米兵の少女暴行に関する社説・コラム(2024年6月26・27・28・29・30日・7月2・3・12・24・25日・8月3日)

宿題は難題(2024年8月8日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 今年の東京大学の入学式で新入生に宿題が出た。総長の藤井輝夫さんが述べた式辞にある「構造的差別」を知り、解消に向け叡智(えいち)を尽くせ―との難題である
 
▼藤井さんは「構造的差別」を「特定の属性を持つひとが、等しい機会を得られずに排除され、あるいは人一倍の努力をせざるを得ない状況」と定義する。属性とは性別や身体的特徴、居住地域などを指す。それが障壁となり、権利行使が理不尽に阻まれることがある
沖縄大学元学長の新崎盛暉さんは地域の視座から「構造的沖縄差別」を問うた。米軍基地の過度な偏在で生じる危険は耐えがたい。ゆえにこれ以上の基地負担は勘弁してほしい。そんな民意が他県と同じ重みでくみ取られない差別を訴えた
▼相次ぐ米兵による性的暴行事件への抗議について憲法研究者は言う。「沖縄という地域、そして住民に苦悩を背負わせておきながら恥じない。これが日本政府ではないか」
▼東大総長の宿題は「責任の所在は政府にあり」がヒントか。政府が据える「構造的差別」の壁は高く、正当な要求を幾度も阻んできた。どう乗り越えるか。新入生に限らず国民に課された難題である。

沖縄米兵事件と外務省 隠蔽の疑いがぬぐえない(2024年8月3日『毎日新聞』-「社説」)
 
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在沖縄米兵による性的暴行事件を受け、上川陽子外相(左)に抗議文を手渡す沖縄県玉城デニー知事=東京都千代田区で2024年7月3日午後5時14分、渡部直樹撮影
 沖縄県に駐留する米兵による性的暴行事件で、なぜ米軍や外務省はルール通りに動かなかったのか。防衛省と県に通報しないという判断を誰がしたのか。疑問は深まるばかりだ。
 米空軍兵が昨年12月、16歳未満の少女に性的暴行を加えたとされる事件が起きた。報道で明るみに出たのは、半年後の今年6月だった。外務省は捜査当局から情報提供を受け、米側に抗議したが、防衛省や県には伝えなかった。
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 この他にも昨年から今年にかけて米兵による性的暴行事件が4件起きたが、いずれも県に通報されなかった。
 1995年の少女暴行事件を受けて、日米両政府は97年、米軍の事件・事故が発生した際の通報手続きを決めた。米軍が米国大使館を通じて外務省に伝えるルートと、直接、沖縄防衛局へ伝えるルートなどが定められている。連絡を受けた外務省は、防衛省や県に情報を伝える。だが、手続きは形骸化していたと言わざるを得ない。
 問題は、衆参両院の閉会中審査で集中的に取り上げられた。
 上川陽子外相は「被害者のプライバシー保護」を理由に事件を非公表とした捜査当局の判断を踏まえ、「防衛省に情報を提供しなかった」と説明した。首相官邸には伝えられていた。
 上川氏はさらに「日米間でも適切にやり取りを行い、迅速な対応が確保され、問題があったとは考えていない」と言い切った。ことの重大性への認識を欠いている。
 警察庁幹部は「外務省に対し通報手続きを行わないよう求めた事実はない」と明言した。
 非公表だから情報共有しなかったという外相の説明は、説得力が乏しい。県などに知らせなかった対応は、被害者の人権を軽視していると見られても仕方ない。
 事件発覚までの半年間には、4月に岸田文雄首相の訪米、6月に沖縄県議選があった。政治・外交日程に影響が出ることを恐れ、隠蔽(いんぺい)が図られたのではないかとの指摘が出ている。
 日米両政府は対応策をそれぞれ発表した。だが、小手先の対策をいくら打ち出しても問題は解決しない。関係者間でどのようなやり取りがあったのか。徹底した検証が必要だ。

 
米兵事件共有されず 恣意的な判断なかったか(2024年7月15日『琉球新報』-「社説」)
 
 情報共有・通報体制は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。昨年12月の米兵少女誘拐暴行事件、今年5月の米兵女性暴行事件について、首相官邸に情報が入っていた一方、防衛省は報道で明るみに出るまで把握していなかった。今回の事件は県や市町村にも情報が伝達されてなかったばかりか、政府内でも情報共有されていなかったのだ。
 
 米軍人・軍属による事件・事故の通報手続きは、1997年3月の日米合同委員会で合意されている。この中では、事件・事故が発生した際には米大使館から外務省へ通報する経路と、米軍側から防衛局に通報する経路がある。
 今回、米大使館から外務省に積極的な通報はなく、外務省が把握した後で大使館との情報共有が始まった。一方、在沖米軍から沖縄防衛局へ通報はなく外務省から防衛省への通報もなかった。
 県や市町村への通報は防衛局がその役割を担う。米軍、外務省はなぜ防衛省・沖縄防衛局に通報しなかったのか。
 今回の事件に関しては、沖縄県警からも県に情報提供されていない。県警側はその理由に「プライバシー保護の観点」を挙げる。外務省は県警の対応を受け、通報しなかったと説明している。
 外務省や県警は、県や市町村に通報すると被害者のプライバシーが守れないと認識しているのだろうか。被害者の2次被害防止、プライバシー保護は当然であり、関係機関が一致して取り組まなければならない。そのためにも情報共有は前提となるべきだ。
 誘拐暴行事件は3月に米兵が起訴されたが、翌4月には日米首脳会談が予定されていた。事件は首相官邸に伝達されており、岸田文雄首相も知っていた可能性がある。しかし首脳会談で岸田首相からバイデン大統領に抗議した形跡はない。首相官邸、外務省に日米首脳会談に影響を及ぼさないような配慮があったと疑わざるを得ない。
 林芳正官房長官は情報共有について見直しを表明したが、今回の米軍や外務省の対応を検証しなければ、情報提供に恣意(しい)的な判断が入る余地を残さないだろうか。
 速やかな情報伝達は、被害者への適切なケアや補償、行政と地域が連携した被害防止、綱紀粛正要請による再発防止など住民の生命・財産を守るためには不可欠だ。
 1995年の米兵少女乱暴事件を機に、政府は在沖米軍基地問題を重要課題に位置づけてきたが、辺野古新基地建設を巡る対立が長期化する中、政府内の関心低下も指摘される。しかし、県民が望まぬ米軍基地の駐留から派生する事件・事故への適切な対応は、自国民を守るための最重要の責務である。
 県民の生命・財産と相反する日米安保体制は許されるものではない。同時に、長引く県と政府の対立が県民の安全に影響するようなこともあってはならない。

