原爆

広島に原爆が投下されて、6日で79年です。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化などで核兵器廃絶の道のりが厳しさを増すなか、被爆地・広島では、犠牲者を追悼するとともに、核兵器が2度と使われてはならないという思いを国内外に訴える1日が続いています。

広島市平和公園で午前8時から行われた平和記念式典には、被爆者や遺族の代表をはじめ、岸田総理大臣のほか109か国の大使などを含むおよそ5万人が参列しました。

式典では、この1年に亡くなった人や死亡が確認された人、あわせて5079人の名前が加えられた34万4306人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、午前8時15分に、参列者全員が黙とうしました。

核による威嚇を繰り返すロシアによるウクライナ侵攻は3年目に入り、パレスチナガザ地区ではイスラエルによる激しい攻撃が続くなど、核兵器廃絶の道のりは厳しさを増しています。

広島市の松井市長は、平和宣言で「国際問題を解決するためには拒否すべき武力に頼らざるを得ないという考え方が強まっている」と懸念を示したうえで、市民社会に対して「心を一つにして行動すれば、核抑止力に依存する為政者に政策転換を促すことができるはずだ」と呼びかけました。

また、日本政府に対しては、来年3月の核兵器禁止条約の締約国会議にまずはオブザーバーとして参加し、一刻も早く締約国になるよう求めました。

岸田総理大臣はあいさつで、「現実的かつ実践的な取り組みを進め、核軍縮に向けた国際社会の機運を高めるべく、国際社会を主導していく」と述べました。

一方、核兵器禁止条約にはふれませんでした。

そして、地元の小学生2人が「言葉にすることさえつらく悲しい記憶は、79年たった今でも多くの被爆者を苦しめ続けています。願うだけでは平和はおとずれません。色鮮やかな日常を守り、平和をつくっていくのは私たちです」と、「平和への誓い」を述べました。

被爆者たちは核兵器の廃絶を訴えてきましたが、平均年齢は85歳を超え、これまでと同じように声をあげ続けていくことは難しくなっているのが現状です。

被爆地・広島では、犠牲者を追悼し、核兵器が2度と使われてはならないという思いを国内外に訴える1日が続いています。

被爆者団体代表 岸田首相と面会

平和記念式典のあと、被爆者団体の代表7人が広島市内のホテルで岸田総理大臣と面会しました。

核兵器禁止条約の締約国会議オブザーバー参加を” 

この中で被爆者団体は「核兵器をなくそうと訴え続けてきたわが国の政府が核兵器禁止条約に背を向けている状況下で、私たち被爆者は海外に出かけて活動することに非常に気後れをして、恥ずかしい思いをしている」と指摘しました。

その上で来年3月に、アメリカで開かれる核兵器禁止条約の3回目の締約国会議に、日本がオブザーバーとして参加するよう求めました。

これに対し岸田総理大臣は、参加については直接言及せず、核兵器禁止条約と日本政府は同じ目標を共有しているとした上で「核実験や核兵器に使う物質そのものを禁止する具体的な取り組みを、核兵器国を巻き込みながら進めることが日本の役割だ」と述べました。

そして「核兵器のない世界に核兵器国を近づける取り組みを進め、核兵器禁止条約に努力している方々とともに核兵器のない世界に向けて、前進していきたい」と述べました。

広島市の小学校で「平和について考える授業」

広島市南区にある広島大学附属小学校では、児童たちが教室のテレビで平和記念式典の様子を見守り、原爆が投下された午前8時15分に黙とうをささげました。

このあと全校児童が体育館に集まって平和学習の授業が行われ、6年生の6人が原爆資料館で展示されている遺品や写真などを見て、原爆によって多くの命が奪われただけでなく、被爆者がやけどや放射線による後遺症に苦しんだことなどを学んだと発表しました。

その上で戦争を起こさないためには、平和の大切さを理解して行動につなげていくことが必要だと呼びかけていました。

5年生の男子児童は「原爆は人の命だけでなく、生き残った人の幸せも奪うおそろしいものだと感じました。きょう学んだことを家族や友達に伝えていきたいです」と話していました。

原爆資料館 国内外から訪れた人たちは

平和記念式典が終わったあと、広島市原爆資料館には、国内外から訪れた人たちが次々と入っていきました。

フランスから訪れたという30歳の男性は「広島で起きたことを振り返ろうと来ました。原爆がどのような結果をもたらしたのか。核兵器を使うのは絶対に良くないし、やめるべきだ」と話していました。

宮崎県から訪れた高校生の17歳の女性は「若いうちに自分の記憶に残しておきたいと思って来ました。写真などで見たものを自分の中に刻み込みたいです」と話していました。

84歳の被爆者の女性は資料館を訪れたあと「当時のことを思い出すし、なぜこうなったのだろうかという思いになります。核兵器を使うのはやめてほしい」と話していました。

岸田首相 被爆者が暮らす原爆養護ホームを訪問 

岸田総理大臣は6日午前、広島市にある被爆者が暮らす原爆養護ホーム「倉掛のぞみ園」を訪れ、およそ40人の入所者を前にあいさつしました。

この中で岸田総理大臣は「皆さん方が経験された悲惨な思いは繰り返してはならないが、一方で皆さんのご経験は若い世代にしっかり引き継いで いかなければならない」と述べました。

