「万博反対の者」の犯行って言ったけど
「玉川徹氏の『出禁発言』に続いて、ヤバいことになりそうだ」 大阪府の幹部はこう言って頭を抱える。吉村洋文知事の「失言」だ。
【写真】再逮捕された「美人すぎる寝屋川市議」の写真集全カット
ことの発端は、3月13日、大阪市役所の正面玄関に飾られていた2025年の大阪・関西万博公式キャラクター、ミャクミャク像の顔が鉄製の看板で傷つけられているのが発見されたことだった。大阪市は警察に被害届を提出し、捜査がはじまった。
その際、吉村知事は3月14日の記者会見でこう語った。
「万博に対して反対であっても、暴力行為は控えてほしい」 「(犯人は万博に反対する人である)可能性は高い」 「ミャクミャクは万博の象徴的なキャラクター。意図的に故意に傷つけられた。万博に否定的な意見を持っている人ではないか」 ミャクミャク像を傷つけた犯人が「万博反対の者」と断定するかのような発言を繰り返したのだ。そしてX(旧ツイッター)でも、ミャクミャクの像が破損している部分の写真をアップした。
また、日本維新の会の音喜多駿参議院議員もXで 《これは酷い。どれだけ万博に反対意見をもっていたとしても、暴力・破壊行為に及んではならない》 と吉村知事と同様の見方を示した。
大阪府警は4月19日、大阪府寝屋川市の社会医療法人の男性職員A(45歳)を、器物損壊の疑いで書類送検した。捜査関係者が語る。
「A氏は深夜まで酒を飲んでいて、自宅のある寝屋川市に京阪電車で帰ろうと駅に行ったが終電が出ており、乗れなかった。イライラしながら歩いていると、ちょうど大阪市役所前に設置されていたミャクミャクの像を見つけた。
うさ晴らしするかのように、近くにあった鉄製の看板を用いて、何度も叩いて傷をつけた。それがニュースになると『大変なことになった』とA氏は弁護士とともに警察に出頭、それで犯行がわかったのです。
大阪府から大阪府警に支出される予算は毎年3千億円近くになり、そのトップの吉村知事の記者会見の指摘もあったので動機などを調べたが、単なる酔っ払い。万博反対など政治的な意図はなかったことがわかった」
33万円の修理代
修復されたミャクミャク像
傷ついたミャクミャクの像の修理代は33万円で、弁償する意向をA氏は示しているという。
「現代ビジネス」はA氏の自宅を訪ねたが不在だった。そこで勤務していた社会医療法人の関係者に話を聞くと、こう答えた。
「A氏はベテランの事務系スタッフで温厚な方、万博反対など、政治的な主張を声高にするような人ではない。
それどころかうちの法人では高齢者施設も運営しており、お年寄りから機会があれば万博に行きたいねと話が出るほどです」
吉村知事の言う「万博反対の者による犯行」ではないことは明らかだ。だが吉村知事の「失言」は冒頭にも書いたようにこれにとどまらない。
3月23日、大阪府茨木市で開催された大阪維新の会のタウンミーティングで、吉村知事はこう発言している。
「今(万博を)批判しているね、名前言いませんけど、『モーニングショー』の玉川徹。万博を批判するのはいいけど、入れさせんとこうと思う。入れさせてくれ、これ見たいと言っても、禁止って言ったろうかな。もうモーニングショーは禁止ちゅうて、玉川徹、禁止と言うたろうかなと」
テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』のコメンテーターの玉川徹氏は万博開催に批判的だが、この玉川氏は万博に「出禁」と言わんばかりに批判したのだ。外務省のホームページは《平和の象徴として、そして世界各国の人たちの交流の場》と万博の意義を記している。だが吉村知事は、万博の主体である「2025年日本国際博覧会」の副会長でもあり、弁護士でもある。優越的な地位を振りかざして、批判する者は「出禁」と明言しているのだ。
《イッツ・ア大阪ジョーク。わからんかな? 》
と吉村知事を擁護するかのポストをSNSで投稿した。
吉村知事も
「公務の場では発言していない。政治的な発言は一定程度、自由にさせてほしい」
「本当に出禁にする権力があれば問題ではあるが、できない前提だ」
と反論していた。
相次ぐ失言はなぜ起こる
その後、維新の創立者である大阪府の元知事、橋下徹氏が 「マズイ発言だ。維新の政治集会の発言でも、ちょっとやりすぎだと思う」 とテレビ番組で苦言を呈したことで、風向きが変わったのか、吉村知事は4月10日の記者会見でこう話した。
「これはいくら政治集会の場であったとしても、僕は言い過ぎたというふうに思います。僕が間違っていたと思います。この点については、撤回をして、玉川さんに謝罪を申し上げます」
「失言」を撤回して謝罪に追い込まれたのだ。吉村知事はコロナ禍でも「国産ワクチン」「うがい薬がコロナに効果」など「失言」が絶えなかった。衆議院補欠選挙では吉村知事が何度も応援に入る東京15区の維新候補の支持が伸び悩む。地元大阪でも、藤田文武幹事長の大東市長選でも維新候補が惨敗し、吉村知事と維新は下降線をたどるばかりだ。
大阪維新の会の幹部は沈痛な面持ちでこう語る。
「これまで少々の失言も人気で、押し切ってきた吉村知事ですが、橋下氏に指摘されたのが大きかったのか、発言を撤回しました。会見の日はとても機嫌が悪く、まわりは声もかけづらい状況だったと聞いている。維新の看板政策、万博もガス爆発の事故が起こったり、パビリオン建設が相変わらず遅れていたり、吉村知事もイライラしていて失言が相次いでいるのでしょうか。吉村知事は維新の顔である以上、これはヤバい」
4月には、静岡県の川勝平太知事が職業差別とも思われる「失言」が理由で辞職に追い込まれた。自民党の大阪府議はこう語る。
「吉村知事はこれまで失言を繰り返しながらも責任はとらない、ごまかすことが続いておりあまりにひどい。進退を考えるべき」 前出の維新幹部は「辞任など大ごとにならないように、炎上が鎮まるのを祈るばかり」という。現代ビジネスで「維新戦記」を連載していた米山隆一衆議院議員は、かつて維新に所属し、新潟県知事を経験、弁護士でもある。吉村知事の一連の「失言」について米山氏に見解を聞いた。
「ミャクミャクの像を傷つけた人を最初から『万博を反対する人』と決めつけるなど、とんでもないことです。玉川さんへの『出禁』発言は、誹謗中傷ではないか。吉村知事の発言は万博に反対する人は、社会からつまはじき、仲間外れするぞと言わんばかりで、反対派への圧力になる。言論、表現を萎縮させるものです。いかにも『維新』という発言ですが、吉村知事は政治家であり、かつ人権を最も尊重しなければならない弁護士でもあり、言語道断だ」 相次ぐ炎上への批判に、吉村氏は聞く耳を持つのだろうか。
現代ビジネス編集部
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