 
私たちの「怒り」(2024年7月13日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 広瀬すずさん演じる沖縄の女子高生・泉が米兵から性的暴行を加えられる―。2016年公開の映画「怒り」。芥川賞作家・吉田修一さんの同名小説が原作のフィクションだが、胸が張り裂けそうになった
▼「いくら泣いたって、怒ったって、誰も分かってくれないんでしょ。訴えたってどうにもならないんでしょ」。やり場のない怒り、無力感が漂う劇中の泉の言葉。さらに胸をえぐられた
▼米兵らによる性的暴行事件がまた発生した。「人間としての尊厳を蹂躙(じゅうりん)する極めて悪質な犯罪」。県議会が全会一致で可決した抗議決議は蛮行を厳しく非難する。県民の代弁者として当然だ
▼だが、沖縄の声は響いていないようだ。米側が発表した対策は遅きに失した。謝罪はいまだ一切ない。事件を「遺憾」と表現するエマニュエル駐日米大使らの声明は沖縄の怒りを人ごとと捉えていないか
▼悲劇を繰り返してはいけない。抜本的な解決のため、沖縄が置かれている現状を変える時だ。「どうにもならない」と諦めてはならない。今のままでは、怒りは収まらない。

キャプチャ
 
解説
吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來松山ケンイチ広瀬すず綾野剛宮崎あおい妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。( 映画.com)
 
2016年製作/142分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2016年9月17日
 
 

米兵による性暴力 具体的な防止策を示せ(2024年7月13日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 本島中部で16歳未満の少女を誘拐して性的暴行をしたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪に問われた米空軍兵(25)の初公判が那覇地裁で開かれた。
 県警が公表せず、起訴から3カ月後に明らかになり、県に情報提供がなかったことも問題となった事件だ。
 検察側の冒頭陳述によると、被告は昨年12月24日、公園にいた少女に「軍の特別捜査官だから」などと言い、「寒いから車の中で話さない?」などと誘って、車に乗せて自宅に連れ込み暴行した。
 少女が、ジェスチャーを交えながら日本語と英語で年齢を告げたことや、帰宅後、泣きながら母親に被害を訴え、母親が110番通報したことも明らかにした。
 これに対し被告は、罪状認否で「私は無実だ。誘拐も性的暴行もしていない」と起訴内容を否認した。少女を18歳と認識していたと主張した。
 検察側と被告側の言い分は異なった。
 被告が問われている不同意性交罪は、2023年の刑法改正で強制性交罪から名称を変えた。
 暴行・脅迫や恐怖・驚愕(きょうがく)、地位利用など8項目の要因で、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態にさせ、性的行為に及んだ場合に処罰する。
 被害者が13~15歳の場合、5歳以上年上の行為は暴行や脅迫などがなくても処罰対象となる。
 8月23日には被害者と被害者の母親が証人尋問、30日には被告人質問がある。全容が明らかになるのはこれからだ。プライバシーがしっかり守られる環境をつくってほしい。
■    ■
 公判前日、花を手に街頭で性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が那覇市で行われた。
 いつもより多い約70人が参加し、無言で抗議する「サイレントスタンディング」の後に緊急集会を開いた。
 主催者の一人である高里鈴代さんは「日米の同盟関係のために女性の人権がないがしろにされているのが事件の本質」と語り、怒りをあらわにした。
 今回の事件も、基地がなければ起きなかったはずの事件だ。
 戦後79年、復帰52年がたった今も、性犯罪の年表には加筆が続いている。
 事件の一つ一つを明らかにして、この流れを止めなければならない。
■    ■
 暴行事件を受け、エマニュエル駐日米大使と在沖米軍トップ四軍調整官のロジャー・ターナー中将は連名で、見解を発表した。
 対策として、勤務時間外行動指針(リバティー制度)を全部隊に導入することなどを示した。しかし具体的な内容には触れていない。
 対策が沖縄の怒りを収めるためのポーズに映るのは、県や地元自治体との対話を置き去りにしているからだ。
 沖縄では基地が女性の人権を侵害する「暴力装置」のような存在になっている。
 地位協定の改定など抜本的な解決に乗り出さない限り、再発を防ぐことはできない。


米兵の性犯罪 地元への公表を徹底せよ(2024年7月25日『西日本新聞』-「社説」)
 
 米軍関係者による性犯罪は国民の対米感情を著しく悪化させる。それを避けたい政権への行き過ぎた配慮と疑われても仕方ない。
 沖縄をはじめ米軍基地が立地する長崎、山口、神奈川、青森でこの数年、各県警が米兵ら軍関係者が起こした性犯罪を報道発表せず、県にも伝えていなかったことが明らかになった。
 長崎県では2016年に強制わいせつ容疑で、17年には準強制わいせつ容疑で軍関係者が書類送検されていた。
 国内には30都道府県に米軍基地や関連施設がある。基地のない地域での発生を含め、米兵らの性犯罪は他にも隠されているのではないか。
 各県警は公表しなかった理由について被害者のプライバシー保護などを挙げている。だが事件の状況に応じて被害者情報、発生地域などを適切に伏せて公表すれば被害者の人権を守ることはできる。
 基地周辺の住民にとって、軍関係者の犯罪は暮らしの安全に関わる重要な情報だ。特に性犯罪の発生を公表することには大きな公益性がある。
 この問題で山口県の村岡嗣政知事が「犯罪予防の観点からも関係自治体に対する適時適切な情報伝達は必要」と指摘したのは当然だ。公表によって住民の警戒心が高まり、再発の抑止力にもなろう。
 公表の是非は都道府県警が判断しているという。警察庁は全国一律に公表するよう指導すべきだ。
 沖縄では3月と6月に在沖縄米兵2人が性的暴行事件で起訴されていたことが公表されず、報道で判明した。県への連絡もなかった。これ以外にも米軍関係者の性犯罪が昨年以降3件発生し、いずれも県警は発表していない。
 地元の強い反発を受けた政府は、捜査当局が米軍人を容疑者と認定した性犯罪事件は例外なく沖縄県に伝達すると表明した。全国で同様の対応を取る必要がある。
 米兵少女暴行事件を契機に日米両政府は1997年、在日米軍による事件や事故に関し、米側が日本の関係機関と地域社会へ直ちに連絡することに合意した。
 昨年来の沖縄の事件では、この取り決めが守られなかった。今回判明した4県についても県は事件発生を把握しておらず、伝達ルートが機能していなかった可能性がある。合意の形骸化は明らかだ。日本政府は米国に合意を履行させなければならない。
 4月に会談した岸田文雄首相とバイデン米大統領は、日米同盟が「前例のない高みに到達した」と世界にアピールしてみせた。足元はどうか。日米安全保障体制を支える在日米兵らの犯罪が、基地周辺住民の生活を脅かしている現状は言語道断だ。
 岸田首相は実効性のある犯罪防止策を断行するよう米国に迫るべきだ。米兵の横暴を許す根本原因である日米地位協定の見直しにも、真剣に向き合う責務がある。

