核ごみ文献調査 手法の限界は明らかだ(2024年8月3日『北海道新聞』-「社説」)

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定を巡り、後志管内寿都町神恵内村で行われた文献調査の報告書案を、経済産業省の特定放射性廃棄物小委員会が了承した。
 2月公表の当初案同様、寿都町全域と神恵内村の一部を次の段階の概要調査候補地とした。
 調査主体の原子力発電環境整備機構(NUMO)は今秋にも報告書を完成させ、両町村長と鈴木直道知事に提出する。
 だが概要調査に進むには首長と知事の同意が必要となる。両町村は住民投票などで是非を問う方針を示している。
 核のごみは無害化するまで10万年かかる。大地震や火山噴火などによる事故時の影響は計り知れない。近隣自治体の多くは反対しており、決して二つの町村だけの問題ではない。
 鈴木知事は概要調査に反対する考えを繰り返し示してきた。核のごみの道内への持ち込みを「受け入れ難い」と宣言した2000年制定の「核抜き条例」に沿うもので当然の対応だ。
 報告書案にも知事の考えは盛り込まれた。NUMOをはじめ国側は重く受け止めるべきだ。
 3年半以上に及ぶ文献調査で明らかになったのは、その手法の限界だ。大地震を引き起こす活断層などを「留意事項」とし、概要調査に先送りした。
 寿都町の磯谷溶岩、神恵内村近くの熊追山(泊村)など火山関連も同様だ。報告書案は「早い段階で確認する必要がある」とした。本来、安全性に少しでも懸念がある場所は、文献調査の段階で除外するべきだ。
 何としても選定手続きを継続したい国側の姿勢が透ける。
 6月に文献調査が始まった佐賀県玄海町もそうだ。国の科学的特性マップでは町内全域が不適地であるにもかかわらず、国側は調査可能と判断し、脇山伸太郎町長も「原発立地自治体の責務」だとして受け入れた。
 最終処分場は科学的、客観的見地から選定するはずだったにもかかわらず、結局、過疎地や原子力へのアレルギーが比較的小さい原発立地自治体に押しつける構図となっている。
 多額の交付金で手を挙げさせ、いったん調査を始めたら立ち止まることなく段階を進める。国民的議論は喚起されないまま、調査を受け入れた自治体の問題として既成事実化する。
 こうした進め方では、最終処分場の最適地を科学的、客観的に選定することはできない。
 委員会では「調査自体が地域の人間関係に影響を与える」との指摘も出た。住民が分断された現実を国は直視すべきだ。