吉本興業も呆れる万博共同座長・大崎洋「二階へのゴマすり」と「事業グレー落札」の闇(2024年7月31日『現代ビジネス』)

自民党の会議でのスピーチ
キャプチャ
松本人志氏と大崎氏 (c)現代ビジネス
「大崎さんも吉本にいればよかったのに、大失敗だ。二階さんにゴマすって、万博に押し込んでもらったのが仇になった」
こう話すのは、自民党の現役国会議員・A議員である。「大崎さん」とは、吉本興業の元会長で、現在は大阪・関西万博催事検討会議の共同座長を務める大崎洋氏(71歳)のことである。大崎氏は吉本興業ダウンタウンなど人気タレントを数多く育て、2009年に社長、19年に会長に就いた。だが2023年4月に吉本興業を退社し、万博の共同座長に就いている。
この大崎氏の背後には、政権与党・自民党の「ドン」二階俊博元幹事長がいると説明するのがA議員である。お笑いの吉本興業と政治が、どこでつながるというのか?
今回現代ビジネスは、興味深い資料を入手した。
《大阪・関西万博推進本部・地方創生実行統合本部合同会議(進行・次第)
令和5年12月20日 14:00
党本部7階704号室》
という案内がそのひとつだ。昨年12月、自民党が万博推進を目的に立ち上げた党内会議の会合の式次第だ。このなかに、
有識者ヒアリング 大崎洋》
という表記がある。大崎氏が自民党の会合に招かれ、スピーチをしたというのだ。
自民党の国会議員以外の出席者も記されており、内閣官房で万博を担当する「国際博覧会推進本部事務局」の官僚だけでなく、経済産業省の審議官、国際博覧会協会の事務総長、総務省、外務省、財務省文部科学省の幹部、さらにネット上の参加ながら大阪府からは副知事が出席するなど、錚々たるメンバーが名を連ねる。
突然はじめた一般社団法人の「PR」
その様子を井上信治元万博担当大臣が、当時、自身のブログで紹介している。つけられている写真には井上氏と大崎氏だけでなく、林幹雄元経産相参議院議員鶴保庸介元沖縄北方対策担当相の姿がある。林氏は言うまでもなく二階氏最側近で、記者会見でも片時も離れない存在だ。また鶴保氏は二階氏と同じ和歌山県選出で、大崎氏と親しい二階派議員である。大崎氏と二階氏の深い関係を示唆する1枚ともいえる。
この会合に出席していたA議員が証言する。
「当日、確か大崎氏は最初10分くらい万博の催事の構想を披露しました。違和感を持ったのはその後のことです。資料に掲載されているある一般社団法人のPRを始めたのです」
A議員は大崎氏が当日、配布した資料を見せてくれた。
《一般社団法人 ソーシャルインパクト 2023.12.20》
という表題の資料は、A4サイズで14枚になるもの。大崎氏はこの団体で「発起人 ソーシャルインパクト フェロー」と紹介されている。さらにここには「共同座長」という万博の公的な肩書も入っている。
資料にはソーシャルインパクトが経産省の万博関連の事業を受注するという内容もあり、以下の記述がなされている。
《連携だけではなく調査事業も実施
大阪・関西国際博覧会政府開催準備事業
(大阪・関西万博におけるアクションプランの調査事業)
2023年12月13日 採択》
ここで書かれている調査事業とは何か。経産省の発注資料などによれば、この事業は2023年11月に公開され、同年12月7日が入札日。経産省の資料公開が終了するのは12月13日で、契約日は翌年1月25日とある。
1月25日、2600万円あまりで契約したのが「一般社団法人ソーシャルインパクト」だった。大崎氏は、共同座長という万博に深く関与している立場でありながら、自らが幹部を務める団体で経産省の事業を受注しているのだ。しかも契約日は1月25日なのに、その1ヶ月前の12月20日に件の自民党会合で「実施」と明かしている。一連の流れは「万博の政治利用」に加えて、「インサイダー」とみられかねない。
A議員は明かす。
「大崎氏が政治との関連を深めたのが、二階元幹事長につながる人脈です。万博の共同座長というステータスを手にできたのもその関係と聞いたことがあります」鶴保氏とのただならぬ関係
A議員は、大崎氏と二階氏をつないだ人物として、先の会合にも出席していた鶴保庸介氏の名前をあげた。鶴保氏は、旧二階派和歌山県選出の当選5回のベテランで、野田聖子総務相の夫(現在は離婚)だったことで、永田町の「有名人」である。
 