どうも変(2024年7月25日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 どさくさにまぎれ、随分と後退していないか。米兵による相次ぐ性的暴行事件が県などへ通報されなかった問題で政府が改めて対応策を示した。その内容がどうも変だ
林芳正官房長官は5日の会見で通報体制の運用をこう述べた。「捜査当局による事件処理がしかるべく終了した後」に県などへの通報手順に入るという。1997年の日米合同委員会で合意した通報基準と違っている
▼基準の記載をお忘れか。日米合意は「事件・事故発生情報を得た後できる限り速やかに」とある。通報は「発生」が基準のはずだが、なぜ捜査終結の「事件処理後」になるのか
▼加えて通報手順に関して林氏は「刑事訴訟法47条の趣旨を踏まえ」とも言う。この条文は事件関連書類の公判開廷前の公表を原則禁じている。これにならえば「事件処理後」も超えて、さらに通報時期は先延ばしになる
▼こんなに通報時期に幅があって、緊急な犯罪で対応が可能なのか。仮に容疑者が事件を否認した場合はどうなるのか。一層あいまいになった政府の「対応策」。これは見過ごせない。

米軍事件で新枠組み 実効性が厳しく問われる(2024年7月24日『琉球新報』-「社説」)
 
 これでは屋上屋を架すような対応だ。これで米軍人・軍属による卑劣な性的暴行事件を防ぐことができるのか、実効性が厳しく問われている。
 
 在沖縄米兵の性的暴行事件が相次いで発覚した問題で、在日米軍司令部は日本政府と連携して、在日米軍幹部、沖縄県、地域住民による新たな枠組みとなる「フォーラム」を創設すると明らかにした。沖縄県警との合同パトロールに向け、米軍のパトロール回数を増やす方針だという。
 現時点で詳細は明らかになっていないが、今回の方針には首をひねらざるを得ない。米兵らが引き起こす事件・事故について協議する枠組みや組織は既に存在している。それが機能しないまま休眠状態になっているのである。
 稲嶺恵一県政当時の2000年、「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」が始動した。しかし、県の開催要求にかかわらず7年ほど開催されていない。さかのぼれば、西銘順治県政当時の1979年にも在沖米軍、国、県による三者連絡協議会が発足したが、2003年の開催を最後に自然消滅した。
 いずれの枠組みも、米軍基地の運用に関わるような具体的な協議に米側が消極的なために機能しなくなったとされる。今回、在日米軍の提案で創設される「フォーラム」も同じような状態に陥る可能性がある。新たな枠組みを設けたところで実効性を発揮しなければ意味をなさない。単なるアリバイづくりである。
 そもそも米軍事件・事故の通報体制について定めた1997年の日米合同委員会合意すら形骸化している。日米合意が履行されないまま米軍事件が繰り返されているのだ。
 「フォーラム」を創設する米軍と日米両政府は過去の2組織の機能停止について検証し、新組織で何を目指すのか、何を対象に協議するのか具体的に決める必要がある。基地の運用に関わるからといって米側が参加を渋るようなことがあってはならない。
 在日米軍司令部の発表で県警と米軍の合同パトロールに言及していることも看過できない。合同巡回はこれまでにも米兵事件の再発防止策としてたびたび浮上した。
 2012年には県内で相次いだ米兵事件を受け、森本敏防衛相(当時)が米軍側に那覇市内などで実施する夜間巡回を県警と共同で行うことを検討するよう要請した。
 だが、県警側が日本の警察権が円滑に行使できないと懸念を示し、実行されなかった。県警が、身柄の措置で問題が起きる可能性や、既存の警察力の低下を招く恐れがあることを危惧したのだ。
 逮捕権や捜査権がないがしろにされるような事態を招いてはならない。玉城デニー知事は「具体的な内容が速やかに示されることを期待する」とコメントした。主権を侵害する恐れのある合同巡回を安易に認めてはならない。

米兵事件共有されず 恣意的な判断なかったか(2024年7月15日『琉球新報』-「社説」)
 
 情報共有・通報体制は機能不全に陥っていると言わざるを得ない。昨年12月の米兵少女誘拐暴行事件、今年5月の米兵女性暴行事件について、首相官邸に情報が入っていた一方、防衛省は報道で明るみに出るまで把握していなかった。今回の事件は県や市町村にも情報が伝達されてなかったばかりか、政府内でも情報共有されていなかったのだ。
 
 米軍人・軍属による事件・事故の通報手続きは、1997年3月の日米合同委員会で合意されている。この中では、事件・事故が発生した際には米大使館から外務省へ通報する経路と、米軍側から防衛局に通報する経路がある。
 今回、米大使館から外務省に積極的な通報はなく、外務省が把握した後で大使館との情報共有が始まった。一方、在沖米軍から沖縄防衛局へ通報はなく外務省から防衛省への通報もなかった。
 県や市町村への通報は防衛局がその役割を担う。米軍、外務省はなぜ防衛省・沖縄防衛局に通報しなかったのか。
 今回の事件に関しては、沖縄県警からも県に情報提供されていない。県警側はその理由に「プライバシー保護の観点」を挙げる。外務省は県警の対応を受け、通報しなかったと説明している。
 外務省や県警は、県や市町村に通報すると被害者のプライバシーが守れないと認識しているのだろうか。被害者の2次被害防止、プライバシー保護は当然であり、関係機関が一致して取り組まなければならない。そのためにも情報共有は前提となるべきだ。
 誘拐暴行事件は3月に米兵が起訴されたが、翌4月には日米首脳会談が予定されていた。事件は首相官邸に伝達されており、岸田文雄首相も知っていた可能性がある。しかし首脳会談で岸田首相からバイデン大統領に抗議した形跡はない。首相官邸、外務省に日米首脳会談に影響を及ぼさないような配慮があったと疑わざるを得ない。
 林芳正官房長官は情報共有について見直しを表明したが、今回の米軍や外務省の対応を検証しなければ、情報提供に恣意(しい)的な判断が入る余地を残さないだろうか。
 速やかな情報伝達は、被害者への適切なケアや補償、行政と地域が連携した被害防止、綱紀粛正要請による再発防止など住民の生命・財産を守るためには不可欠だ。
 1995年の米兵少女乱暴事件を機に、政府は在沖米軍基地問題を重要課題に位置づけてきたが、辺野古新基地建設を巡る対立が長期化する中、政府内の関心低下も指摘される。しかし、県民が望まぬ米軍基地の駐留から派生する事件・事故への適切な対応は、自国民を守るための最重要の責務である。
 県民の生命・財産と相反する日米安保体制は許されるものではない。同時に、長引く県と政府の対立が県民の安全に影響するようなこともあってはならない。

