終わらない告発 自民裏金問題火付け役の上脇博之教授 「あきらめたら議員のおもうつぼ」(2024年8月12日『北海道新聞』)

 

みわき・ひろし 1958年、鹿児島県生まれ。関西大法学部卒。神戸大大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。北九州大(現北九州市立大)の教授などを経て2015年から現職。専門は憲法学。「政治資金オンブズマン」代表

 政治とカネの問題を追及し続け、自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件では捜査のきっかけをつくった神戸学院大法学部教授の上脇博之さん(66)。その結果、多くの派閥が解散し、6月には改正政治資金規正法が成立した。「金の流れの監視は、政治家の暴走を止める切り札」と強調する上脇さんに裏金事件などについて聞いた。

 ――政治資金パーティー裏金事件は、上脇さんの刑事告発東京地検の捜査のきっかけとなりました。

 「きっかけは2022年11月のしんぶん赤旗のスクープ記事でコメントを求められたことでした。その記事ではパーティー券について、政治資金収支報告書では金額が少なかったり、記載されていなかったりする事例が複数見つかったことが示されていました。この記事から、自民党で組織的な裏金がつくられているのでは、と時効にならない2018年から22年までの5年間について独自調査を始め、政治資金規正法違反の疑いで刑事告発を続けたのです」

 ――上脇さんは政治とカネの問題で2000年から告発を続けてきましたが、今回は反響が非常に大きかったそうですね。

 「これまで100件以上の刑事告発をしてきました。パーティー券裏金事件では、議員個人ではなく自民党が党ぐるみで行っていたことが明らかになった。かつてない反響で、今年に入り講演の要請が急に増え、月に10回前後行うようになりました。裏金は使途を確認できず、議員が懐に入れている可能性もあります。発覚が確定申告の時期と重なったことで、国民には苦しい経済状況の中、細かな報告を求められるのに、という不満が膨らんだ。自民党の裏の顔が見えたのだと思います」

「検証 政治とカネ」 自民党政治資金パーティー裏金問題の告発の火付け役となった著者が、政治とカネをめぐる問題の本質を解説

 ――だから捜査や派閥解消、法改正に結びついた。

 「成果がなかったとは言えませんが、喜ぶような結果ではありません。派閥幹部の立件は見送られ、腰砕けででした。派閥も勉強会など名前を変えて復活するのでしょう。規正法の改正も抜け道だらけ。透明化は大切ですが、企業や団体からの献金という〝入り口〟を制限しなければなりません。規正法が規制する企業・団体献金の抜け道となっている政治資金パーティーは全面的に禁止するべきだと思っています。政策活動費は合法的に使途不明金とする仕組みが残り、領収書の公開も時効の5年を超えた10年後。後退した内容になったともいえます」

 ――なぜ、抜本的な見直しができなかったのでしょう。

 「自民党は毎年、政党交付金を上回る金額を繰り越しています。透明性が求められる交付金ではなく、裏金が必要だということでしょう。裏金が多く費やされるのは自民党の総裁選。公職選挙法が適用されないので、勝つために裏金をつくるという流れができてしまった。国会議員の選挙も、地方議員の後援会にフル活動してもらうため、裏金が欠かせない状態になっています。自民党は裏金がないと選挙ができない体質になっているのです」

 ――7月にはこれまでの取り組みや、不正を見抜くノウハウを書いた新著「検証 政治とカネ」(岩波新書)を刊行しました。

 「今回の事件を機に、政治とカネについて多数の報道がありましたが、政治にまつわる金の流れや制度については意外と知られていないのでは、と思いました。分かりやすい内容となるよう口述し、それを書き起こし、説明が足りない部分は加筆するという手法で書き上げました。この本が入り口になり、政治資金収支報告書をチェックすることが国民の日常になれば、という思いもあります」