この証言を裏付けるように、吉本興業の幹部も明かす。
「鶴保氏と昵懇だった大崎氏は、その縁もあって二階氏に取り入り、共同座長に就任したと聞きました」
現代ビジネスは、大崎氏が吉本興業会長時代に作成された資料を入手した。大崎氏と鶴保氏のベタベタの関係を明かすその日程表にはこう記されている。
《大崎会長と参議院議員鶴保庸介氏(元内閣府特命担当大臣 和歌山)
2017年
(1) 4月7日(金) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
スイスホテル南海大阪
(2) 11月2日(水) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
2018年
(1) 4月6日(金) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
スイスホテル南海大阪 ※この会、大崎さんが「講演」
(2) 11月8日(木) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
2019年
(1) 4月12日(金) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
(2) 11月29日(金) 18:00~ 「鶴保庸介君と明日の日本を語る会」
スイスホテル南海大阪》
コロナ禍前まで、年に2回開催されている鶴保氏の政治資金パーティーに大崎氏が大阪のみならず東京でも欠かさず出席しており、親密な関係にあったことがわかる。
経産省幹部も「頭が痛い」
上記記述にもあるように、大崎氏は2018年4月の政治資金パーティーでは講師も引き受けている。鶴保氏の後援会冊子、2018年秋号でも大崎氏が「関西元気でわろてんか!」というタイトルで講演した様子が掲載されている。
「政治とは縁遠いと思われがちですが、吉本興業はこれまで政府や大阪府大阪市などの公共事業が経営の柱の一つでした。政治とは実に深い関係があり、緊密にやっています。それを象徴するのが万博へのパビリオン出展でした。
しかし万博という世界的イベントを控えて、疑われること自体が問題だと、4月末にコーポレートガバナンスの強化等についてという発表をしています」
こう語る吉本興業の幹部は「大阪・関西万博では中立性を保つため、関連事業を受託しないことを取締役会で決定した」と断じる。
吉本側の「コーポレートガバナンスの強化」は、大崎氏が発起人を務める一般社団法人での落札とまるで逆行するものだ。退社している大崎氏は吉本興業と直接の関係を持たないものの、前出の幹部は「吉本興業も飛び火しかねず、困ったものだ」と言う。
また、経産省の幹部もこう打ち明ける。
「大崎氏はもう民間の吉本興業ではなく万博の共同座長という公的な立場だ。ところが元経産相でもあった二階氏がバックにいて、鶴保氏とも関連が深いなかで、万博関連で事業落札というのは、やりすぎではないかという声も聞く。頭が痛い問題だ。
傷が深くならないうちに万博から手を引いてほしいというのが本当のところ。二階先生も政界引退を決めており、今さら顔立てする必要もないでしょう」
「現代ビジネス」は大崎氏の携帯電話に連絡をとったが、応答がない。SMSを入れても既読はつくが、スルー。そこで、大崎氏が吉本興業の会長時代に同社の社外取締役をつとめ、現在は件の「ソーシャルインパクト」代表理事を務める、元官僚・中村伊知哉氏の話を聞こう。
「大崎氏と政治の関係まではよくわからない。一緒に政治家のパーティーにも行ったことはない。ソーシャルインパクトが大崎氏の政治力をつかって事業を受注するようなことはありません」
国際博覧会協会の幹部はこう語る。
「万博は建設遅れ、爆発などで叩かれ、入場券も売れていない。ダウンタウン松本氏のスキャンダルでもイメージダウンが懸念される。大崎氏も座長なんだから、グレーな噂が飛び交わないようにとしてほしいのですが……」
ダウンタウン松本人志は、万博のアンバサダーを今も務め、大崎氏はその「後見人」でもある。女性スキャンダルに揺れる松本の民事訴訟の進行によっては、万博開幕のタイミングで、証人尋問や判決などの山場が重なる可能性がある。
「それでなくとも、維新の低迷で万博のイメージダウンは顕著です。大崎氏の疑惑に加え、松本の裁判も重なれば万博はさらなるダメージを受ける」(前出・A議員)
吉本興業の幹部もこう語るのである。
「松本は女性スキャンダルの裁判で身動きがとれず、大崎氏も万博の疑惑で身動きがとれなくなっている。大崎氏が松本に『裁判をすれば』と進言したという話もあるが、そのことが事態を複雑化させた。吉本一番の人気者と、育ての親があまりに似た境遇で、もう言葉もない。吉本としても困っているが、どうにもできない」(吉本興業幹部)
大崎氏の万博への「転身」は果たして正解だったのだろうか。
 
 
現代ビジネス編集部