 
私たちの「怒り」(2024年7月13日『琉球新報』-「金口木舌」)
 
 広瀬すずさん演じる沖縄の女子高生・泉が米兵から性的暴行を加えられる―。2016年公開の映画「怒り」。芥川賞作家・吉田修一さんの同名小説が原作のフィクションだが、胸が張り裂けそうになった
▼「いくら泣いたって、怒ったって、誰も分かってくれないんでしょ。訴えたってどうにもならないんでしょ」。やり場のない怒り、無力感が漂う劇中の泉の言葉。さらに胸をえぐられた
▼米兵らによる性的暴行事件がまた発生した。「人間としての尊厳を蹂躙(じゅうりん)する極めて悪質な犯罪」。県議会が全会一致で可決した抗議決議は蛮行を厳しく非難する。県民の代弁者として当然だ
▼だが、沖縄の声は響いていないようだ。米側が発表した対策は遅きに失した。謝罪はいまだ一切ない。事件を「遺憾」と表現するエマニュエル駐日米大使らの声明は沖縄の怒りを人ごとと捉えていないか
▼悲劇を繰り返してはいけない。抜本的な解決のため、沖縄が置かれている現状を変える時だ。「どうにもならない」と諦めてはならない。今のままでは、怒りは収まらない。

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解説
吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來松山ケンイチ広瀬すず綾野剛宮崎あおい妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。( 映画.com)
 
2016年製作/142分/PG12/日本
配給:東宝
劇場公開日:2016年9月17日
 
 

米兵による性暴力 具体的な防止策を示せ(2024年7月13日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 本島中部で16歳未満の少女を誘拐して性的暴行をしたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪に問われた米空軍兵(25)の初公判が那覇地裁で開かれた。
 県警が公表せず、起訴から3カ月後に明らかになり、県に情報提供がなかったことも問題となった事件だ。
 検察側の冒頭陳述によると、被告は昨年12月24日、公園にいた少女に「軍の特別捜査官だから」などと言い、「寒いから車の中で話さない?」などと誘って、車に乗せて自宅に連れ込み暴行した。
 少女が、ジェスチャーを交えながら日本語と英語で年齢を告げたことや、帰宅後、泣きながら母親に被害を訴え、母親が110番通報したことも明らかにした。
 これに対し被告は、罪状認否で「私は無実だ。誘拐も性的暴行もしていない」と起訴内容を否認した。少女を18歳と認識していたと主張した。
 検察側と被告側の言い分は異なった。
 被告が問われている不同意性交罪は、2023年の刑法改正で強制性交罪から名称を変えた。
 暴行・脅迫や恐怖・驚愕(きょうがく)、地位利用など8項目の要因で、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態にさせ、性的行為に及んだ場合に処罰する。
 被害者が13~15歳の場合、5歳以上年上の行為は暴行や脅迫などがなくても処罰対象となる。
 8月23日には被害者と被害者の母親が証人尋問、30日には被告人質問がある。全容が明らかになるのはこれからだ。プライバシーがしっかり守られる環境をつくってほしい。
■    ■
 公判前日、花を手に街頭で性暴力の根絶を訴える「フラワーデモ」が那覇市で行われた。
 いつもより多い約70人が参加し、無言で抗議する「サイレントスタンディング」の後に緊急集会を開いた。
 主催者の一人である高里鈴代さんは「日米の同盟関係のために女性の人権がないがしろにされているのが事件の本質」と語り、怒りをあらわにした。
 今回の事件も、基地がなければ起きなかったはずの事件だ。
 戦後79年、復帰52年がたった今も、性犯罪の年表には加筆が続いている。
 事件の一つ一つを明らかにして、この流れを止めなければならない。
■    ■
 暴行事件を受け、エマニュエル駐日米大使と在沖米軍トップ四軍調整官のロジャー・ターナー中将は連名で、見解を発表した。
 対策として、勤務時間外行動指針(リバティー制度)を全部隊に導入することなどを示した。しかし具体的な内容には触れていない。
 対策が沖縄の怒りを収めるためのポーズに映るのは、県や地元自治体との対話を置き去りにしているからだ。
 沖縄では基地が女性の人権を侵害する「暴力装置」のような存在になっている。
 地位協定の改定など抜本的な解決に乗り出さない限り、再発を防ぐことはできない。


沖縄米兵の性犯罪 情報の「隠蔽」は許されぬ(2024年7月11日『山陽新聞』-「社説」)
 
 沖縄県で、駐留する米兵による性的暴行事件が相次いで起きていたことが明らかになった。被害者の人権と尊厳を踏みにじる行為で、断じて許されない。
 事件の一つは昨年12月、米軍嘉手納基地の空軍兵が16歳未満の少女を車で誘拐し、暴行したとされることだ。これとは別に今年5月には海兵隊員が成人女性に暴行目的でけがを負わせた疑いがある。
 いずれも那覇地検が不同意性交などの罪で起訴している。12月の事件はあす那覇地裁で初公判が開かれる。
 米軍基地が集中する沖縄では米兵による犯罪が繰り返されてきた。県警によると、本土復帰の1972年から2022年までに米軍関係者が起こした凶悪犯罪は584件に上る。刑法犯の摘発は増加傾向にあり、昨年は72件と過去20年間で最悪だった。
 これでは米軍の綱紀粛正が実効性を伴っているとは到底言えまい。米政府は再発防止を徹底すべきだ。
 今回は看過できない問題も露呈した。捜査当局と外務省は二つの事件を「被害者のプライバシーへの配慮」などを理由に公表せず、県にも伝えなかった。玉城デニー知事をはじめ県民は6月下旬になって初めて、地元メディアの報道で知った。
 米兵による重大事件・事故について、日米両政府は「できる限り速やかに現地の関係当局へ通報する」と合意している。米側から連絡を受けた外務省が防衛省沖縄防衛局を通じて県や市町村に通報する仕組みだ。
 ところが、二つの事件いずれについても情報は防衛省にすら届いていなかったという。ルール違反は明らかで、日米双方に対して県民の間で激しい抗議が起こっているのは当然だろう。
 県警などは事案の発覚後、昨年以降、報道発表していない性暴力事件がほかに3件あると明かした。被害者のプライバシー保護が重要なのは言うまでもないが、きちんと配慮した上で公表する道を探る努力はしたのか。
 実態が明るみに出るまでの間、日米首脳会談や米大使の沖縄訪問、沖縄県議選があったほか、沖縄戦の「慰霊の日」には岸田文雄首相が現地を訪れた。地元住民への注意喚起より、これら政治日程に影響しないことを優先して情報を隠蔽(いんぺい)したのではないかと疑念の声も上がっている。
 沖縄県などの厳しい批判を受け、政府は今月、捜査当局が米軍人を容疑者と認定した性犯罪事件について、非公表であっても例外なく県に伝達する新しい運用を始めた。ただ、プライバシー保護の観点から、内容は「可能な範囲」とされる。確実に機能するか注視が必要だ。
 沖縄では1995年の少女暴行事件などを機に基地の整理・縮小を求める声が高まった。日米両政府は県民の不信や苦しみに向き合い、誠意を持って対応せねばならない。

