを重ねてきた。
政府の狙いは、石油や天然ガス、レアメタル(希少金属)など豊富な天然資源を確保することに加え、ロシアを経由せずに日本と欧州をつなぐカスピ海ルートの構築だ。政府は円滑な物流網の整備、省エネと脱炭素、人材育成などへの支援を表明している。
欧米にとってもロシア回避ルートの重要性は増し、欧州連合(EU)はカザフからカスピ海、アゼルバイジャン、黒海を経て欧州に至る約4750キロのカスピ海ルート整備に向け100億ユーロ(約1兆6千億円)の投資を決めた。
緊迫する中東情勢を受け、同ルートにはスエズ運河ルートを補完する役割もある。実現には膨大な費用と労力に加え、鉄道・船舶の輸送能力不足と老朽化、複数の国を経由する煩雑な税関手続きなど問題も多い。国際社会は投資とインフラ整備を適切に分担し、ともに課題解決を目指すべきだ。