核ごみに関する社説・コラム(2024年8月3・8日)

中間貯蔵施設が稼働へ 原発政策の矛盾残るまま(2024年8月8日『毎日新聞』-「社説」)
 
キャプチャ
四国電力伊方原発3号機の使用済み核燃料プール愛媛県伊方町で2013年11月19日午後3時3分、小松雄介撮影
 矛盾から目を背けたまま原子力政策を進めても、国民の信頼は得られない。
 
 原発の使用済み核燃料を敷地外で保管する初の「中間貯蔵施設」が青森県むつ市で稼働する見通しとなった。宮下宗一郎知事が搬入を認めると表明した。
 東京電力日本原子力発電が出資した事業者が運営する。最大5000トンの貯蔵が可能で、最初の12トンが9月までに運び込まれる予定だ。
 9日には県、市、事業者が、貯蔵期間を最大50年などとする安全協定を締結する。だが、住民はさらなる長期化を懸念している。
 政府は、原子力政策の柱に「核燃料サイクル」を位置づけている。使い終えた核燃料を再処理し、プルトニウムなどを抽出して原発で再利用するものだ。
 ところが、中間貯蔵施設からの搬出先に想定されている青森県六ケ所村の再処理工場はトラブルが相次ぎ、完成が繰り返し延期されている。当初予定の1997年から30年近くたっても稼働の見通しはたっていない。
 このため、原発から出る使用済み核燃料は、それぞれの敷地内のプールで保管されている。
 電気事業連合会によると、6月末現在、全国のプールには保管容量の80%近い1万6770トンがたまっている。とりわけ、再稼働に向けた準備が進められている新潟県の東電柏崎刈羽原発7号機では97%に達する。
 敷地内で保管しきれなくなれば運転は続けられなくなる。そこで大手電力は一時搬出先として中間貯蔵施設の整備を急いでいる。
 再稼働を進める関西電力中国電力と共同で、山口県上関町に建設を計画している。
 再処理工場が稼働し、使用済み核燃料を利用できるようになったとしても、その後に生じる「高レベル放射性廃棄物(核のごみ)」の最終処分先は決まっていない。
 原発が「トイレなきマンション」と言われて久しい。難題の解決策を示さないまま、岸田文雄政権は原発回帰にかじを切った。
 課題を将来世代に先送りせず、核燃料サイクルの行き詰まりに正面から向き合って、原発依存から脱却する。その道筋を示すことこそが政治の責任である。

核ごみ文献調査 手法の限界は明らかだ(2024年8月3日『北海道新聞』-「社説」)
 
 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、後志管内寿都町神恵内村で行われた文献調査の報告書案を、経済産業省の特定放射性廃棄物小委員会が了承した。
 2月公表の当初案同様、寿都町全域と神恵内村の一部を次の段階の概要調査候補地とした。
 調査主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は今秋にも報告書を完成させ、両町村長と鈴木直道知事に提出する。
 だが概要調査に進むには首長と知事の同意が必要となる。両町村は住民投票などで是非を問う方針を示している。
 核のごみは無害化するまで10万年かかる。大地震や火山噴火などによる事故時の影響は計り知れない。近隣自治体の多くは反対しており、決して二つの町村だけの問題ではない。
 鈴木知事は概要調査に反対する考えを繰り返し示してきた。核のごみの道内への持ち込みを「受け入れ難い」と宣言した2000年制定の「核抜き条例」に沿うもので当然の対応だ。
 報告書案にも知事の考えは盛り込まれた。NUMOをはじめ国側は重く受け止めるべきだ。
 3年半以上に及ぶ文献調査で明らかになったのは、その手法の限界だ。大地震を引き起こす活断層などを「留意事項」とし、概要調査に先送りした。
 寿都町の磯谷溶岩、神恵内村近くの熊追山(泊村)など火山関連も同様だ。報告書案は「早い段階で確認する必要がある」とした。本来、安全性に少しでも懸念がある場所は、文献調査の段階で除外するべきだ。
 何としても選定手続きを継続したい国側の姿勢が透ける。
 6月に文献調査が始まった佐賀県玄海町もそうだ。国の科学的特性マップでは町内全域が不適地であるにもかかわらず、国側は調査可能と判断し、脇山伸太郎町長も「原発立地自治体の責務」だとして受け入れた。
 最終処分場は科学的、客観的見地から選定するはずだったにもかかわらず、結局、過疎地や原子力へのアレルギーが比較的小さい原発立地自治体に押しつける構図となっている。
 多額の交付金で手を挙げさせ、いったん調査を始めたら立ち止まることなく段階を進める。国民的議論は喚起されないまま、調査を受け入れた自治体の問題として既成事実化する。
 こうした進め方では、最終処分場の最適地を科学的、客観的に選定することはできない。
 委員会では「調査自体が地域の人間関係に影響を信濃毎日新聞与える」との指摘も出た。住民が分断された現実を国は直視すべきだ。

核燃の中間貯蔵 「50年」の約束守れるのか(2024年8月3日『信濃毎日新聞』-「社説」)
 
 原発の再稼働を進めるための、場当たりなごまかしでしかない。
一時的な保管と言い繕って、事実上の最終処分場が地方に押しつけられないか心配だ。
 青森県の宮下宗一郎知事が、むつ市にある中間貯蔵施設への使用済み核燃料の搬入を認めると表明した。県と市は今月、安全協定を事業者と結ぶ。
 原発で一度使い終えた核燃料を再処理するまで保管する施設だ。東京電力日本原子力発電が共同で出資した事業者が運営する。協定は、貯蔵を最長で50年間と明記し、期限までに運び出すことを事業者が約束するという。
 けれど、国内での再処理はいまだ実現せず、確実に運び出される保証はない。そもそも、期限が50年も先の約束に誰がどう責任を負うのか。国策にもかかわらず協定に政府が加わらないことも、責任逃れとしか受け取れない。
 政府は「核燃料サイクル」を原子力政策の柱と位置づけてきた。再処理によってプルトニウムやウランを取り出し、再び利用する構想だ。しかし、要である再処理工場は完成が繰り返し延期され、当初の予定から20年余を経て、稼働する見通しが立たない。
 再処理した燃料を使う高速増殖炉の計画はかつて、燃やした以上のプルトニウムを生む夢の原子炉と喧伝(けんでん)されながら、開発段階の原型炉でトラブルが続き、頓挫した。原発で再び使うプルサーマル発電は苦し紛れの代替策にすぎず、思うように進んでいない。
 再処理に回るはずの使用済み核燃料は、行き場を失って各地の原発の貯蔵プールにたまり続け、容量の限界に近づきつつある。東電が再稼働を目指す柏崎刈羽原発の6、7号機は、9割以上が埋まっている状態だという。
 むつ市の施設には9月までに、柏崎刈羽原発の使用済み燃料がまず運び込まれる。東電は「中間貯蔵と再稼働はリンクしない」とするものの、原発を動かすための急場しのぎなのは明らかだ。
 再稼働を進めてきた関西電力もプールに余裕がなくなり、一時は共同利用を検討した。立ち消えになった後、中国電力と共同で山口県上関町に中間貯蔵施設を建設する計画を明らかにしている。それもまた窮余の策である。
 核燃料サイクルは既に破綻があらわになっている。政府はその現実に向き合い、政策を改めるべきだ。目を背けたまま原発回帰を進め、行き場がなくなった使用済み核燃料を、なし崩しに地方に引き受けさせてはならない。