米兵性暴力で抗議決議 県民の怒りを受け止めよ(2024年7月11日『琉球新報』-「社説」)
 
 米兵が犯した卑劣な事件によって県民の尊厳が傷つけられた。米軍や日米両政府にその認識があるのか。
 沖縄県議会は10日の6月定例会本会議で、相次ぐ米兵による性的暴行事件に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決した。日本政府と米政府・米軍に対し、被害者への謝罪と完全補償などを求めている。ここに示された県民の怒りを両政府、米軍は重く受け止めなければならない。
 連続して発生した米兵による性的暴行事件に対し、日米両政府と米軍は現時点まで公式に謝罪していない。これは到底許されないことだ。
 日米安保条約日米地位協定に基づいて沖縄に基地を置く米政府と米軍、基地の提供義務を負う日本政府はいずれも事件の当事者であり、米兵による事件を未然に防ぐ責務を果たすべきである。その責務を遂行できずに連続して事件が起きたのだ。真っ先に謝罪し、再発防止策を示すべきではないのか。
 少女を被害者とした米兵事件に抗議した1995年の10・21県民大会で、当時の大田昌秀知事はあいさつの冒頭で「行政を預かるものとして、本来一番に守るべき幼い少女の尊厳を守れなかったことを心の底からおわびしたい」と県民に謝罪したのである。
 県民の生命・財産を守る立場にある県知事の責任を果たせなかったことへの発言である。しかし、最も責任を問われるべきは両政府であり米軍である。これは今日まで続く米軍絡みの事件・事故全体にも言えることだ。
 県議会の抗議・意見書の対象となった米兵による性的暴行事件は5件である。両政府と米軍は全ての被害者に対し、直ちに公式謝罪し、完全補償や精神的なケアに尽くさなければならない。このことが、連続して発生した性的暴行事件に対応する大前提となるべきである。
 同時に、一連の事件では情報伝達と共有が図られなかったことが問題となった。日本政府は事件発生を県に伝えなかったのだ。抗議決議と意見書は「被害者のプライバシーを守ることを第一としつつ、沖縄県および関係市町村への迅速な通報ができるよう、日米合同委員会を通じ、米側との調整を行い、断固たる措置を取ること」を求めている。
 政府は5日、情報共有の改善措置を発表した。しかし、問題となるべきは日米合同委員会における情報共有の合意事項が履行されなかったことだ。その原因を明らかにし、県民に公表すべきなのだ。
 昨年12月と今年5月の事件について首相官邸と外務省は情報を共有したのに、防衛省は報道される日まで事件を把握せず、県にも情報が共有されなかった。合同委員会の合意が形骸化していないか。
 これこそ県民の生命・財産を軽んじるようなものだ。政府は猛省し、早急に抗議決議・意見書の要求に沿った措置を取るべきである。

沖縄で再び米兵性暴力 人権侵害の放置許されぬ(2024年7月3日『毎日新聞』-「社説」)
 
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米兵による性加害事件を政府から沖縄県に連絡していなかったことが判明し、険しい表情で報道陣の取材に応じる玉城デニー知事=沖縄県庁で6月28日、喜屋武真之介撮影
 
 沖縄県に駐留する米兵による性加害事件が、再び起きた。女性の人権を踏みにじる行為であり、断じて許されない。
 米軍嘉手納基地の空軍兵が昨年12月、16歳未満の少女に性的暴行を加えた疑いがある。今年5月には成人女性が在沖縄海兵隊の隊員に性的暴行を受け、けがをしたとされる。那覇地検は2人を不同意性交等罪などで起訴した。
 両事件の後、岡野正敬外務次官がエマニュエル駐日米大使に抗議した。問題なのは、政府が事件を把握しながら、県に連絡しなかったことだ。
 連絡が遅れれば、住民への注意喚起や再発防止のための対応に支障が出かねない。玉城デニー知事が「県民に強い不安を与え、女性の人権や尊厳もないがしろにした」と憤るのは当然だ。県議会は抗議決議案の採択を検討している。
キャプチャ2
性加害事件を起こした空軍兵が所属する米軍嘉手納基地の第18航空団司令官のニコラス・エバンス准将(右から2人目)とマシュー・ドルボ在沖縄米国総領事(左)に抗議文を手渡す沖縄県の池田竹州副知事(右)=沖縄県庁で6月27日、喜屋武真之介撮影
 
 在日米軍が関係する事件・事故が起きた際には、米側から日本政府に連絡し、県や関係する市町村に通報する仕組みがある。
 林芳正官房長官は県に伝えなかった理由について、「被害者のプライバシー保護」を理由に事件を公表しなかった捜査当局の判断を踏まえたものだと説明した。
 そうであるならば、外務省と捜査当局の間でどのようなやりとりがあったのか、非公表とした経緯を明らかにすべきだ。
 事件が明るみに出たのは、4月の岸田文雄首相の訪米や6月の沖縄県議選の後、メディアの報道によってだった。
 被害者のプライバシー保護が重要なのは言うまでもないが、県に事件発生すら伝えないのはルール違反だというほかない。
 沖縄では、これまでも米兵らの性加害が続いてきた。1995年に海兵隊員ら3人による少女暴行事件が起き、基地の整理・縮小を求める県民の声が高まった。
 2016年には、うるま市の女性が元海兵隊員で米軍属の男に暴行を受け殺害された。
 県警によると、米軍人や軍属らによる刑法犯の摘発件数は、増加傾向にある。昨年は72件で、過去20年間では最多となった。
 このような悲劇が、繰り返されてはならない。米軍が綱紀粛正を徹底するよう、政府は再発防止を強く要請すべきだ。
 沖縄米兵事件 信頼を損ねた情報伝達の遅れ(2024年7月3日『読売新聞』-「社説」) 
 
