カスハラ対策 従業員守るために必要だ(2024年5月25日『新潟日報』-「社説」)

 顧客の迷惑行為に毅然(きぜん)と対応する。そのためにはまず、組織が従業員を守る姿勢を明確にする必要がある。カスタマーハラスメント(カスハラ)の深刻さを社会全体で共有することも重要になる。
 顧客が理不尽な要求をするカスハラを巡り、厚生労働省は従業員を保護する対策を企業に義務付ける検討に入った。
 対応マニュアルの策定や相談を受ける社内体制の整備などが検討されるとみられる。「パワハラ防止法」と呼ばれる労働施策総合推進法の改正案を2025年の通常国会に提出する方針だ。
 対策に乗り出す理由はカスハラの増加だ。厚労省が昨年12月に行った企業調査では、従業員からの相談件数がパワハラやセクハラで減少の兆しが見られる一方、カスハラは増加傾向にあった。
 カスハラは一般的に、顧客や取引先が立場を利用し、従業員に威圧的な言動や過剰な要求を突き付ける嫌がらせを言う。
 具体的には暴言や暴行、長時間の苦情、土下座の要求などのほか、交流サイト(SNS)で個人情報を流出させるなどインターネット上でのカスハラもある。
 こうした行為によって精神疾患を発症したり、退職に追い込まれたりする人が相次いでいる。
 日本社会特有の「顧客第一主義」が背景にあるといわれるが、客であれば何をしてもいいというわけではない。
 カスハラ対策を打ち出す企業や組織は増えている。大手ゲームメーカーの任天堂は22年、カスハラがあった場合は修理サービスを行わないことを規定に明記した。
 JR東日本は今年4月に公表した対処方針で、カスハラを受けた場合は「お客さまへの対応をいたしません」と表明した。
 県病院局も今月、患者らによる「ペイシェントハラスメント(ペイハラ)」から職員を守る対策指針を策定した。「暴言型」「時間拘束型」などと類型化した上で、警告書の交付や診療の拒絶といった対応を例示している。
 厚労省が作成した対策マニュアルでは、「店頭で対応せず個室に招いて2人以上で対応」「電話をたらい回しにしない」などと対応例を示している。
 こうした例を参考に、各企業などもカスハラから従業員を守るための対策を進めてほしい。
 ただ、品質やサービスの向上につながる正当な要求もある。企業側に落ち度がある場合ももちろんある。改めて顧客対応の在り方を見つめ直しながら、具体策を検討してもらいたい。
 カスハラは犯罪になるケースもある。問題の深刻さを社会全体で認識することが大事だ。顧客の側も自分は理不尽な要求をしていないか、独り善がりの思い込みをしていないか、常に注意する意識を持たなければならない。