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歴代の総理秘書官がカネを持ってくる度に受け取りを断固拒否してきた1人のジャーナリスト。総理大臣にケンカを売っても、この世界で生き残れたのはなぜか。話は田中角栄の首席秘書官が100万円を持ってきた日まで遡る。(構成/梅澤 聡)
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この連載は、派閥論の名著と名高い渡辺恒雄氏の『派閥と多党化時代』(雪華社)を復刊した『自民党と派閥』(実業之日本社)を事前に読んでもらったうえで取材をしています(一部を除く)。
● ある日、田中角栄の首席秘書官が100万円持ってきた
――野中広務さんが、官房機密費について記者団に対し、「政治評論家やジャーナリストにカネを配っていたけれど、受け取らなかった人が1人だけいる。それが田原総一朗さん」と話したことがありました。これは事実ですか?
事実です。小渕内閣のとき、野中さんの使いの人が1000万円持ってきたので断りました。「総理大臣からのカネを受け取らない」というのは、つまり「総理大臣にケンカを売る」ってことですから、その後は一切取材ができなくなることを覚悟しなきゃいけない。にもかかわらず、なぜ僕が断ることができたのかというと、田中角栄さんが総理だったときの一件があるからです。
ある日、田中角栄の首席秘書官が100万円持ってきたんです。僕が「受け取るわけにはいかない」と言うと、その秘書官が「受け取りを拒否したなんて言ったら、きっとオヤジは怒るでしょう。田原さん、オヤジを怒らせたら、自民党だけじゃなく共産党以外のすべての党で取材ができなくなりますよ」と言うんです。
それでも僕が頑として受け取らないものだから、秘書官は諦めて帰っていった。すると、その2日後に電話がかかってきて、「田原さん、オヤジがOKしたぞ!」って言うんです。なぜかはわかりませんが、田中角栄という人は懐の深い人だったんですね。
それ以来、歴代の総理秘書官がカネを持ってくるたびに僕は「田中さんに断ったのに、あなたのカネを受け取るわけにはいかない。田中さんを裏切ることになってしまう」と言って断ってきました。
――企業団体献金について、田原さんはどのように考えていらっしゃいますか?
連載の新着記事を読み逃したくない方は、連載のフォローがおすすめです。メールで記事を受け取ることができます。 企業や団体が「日本の産業をもっと良くしたい」と思って献金し、政治家もその産業全体のために使うのなら、僕は何の問題もないと思う。野党は揃って「企業団体献金は廃止すべき」と言っているけれども、企業団体献金がなくなったら選挙の費用がまかなえない。自民党はそこを心配しているんです。
選挙のときに一般の有権者を説得するためには、地元の有力者に頼んで人を集めてもらう必要がある。そのためには有力者たちと会食することも大切でしょう。アメリカやヨーロッパでも同じようなことをやっているんです。ただ、日本と違うのは、飲み食いの費用についても「すべて公開されている」という点なんです。
なぜ日本では公開できないのか? というと、これには理由があるんです。僕は自民党議員に「なぜ公開しないのか?」と聞いたことがあるんだけど、その議員は「公開すると、『あの人には3回も接待したのに、自分には1回だけか?』という人が必ず出てくる。だから公開できないんだ」と言っていましたよ。
だから僕は、自民党が裏金をやめることはできないと思っています。裏金をなくすには、政権交代を実現させるしかないんです。アメリカやヨーロッパで政治資金の透明化を実現できているのは、政権交代がしょっちゅう起こるからですよ。「下手なことをやったら政権を奪われてしまう」という緊張感が必要なんです
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――渡辺恒雄さんは「政界の腐敗を招いた原因は、経団連や経済同友会など財界の人間だ」と言っています。田原さんはどう思われますか?
僕は財界が原因とは思わない。今回のような裏金問題の根本原因は2つあると思っています。
1つは「選挙に金がかかること」です。具体的に言うと、選挙区で当選するためには、その選挙区の有力者を口説かなきゃいけない。有力者には県会議員や市会議員もいるけど、そういった有力者に「地域の有権者に対して、自分に投票するよう呼び掛けてくれ」と頼むんです。そのためには、時間をかけて信頼関係を築く必要があるから、コミュニケーション構築のために飲み会を開く。この費用が「裏金」なんです。
もう1つは「秘書の給与」です。日本では議員1人につき、給与を国費で負担する公設秘書は3人と決まっている。でもほとんどの議員は3人では足りないから、私設秘書を大勢雇っている。その給与に「裏金」が充てられているんです。
アメリカやヨーロッパでは、選挙に際しての飲食費や秘書給与については、限度額を設けたうえで認めている。その代わり、使ったカネはすべて公開することを義務付けている。つまり透明化しているんです。 これに対して日本は「一切ダメ」なんです。だから裏金化せざるを得ない。僕はこれに関しては、日本の法律が間違っていると思う。欧米のように「すべて公開」という原則をつくるべきだと思います。透明化しない限り、国民は納得できないよね。
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