 米兵による性暴力事件はなぜ繰り返されてしまうのか。卑劣な犯罪であり、断じて許せない。在日米軍は再発防止策を徹底すべきだ。
 
 沖縄県内で昨年12月、米軍嘉手納基地所属の空軍兵に少女が誘拐され、暴行を受けた。那覇地検は今年3月、わいせつ誘拐と不同意性交の罪で空軍兵を起訴した。
 
 また今年5月には、沖縄北部にある米軍キャンプ・シュワブ海兵隊員が成人女性を暴行し、けがを負わせた。県警は海兵隊員を緊急逮捕し、那覇地検は先月、不同意性交致傷の罪で起訴した。
 
 被害者の恐怖や絶望感は計り知れない。沖縄の多くの市町村議会は、米政府に被害者への補償を求める決議を採択した。嘉手納基地周辺では、抗議デモも起きている。県民が憤るのは無理もない。
 
 沖縄で1995年、小学生女児が米兵3人に暴行された事件は日本中に大きな衝撃を与え、米軍基地再編のきっかけとなった。
 
 だが、その後も米軍人・軍属による性犯罪は後を絶たない。
 
 性暴力事件が起きる度に、在日米軍は軍人らの外出を一定期間制限したり、研修を強化したりといった対策を講じてきたが、効果が上がっているとは言い難い。
 
 米政府は米軍の規律を正さねばならない。実効性のある犯罪抑止策を早急に講じ、国や県に丁寧に説明する責任がある。
 
 在沖縄米軍は、日本だけでなく、インド太平洋地域の安全を確保する重要な役割を担っている。
 
 県民の反基地感情が高まれば、安定的な駐留が損なわれかねない。日本の安全保障にとっても深刻であり、日米両政府は県との信頼回復に力を注ぐ必要がある。
 
 今回の二つの事件を巡り、沖縄側は、県への情報提供が遅すぎたと政府を批判している。
 
 外務省は、空軍兵が起訴された3月、エマニュエル駐日米大使に綱紀粛正と再発防止の徹底を申し入れたが、県には事件を伝えなかった。捜査に支障をきたしかねず、被害者のプライバシーを侵害する恐れもあったためだという。
 
 被害者保護を名目に公表を遅らせる意図があったのではないか、との疑いを抱かせる。少なくとも起訴後には公表すべきだった。
 
 空軍兵を起訴した3月に県が事態を把握し、県から県民に注意を呼びかけていれば、5月の事件は防げた可能性もある。
 
 政府は、沖縄に偏っている米軍基地負担の軽減を急がねばならない。それが、県民の不安を和らげることにつながるだろう。
 

沖縄米兵の事件 許されぬ性犯罪の「隠蔽」(2024年7月3日『西日本新聞』-「社説」)
 
 沖縄県で在沖縄米兵による性的暴行事件が、相次いで起きていたことが明らかになった。被害者の尊厳を踏みにじる蛮行に怒りを禁じ得ない。
 那覇地検が3月、不同意性交などの罪で米空軍の男を起訴していたことが6月に判明した。昨年12月に16歳未満の少女を車で誘拐し、自宅に連れ込み同意なくわいせつな行為をしたとされる。
 これとは別に5月、女性に性的暴行をしようとけがをさせたとして、不同意性交致傷の疑いで海兵隊の男が逮捕され、6月に那覇地検が起訴していたことも分かった。
 1995年の少女暴行事件や2016年の女性殺害事件をはじめ、在沖縄米兵が性犯罪を起こすたびに県民は抗議の声を上げてきた。
 にもかかわらず、事件はいまだ絶えない。米軍の綱紀粛正は実効性を伴っていない。隊員教育など再発防止策の徹底を強く求める。
 米兵の身勝手な振る舞いの背景に、日米地位協定があるのは明らかだ。米側に特権的な法的地位を与え、日本の捜査権は制限されている。
 日本政府は抜本的見直しを米政府に厳しい姿勢で働きかけるべきだ。問題の根本にある米軍基地の整理縮小にも取り組まなければならない。
 今回はさらに深刻な問題がある。捜査機関と外務省は二つの事件を公表せず、県にも伝えなかった。県民は地元メディアの報道で知った。
 米兵による事件は県民にとって重大な問題であり、公表されて当然だ。しかも性犯罪という凶悪事件である。
 県民への公表を怠った日本政府や捜査機関の対応は許し難い。県民と同様に報道を通して知った玉城(たまき)デニー知事も「信頼関係において著しく不信を招くものでしかない」と非難した。
 米兵による重大事件・事故について、日米両政府は「迅速に現地の関係当局へ通報する」と合意している。米側から連絡を受けた日本政府が、防衛省沖縄防衛局を通じて県に通報する仕組みだ。
 林芳正官房長官は、被害者の名誉やプライバシーを考慮して県に通報しなかったと釈明した。沖縄県警が公表しなかった理由も同じだ。
 むろん個人情報の保護は重要で、公表による二次被害を防ぐ必要がある。しかし最大限配慮した上で県民と情報共有することは可能なはずだ。
 性犯罪は被害者が声を上げにくく、それにつけ込んで事実が隠される恐れをはらむ。昨年12月の事件が速やかに公表されていれば、注意喚起によって5月の事件は防げたかもしれない。
 二つの事件の発生から表面化するまでの間に、日米首脳会談や沖縄県議選があった。政治日程への影響を考慮して隠蔽(いんぺい)したと疑われても仕方あるまい。
 林官房長官は情報共有の在り方を検討するという。まずは今回の経緯を検証し、国民に説明すべきだ。

米兵の性犯罪/沖縄の被害なぜ伝えない(2024年7月2日『神戸新聞』-「社説」)
 
