物流網の構築 中央アジア増す重要性(2024年8月21日『東京新聞』-「社説」)

 

 

 中央アジア5カ国の地政学的な重要性が再認識され、東アジアと欧州を結ぶ物流網「カスピ海ルート」構築に向けた動きが加速している。隣接するロシア、中国と関係が深い地域だが、日本や欧米の関心も高い。国際社会は分断を持ち込まず、地域の発展と物流の円滑化に向けて協調すべきだ。
 岸田文雄首相は南海トラフ地震の臨時情報「巨大地震注意」を受けて中央アジア5カ国トップとの首脳会談を取りやめたが、日本政府は2004年に5カ国との対話の枠組みを創設して以来、外相レベルの協議などを重ねてきた。
 政府の狙いは、石油や天然ガスレアメタル希少金属)など豊富な天然資源を確保することに加え、ロシアを経由せずに日本と欧州をつなぐカスピ海ルートの構築だ。政府は円滑な物流網の整備、省エネと脱炭素、人材育成などへの支援を表明している。
 中国は01年、ロシアと中央アジア各国に呼びかけて「上海協力機構(SCO)」を設立。安全保障協力とともに、資源開発と中国から中央アジアに至る鉄道網の整備などを進めてきた。
 13年には習近平(しゅうきんぺい)国家主席カザフスタンを訪問し、巨大経済圏構想「一帯一路」の原型である「シルクロード経済ベルト」を初めて提唱。旧ソ連構成国だった5カ国の取り込みを図っている。
 ロシアが22年、ウクライナに侵攻すると、侵攻に否定的な中央アジア各国はロシアと距離を置いた。特にロシア系住民が約18%を占めるカザフの危機感は強い。
 欧米にとってもロシア回避ルートの重要性は増し、欧州連合EU)はカザフからカスピ海アゼルバイジャン黒海を経て欧州に至る約4750キロのカスピ海ルート整備に向け100億ユーロ(約1兆6千億円)の投資を決めた。
 緊迫する中東情勢を受け、同ルートにはスエズ運河ルートを補完する役割もある。実現には膨大な費用と労力に加え、鉄道・船舶の輸送能力不足と老朽化、複数の国を経由する煩雑な税関手続きなど問題も多い。国際社会は投資とインフラ整備を適切に分担し、ともに課題解決を目指すべきだ。