返還が遠のけば、さらなる負担増の恐れもある。普天間返還はポーズなのか。米軍が本音をのぞかせた。(中沢誠)
◆20年前にヘリ墜落、危険と隣り合わせ今も
ちょうど20年前の8月13日、飛行場を飛び立った米海兵隊の大型輸送ヘリが、この大学の校舎に激突し、炎上。乗員の米兵3人が負傷した。学生や住民に被害はなかったが、飛散した部品が周辺の住宅に突き刺さるなどした。
今も米軍のヘリやオスプレイが頻繁に飛び立ち、危険と隣り合わせにある状況は当時から何も変わっていない。
かさ上げされた滑走路、戦闘機のオーバーラン防止の設備、足場が組まれた隊舎。
前泊氏によると、毎日のように研究室から基地をながめていると、あちこちで工事が進められている様子がよく分かるという。
前泊氏は「日本側の補修工事だけでなく、米軍も独自に滑走路工事など行っており、施設増強が進んでいる」と指摘する。
米軍普天間飛行場 沖縄県宜野湾市の中心部にある米海兵隊の基地。長さ約2800㍍の滑走路を備える。米軍が太平洋戦争末期の沖縄戦で土地を接収し、建設した。周りに住宅や学校が密集し、たびたび危険性が指摘されてきた。1995年の米兵による少女暴行事件を機に、翌96年、日米両政府が返還に合意。当時、返還は「5~7年以内」としていた。日本政府は1999年に移設先を名護市辺野古にすると閣議決定したが、沖縄での基地負担のたらい回しに県民は反発している。
◆返還時期示しながら基地「延命」
開示されたのは、沖縄防衛局が発注した補修工事の契約名や受注業者、契約額などを記した「普天間飛行場における契約記録一覧」。
開示文書によると、補修工事は2013年から始まっていた。
実は、この年、日米両政府は「早ければ2022年度に普天間返還が可能」との見通しを示していた。
つまり両政府は「早ければ2022年度返還」と打ち出しながら、一方で、基地の延命のための工事に乗り出していたことになる。
沖縄防衛局が発注した事業は、2023年度末までに、格納庫や隊舎、倉庫の改修など18施設で計149件に上り、契約総額は200億円を超えていた。
◆「必要最小限の補修」と言うが…
普天間飛行場の補修工事は、米国側からの要望だった。
防衛省は、「2012年4月の日米安全保障協議委員会の共同発表を踏まえ、普天間飛行場が移設されるまでの間、安全な運用の維持などを図るため、必要最小限の補修として、2013年度から実施している」と説明する。
防衛省は、「必要最小限の補修」と説明するが、開示文書によると、契約額が億単位の工事が並び、完成まで数年がかりの大規模工事も目立つ。40億円以上をかけた雨水排水施設では、「改修」としながら巨大な調整池を基地内に造成していた。
前泊氏は「普天間返還が決まった後に、数百億円をかけて毎年のように施設建設を行う、その矛盾を日本政府はどう説明するのか」と疑問を投げかける。
◆滑走路は米軍が改修
前泊氏が研究室から見えた滑走路のかさ上げは、米軍側で実施したと思われる。
◆返還遅れれば、さらなる負担増も
補修は全体で24施設を予定しており、残りの6施設は今後着手する。防衛省は、最終的な負担額について「確定的に申し上げるのは困難」とする。
ただし、24施設で補修が終わる確約はない。
そもそも当初の計画では、補修は5施設だけだった。2016年になって19施設が追加され、日本の負担額は大きく膨らんだ。
普天間返還が遅れれば、米国側から新たに補修を迫られる可能性もある。
◆当初は「5~7年以内に返還」
今、沖縄をはじめ各地で米兵による性暴力事件が相次いで発覚しているが、普天間飛行場が返還に向けて動き出したのも米兵による性暴力事件だった。
1995年に少女への性暴力事件が発生。すると県民の反基地感情が一気に高まり、翌1996年、普天間返還に日米両政府が合意した。
1996年の返還合意の際には、返還は「5~7年以内」と表明していた。その後、「早ければ2022年度」と軌道修正が図られたものの、実現しないまま今に至る。
◆辺野古移設が「唯一の解決策」なのか
移設先の辺野古では、埋め立て海域に軟弱地盤が見つかり、防衛省は工費の膨張や工期の延長を余儀なくされた。しかも、軟弱地盤を固める改良工事は難工事が予想され、計画通り新基地建設が進むのか先行きは不透明だ。
辺野古新基地建設 普天間飛行場の移設先として当時の沖縄県知事が2013年、辺野古沿岸部の埋め立てを承認。埋め立て海域に軟弱地盤が見つかったため、防衛省は2020年、県に設計変更を申請した。玉城デニー知事は承認せず、法廷闘争に。2023年12月、国が「代執行」で県の同意なしに変更を承認した。計画では、海底に約7万本の砂ぐいなどを打ち込んで地盤を固める。工費は当初の2.7倍の9300億円に膨れ、工期は今後9年3カ月かかると見込む。工事が順調に進んだとしても、普天間返還は2030年代半ば以降となる。
◆米軍「辺野古基地できても返さない」
米軍との懇談の席で、こう豪語する米軍司令官は何人もいたと前泊氏は明かす。
ただ、前泊氏の証言を裏付けるように、米軍が本音をのぞかせたことがある。
2023年11月、沖縄に駐留する米軍が、報道機関向けに開いた説明会でのことだ。
◆「延命どころか基地強化だ」
「たまげたなあ、200億とは。これじゃあ基地の延命どころか強化だ。米軍は、もう普天間を返さないつもりなんじゃないか」
沖縄防衛局が開示した普天間飛行場の補修工事の契約一覧。億単位の契約額が並ぶ
沖縄防衛局から開示された普天間飛行場の補修工事一覧を示すと、宜野湾市の桃原(とうばる)功市議は驚きの声を上げた。長年、基地問題を追及してきた地元のベテラン市議でさえ、大規模な補修工事の全貌をつかめていなかった。
桃原市議は「なかなか辺野古に基地ができないから、普天間の補修が必要だというのは、ゆがんだ発想でしかない。『辺野古が唯一の選択肢』というのは政府の主張であって、そもそも辺野古移設は県民の総意ではない」と訴える。
◆「ただちに普天間の運用停止を」
防衛省沖縄防衛局は、補修工事について「普天間飛行場が移設されるまでの間、安全な運用の維持などを図るため、老朽化が進んでいる施設や設備について、必要最小限の補修を実施するものであり、普天間飛行場の固定化につながるものではない」と主張する。
普天間飛行場のそばで暮らす高橋年男さん(71)は「アメリカの安全基準からも逸脱した危険で違法な運用が続いている。危険性の除去というなら、すぐに返還できないにしても、ただちに普天間の運用停止でしょ。危険な基地をなぜ強化するのか」と憤る。