 在沖縄の米空軍兵が昨年12月に少女を誘拐し、わいせつな行為をしたとして、3月に那覇地検が起訴していたことが明らかになった。5月に沖縄所属の米海兵隊員が女性に性的暴行をしたとして、逮捕、起訴されていた事件も発覚した。厳正な司法手続きを求める。
 相次ぐ悪質な事件に、沖縄県玉城デニー知事は「強い憤りを禁じ得ない」と述べた。当然である。性犯罪は人権と尊厳を踏みにじる極めて卑劣な行為であり、言語道断だ。
 米軍基地が集中する沖縄では米兵による犯罪が繰り返されてきた。本土復帰の1972年から2022年までに、米軍関係者が起こした凶悪犯罪は584件に上る。性暴力も絶えず、1995年と2008年の暴行事件でも今回と同様、少女が被害に遭った。県民は多くの犠牲と負担を強いられてきた。
 重ねて許し難いのは、地元メディアが報じるまで政府や県警が被害を公表せず、県にも伝えなかった点だ。空軍兵の事件は発生から半年間も伏せられていた。日米両政府は1997年に重大事件に関する通報手続きに合意しており、被害者のプライバシー保護は理由にならない。実効性のある再発防止策のためにも情報共有は徹底されなければならない。
 なぜ被害を伝えなかったのか。6月の沖縄県議選では、米軍普天間飛行場辺野古移設に反対する玉城知事の支持派と不支持派の争いが注視された。支持派は大敗したが、事件が発覚していれば選挙結果が違った可能性もあり、地元には「影響を恐れたのでは」との疑念が広がっている。今後の対応も含めて、政府には説明を尽くす責務がある。
 起訴された空軍兵の自宅は所属する嘉手納基地の区域外にあった。治安確保へ、県は米軍人の外出制限措置の強化を米側に要求した。被害者への謝罪や補償も求めた。那覇市議会などが抗議決議を可決し、嘉手納基地近くでは性暴力を非難する「フラワーデモ」が開かれるなど、批判の声は強まるばかりだ。米軍は猛省し真摯(しんし)に耳を傾けてもらいたい。
 米軍の特権的地位を定めた日米地位協定の抜本的な見直しも欠かせない。現状では米兵が事件を起こしても、日本側への身柄の引き渡しは原則として起訴後になる。凶悪犯罪の場合は「好意的配慮」で引き渡されるケースもあるが、米側に裁量権があり、不平等と言うほかない。
 今も在日米軍専用施設面積の7割が沖縄県にある。その状況が変わらない限り、県民が米兵による犯罪にさらされる危険性は変わらない。政府は米側に対し、基地の整理・縮小や地位協定の改定に応じるよう、強い姿勢で交渉すべきだ。

相次ぐ沖縄米兵事件 国の忖度、隠蔽なかったか(2024年6月29日『福井新聞』-「論説」)
 
 沖縄に駐留する米空軍兵が少女を誘拐し、自宅でわいせつな行為をしたとして、那覇地検が3月に不同意性交などの罪で起訴していた。さらには、沖縄米軍所属の海兵隊員が別の女性に性的暴行をしていたとして沖縄県警に5月に逮捕されていたことも判明した。
 
 いずれも事実であれば女性の人権を踏みにじる言語道断の犯罪であり到底許されるものではない。沖縄では過去にも米軍関係者による凶悪事件や性犯罪が相次いで起きており、その度に怒りや悲しみの感情に覆われてきた。今回の事犯にも厳正な手続きを求めたい。
 不可解さが残るのは、日本政府から沖縄県側への連絡の経緯だ。空軍兵の事件発生は昨年12月で、沖縄県警が米側の協力を得て任意で捜査を進め、3月11日に書類送検那覇地検が同27日に起訴した。起訴当日、外務省の事務次官がエマニュエル駐日大使に抗議し、再発防止の徹底を申し入れている。
 それにもかかわらず、沖縄県が起訴の情報を知って今月25日に外務省に問い合わせるまで、事件や起訴に関する連絡が県側に一切なかったという。林芳正官房長官は記者会見で、沖縄県に連絡していなかった対応について、被害者の名誉やプライバシーを考慮したと釈明した。
 その上で、今回の件は日米間で合意した在日米軍による事件、事故の通報基準に該当すると指摘し、米側から通報を受けた後の対応に関しては「個別具体的な事案の内容に応じて適切に判断している」と述べた。外務省は「警察当局の判断を前提に対応している」としている。
 プライバシーに配慮したとしても、県民の安全を預かる県側に事実関係を伝えることはできるし、通報するのが当然ではないか。しかも、起訴から約3カ月の間には、4月の日米首脳会談や6月16日投開票の沖縄県議選など、日米関係にとって重要な政治的イベントが続いていた。
 とりわけ、県議選は米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設が争点であり、選挙前に事件が明らかになっていれば、結果に大きな影響があった可能性は否定できない。こうした諸事情を忖度(そんたく)し、外務省が隠蔽(いんぺい)したと言われても仕方がないだろう。
 これでは、ほかにも発覚していない重要事件があるのではないかと勘ぐりたくもなる。背景にあるのは在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の存在だ。米兵が犯罪を起こした場合、米側に優先的な裁判権や身柄の扱いを認めている。捜査に支障があり不平等との声が上がるものの過去に一度も改定されていない。再発防止策と同時に、協定を再考すべき時ではないか。
 

沖縄米兵の犯罪 隠蔽は不信広げるだけだ(2024年6月30日『熊本日日新聞』-「社説」)
 
 

 なぜ凶行は繰り返されるのか。沖縄で米兵によるとされる性暴力事件が相次いで明らかになった。これまでも軍関係者による事件が起きるたびに、米軍は綱紀粛正と再発防止を誓ってきたはずだ。
 嘉手納基地所属の米空軍兵が少女を誘拐し自宅でわいせつな行為をしたとして、3月に不同意性交などの罪で那覇地検に起訴されていた。ほかにも海兵隊員が別の女性に性的暴行をしたとして、今月起訴されていたことも判明した。事実であれば許し難い。
 二つの事件は、日本政府の不可解な対応を明るみに出した。事件はいずれも公表されておらず、沖縄県警も県と情報を共有していなかった。空軍兵の事件では、起訴当日に外務省がエマニュエル駐日大使に抗議し、再発防止の徹底を申し入れていた。しかし、県に情報は届かず、約3カ月後に県が問い合わせて初めて伝えられた。
 林芳正官房長官は「被害者のプライバシーを考慮した」と釈明したが、事件を隠蔽[いんぺい]していたと受け取られても仕方あるまい。玉城デニー知事が「著しく不信を招く」と非難したのは当然だ。長年にわたって米軍関係者による被害に苦しんできた県民の感情を逆なでするような振る舞いは、断じて容認できない。
 地元では、4月の日米首脳会談や6月16日投開票の沖縄県議選への影響を見据えていたのでは、といぶかしむ声も上がっている。米軍だけでなく、日本政府への反発も必至だ。政府と県は、米軍普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡って対立しているが、これでは信頼関係の構築など望むべくもない。政府は公表を見送った経緯を説明すべきだ。防衛省沖縄防衛局から県に通報されるはずだった情報共有の仕組みも、再検証する必要がある。
 在日米軍施設の約7割が集中する沖縄では、軍関係者による殺人や性犯罪などの凶悪事件が後を絶たない。米軍と県が「日米地位協定」によって不平等な構図に置かれていることが、県民の人権を踏みにじる犯罪が繰り返される一因ではないのか。
 1995年に米兵3人が女子小学生を連れ去り暴行した事件では、県警が逮捕状を取っても身柄を拘束できなかった。その後、凶悪事件では起訴前の身柄引き渡しに米側が「好意的考慮を払う」よう運用が見直されたが、決定権は今も米側にある。
 2023年に鹿児島・屋久島沖で起きた米軍輸送機オスプレイの墜落事故でも日本側の捜査権が制限され、十分に原因究明されないまま飛行が再開された。基地周辺では水道水や河川から高濃度の有機フッ素化合物(PFAS)が検出されているが、汚染源とみられる基地内の調査をするにも高いハードルがある。
 政府は安保体制強化の一環として南西シフトを進め、自衛隊と米軍の連携を強めている。沖縄は防衛力強化の負担に直面している。県民に痛みを強いる地位協定を見直す時が来ているのではないか。