その上で「昨年から子どもたちに対面で経験を伝える活動を再開していると伺った。つらい経験や思い出を語りたくないという方も大勢いると思うが、『平和の尊さを子どもたちに伝えなければならない』と勇気を持って努力を続けていることに心から敬意を表したい。引き続き被爆者の支援に力を尽くしていきたい」と述べました。

岸田首相 “拡大抑止の協議で日米の信頼関係高める”

岸田総理大臣は、平和記念式典のあとの記者会見で、アメリカの核戦力などで日本を守る「拡大抑止」について「戦後最も複雑で厳しい安全保障環境にあると言われている中、国民の命や暮らしを守るために日米が『拡大抑止』の協議を通じて信頼関係を高めていくことは大変重要な取り組みだ」と述べました。

また「拡大抑止」への依存は、核兵器廃絶を目指すことと逆行するのではないかとの指摘があることには「私はそうは考えていない。アメリカも日本もそれぞれのリーダーが『核兵器のない世界』を目指すことを確認している。日本とアメリカが未来に向け、道筋を描いていくことが重要だと考えている」と述べました。

そして、アメリカを含めた核兵器保有国も参加する国際的な枠組みなどを通じ、現実的に核兵器廃絶への取り組みを進めていきたいという考えを重ねて示しました。

立民 泉代表 “核軍縮に向け日本のリーダーシップを”

立憲民主党の泉代表は広島市で開かれた平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「原爆の投下から79年が経ったが、これだけ大きな傷を残す戦争は繰り返してはならず、一瞬にして多くの命を奪う核兵器は2度と使われてはならないという思いと決意を新たにした」と述べました。

その上で「具体的な核軍縮核廃絶に向けての日本政府のリーダーシップをもっと強めていかなければならない。われわれが政権をとれば、アメリカと協議し理解を得た上で、日本の自主的な判断として、核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加をしたい。核兵器禁止を訴える世界の国々と連携を図っていくのは当然だ」と述べました。

維新 馬場代表 “首相がオブザーバー参加の体制整備を”

日本維新の会の馬場代表は、広島市で開かれた平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「広島の皆さんの心身の痛みはまだ消えておらず、核兵器のない社会を実現していかなければならないと、きょう改めて誓った」と述べました。

その上で「広島が地元の岸田総理大臣の在任中に、次の核兵器禁止条約の締約国会議に日本政府がオブザーバー参加する体制を整えるべきだ。岸田総理大臣は、核の傘で守られている現実のもと、核兵器を世界から根絶するという相矛盾する目標を成し遂げるとしている。ことばだけでなく行動で示して欲しい」と述べました。

公明 山口代表 “オブザーバー参加求めるビジョン打ち出しへ”

公明党の山口代表は、平和記念式典に出席したあと記者会見し、来年、戦後80年を迎えることから、春をめどに、核廃絶などの取り組みを盛り込んだ「平和創出ビジョン」を打ち出す考えを明らかにしました。

このビジョンでは、日本政府が署名・批准していない核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバー参加するよう政府に求めるほか、AI=人工知能を使った兵器に国際的な規制をかけることなどを盛り込むとしています。

山口代表は「唯一の被爆国としての責務や役割を重く受け止め、政府に強く提案しながらリードし、対話と協調によって分断と対抗を乗り越える日本の役割を推し進める原動力になっていきたい」と述べました。

共産 田村委員長 “「核抑止」の見直し 真剣に議論を”

共産党の田村委員長は、平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「式典のあいさつで岸田総理大臣は、核兵器禁止条約や、締約国会議へのオブザーバー参加にまったく触れなかった。条約をないものとして扱うようなもので異常だと指摘せざるを得ない」と述べました。

その上で「核兵器で相手を脅し、安全保障だとすることはきょうの式典でも岸田総理大臣以外は問題提起した。国会の中でも『核抑止』の見直しを真剣に議論することを求めていく」と述べました。

国民 玉木代表 “日本の役割 具体的な道筋見えず残念”

国民民主党の玉木代表は、平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「世界情勢が厳しい中で式典が開かれ、核廃絶に向けたメッセージを発信したことは評価したい。ただ現実は厳しく、核保有国と非保有国の間や、保有国間の橋渡しで、日本がどのような役割を果たしていくのか、具体的な道筋が見えないことは 残念だ」と述べました。

その上で「来年3月に開かれる核兵器禁止条約の締約国会議に 日本政府としてオブザーバー参加し、被爆の実相を伝えるよう、国会の中でも強く働きかけていきたい」と述べました。

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