 ――収支報告書のチェックはとてもハードルが高いように思えます。

 「収支報告書は総務省都道府県の選挙管理委員会が公開しています。僕が理事をしている『政治資金センター』のサイトでも集めた報告書を公表してます。きっかけは好奇心でいい。地元の政治家や関心のある分野の大臣らの報告書を『この人はどういうお金の使い方をしているのか』と見てみたら、今まで知らなかった顔が浮かび上がるはずです。国民が金の流れをチェックするようになれば、政治家は緊張感を持つようになります。刑事責任を問われなくても道義的にどうかと思われる使い方をしていれば、選挙に通らなくなります。主権者が自覚を持って行動することで、真の国民主権につながるのではないでしょうか。僕が告発しなくてもいい世の中になればと思っています」

 ――地方議員のチェックの必要性も強調していますね。

 「国会議員の選挙の手足になっているのが地方議員。地元の政治家が簡単に裏金が作れないようになれば、国会議員にも影響が出てくる。つまり、地方から金権政治を変えることは可能です。2019年の参院選広島選挙区をめぐる買収事件で、僕らが元法相の河井克行氏と妻の案里氏らを公職選挙法違反の疑いで刑事告発したことを機に、広島の市民団体が現金を受け取ったとされた地元議員や後援会関係者を刑事告発しました。このように各地で政治を変えていこうという流れが生まれ、広がっています。一方で地方紙が果たす役割も大きい。地元政治家のカネの問題を報道することは報道機関の使命です。地方紙の報道に触発され、地域の人が収支報告書に目を向ける流れに期待しています」

 ――政治とカネの問題を抑止するために選挙制度改革の重要性も強調しています。

 「衆参とも無所属の人も立候補できる完全比例代表にすればいいと思います。そうすれば一人が不祥事を起こせば、所属政党の支持が下がるので抑止力となります。現行の小選挙区制度は得票数と議席数が比例しておらず、民意が反映されているとは言えません。選挙に行く気持ちになれないのも理解できますが、現状を変えるためには国民が立ち上がるしかないのです」

 ――橋本聖子元五輪相ら北海道の国会議員についても、パーティー券収入を派閥が還流した裏金の虚偽記載が発覚しました。

 「今年に入ってから収支報告を訂正するなど、裏金を『自白』し、結果として立件されなかった国会議員や派閥の告発を続けています。橋本氏が代表だった選挙区支部は19、20年に安倍派から計1855万円の還流金を受領したにもかかわらず、それぞれの年の収支報告書に収入として記載しなかったとして6月に東京地検に告発状を提出しました。不起訴になったら、理由の開示請求をして検察審査会に審査を申し立てる方針です。裏金を得た議員については全員の告発を目指しています。年内に終わるかどうかはわかりません。検察は捜査を終結させたのかもしれませんが、僕は終わらせる気はないので告発を続けます。あきらめたら裏金議員の思うつぼです」

 ――堀井学衆院議員=比例代表道ブロック、自民離党=側が違法に有権者に香典を渡したとして、7月に東京地検特捜部が事務所などを家宅捜索するなど、裏金の発覚を契機に新たな問題も表面化しました。

 「裏金は収支報告書に記載しない収入です。その使途も記載する必要がないので、違法または不適切な支出に充てることが可能です。ですから堀井議員が裏金を香典代に充てた可能性は高いと思っています。現職の議員が突然、公選法違反の寄付をやり始めるというよりも、これまでやってきて告発も捜査もされてこなかったので、堀井議員は繰り返してきたのでしょう」

 ――上脇さんは堀井議員を5月に政治資金規正法違反容疑で東京地検に告発していました。

 「特捜部には、裏金自体の政治資金規正法違反だけではなく、その使途の公選法違反も含めて刑事事件として立件してほしいと思っています」

 ――国民は金権政治への怒りが募る一方、あきらめムードも漂っています。

 「『私の一票では何も変わらない』と思って選挙に行くことをためらっている人が増えているのかもしれません。しかし、政治家はそうしたあなたの一票が怖いのです。裏金を廃絶するには、国民の声を反映した政治改革に取り組む政権をつくるしかありません。おまかせでは民主主義は成立しません。実際に政治資金規正法は改悪され、裏金をつくった議員は政治責任を取らず逃げています。僕の最終的な目標は国民主権の政治の実現。そのためには選挙制度の改革も必須です。ハードルは高く時間はかかるかもしれませんが、粘り強く取り組む必要があると考えています」