米兵の性犯罪続発 政府は県民守る責務負え(2024年6月29日『琉球新報』-「社説」)
 
 異常と言うほかない。卑劣な犯罪の頻発は言語道断だ。これが県民に知らされなかったことも理解に苦しむ。
 政府は、基地の重圧を強いられる沖縄県民の生命・安全を守る責務を負うべきだ。しかし、その責務が認識できていない。個別の事案についてなぜ情報の共有が遅れたか、明確に説明すべきだ。
 ことし5月、米海兵隊員の男が女性に性的暴行し、けがを負わせたとして不同意性交致傷の容疑で県警に逮捕され、今月17日に同罪で起訴されていた。
 昨年12月に発生した事件で米空軍兵がわいせつ誘拐、不同意性交の罪で起訴されていたことに続いての事件判明だ。許し難い事態である。
 被害者、その家族が心身に負った深い傷へのケアが丁寧に行われ、迅速に補償されることを最優先に求めたい。事件後も被害者が理不尽な状態に置かれることがあってはならない。責められるべきは犯罪を起こした当事者とその行為そのものだ。
 あまりに情報統制が過ぎると言わざるを得ない。明らかになった2件の事件発生は県に報告されるべきだ。遅くとも起訴時点での情報提供があるべきだった。米軍に綱紀粛正を求め、警察による警戒を強めるなど再発防止の対策を取ることができたはずだ。
 県民は犯罪の頻発を知らずに日常を送ってきた。事件発生の一報は防犯意識を一定程度高めることにもなる。今回の連続発生は全く情報を出さず、対策が取られなかったことも影響してはいないか。
 日米合同委員会合意によって、日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件などについては米側から日本側当局に通報する義務がある。地元社会に与える影響の大きさや再発防止に資する点を鑑みてのことだろう。
 県民に知らせる必要があるとの認識は各捜査機関にあったのか。広報の在り方について省庁間で責任を押しつけ合うような言動もみられる。どこを向いて仕事をしているのか。合同委員会合意に基づき、速やかに事件の事実関係が通報され、関係機関で共有することを強く求める。
 被害者保護のため公表できない内容もあろう。残念ながら、性犯罪が起こるたびに被害者を責めるような言説がうごめく。正確な情報によって誤情報を否定し、被害者を守ることが政府に求められているのではないか。
 被害者が捜査に協力し公判に臨むことは、同様な被害を出さないとの意思の表れでもあろう。政府全体を通じて、県民の目から事件自体を覆い隠すような一連の対応は、被害者の切実な思いを軽視するものだ。
 池田竹州副知事は地元協議機関のワーキングチームを開催するよう求めた。政府、米軍、県による協議機関は2017年以来休眠状態にある。これも異常な状態だ。直ちに開催するよう要求する。
 

米兵事件公表せず 不信もたらす「隠蔽」だ(2024年6月29日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 県民の命や安全に関わる情報が隠されていた事実が次々と明らかになっている。
 
 ことし5月、本島中部で女性に性的暴行を加えてけがをさせたとして、不同意性交等致傷の疑いで県警が米海兵隊員を逮捕し、6月17日に那覇地検が起訴していたことが分かった。
 昨年12月に起きた米空軍兵による少女誘拐暴行事件は、3月に起訴されていたことが6月25日に明らかになったばかりである。
 いずれの事件も、起訴後も県には一切連絡がなかった。 米兵による重大事件・事故については、1997年の日米両政府の合意で「迅速に現地の関係当局へ通報する」とされている。政府や米軍は防衛省沖縄防衛局を通じて県に通報する仕組みだが、2件とも沖縄防衛局に連絡がなく、県にも通報されなかった。日米両政府が合意した取り決めが機能していない。
 林芳正官房長官は、今回の事件は通報基準に該当するとしながら、被害者の名誉やプライバシーを考慮したため県に通報しなかったと釈明した。だが、被害者のプライバシーを守りながら県への情報提供は十分できたはずだ。
 そもそも米軍犯罪に関する情報は公共性、公益性が高い。県民の安全を守る立場の県に情報がなければ対策が取れない。12月の事件後すぐに情報共有されていたら、子どもたちに注意喚起できたはずだし、5月の事件を防げたかもしれない。
■    ■
 2事件の発生から起訴、発覚までの半年間には、日米両政府にとって重要な政治日程がめじろ押しだった。昨年12月には辺野古新基地を巡る代執行訴訟があり、今年4月には日米首脳会談、6月16日には県議選があった。
 県議選では新基地建設を巡って対立する与野党が激しく競り合った。県議選前に事件が明らかになれば反基地世論が盛り上がり選挙結果に影響が出ると恐れたから、県に通報しなかったのではないか。
 海兵隊員が起訴されたのは県議選翌日の6月17日だった。
 林官房長官は「県議選が対外公表の判断に影響したという指摘は当たらない」と否定したが、この間の対応は、政治的意図を持った隠蔽(いんぺい)だと思われても仕方がない。
 林氏は米側からの通報後の対応について「個別具体的な事案の内容に応じて適切に判断している」とも述べている。そうであればそのつど、どのように判断したのかを明らかにするべきだ。
■    ■
 内閣府男女共同参画局のホームページには「同意のない性的な行為は性暴力であり、重大な人権侵害です」と記されている。
 5月に与那国を訪問したエマニュエル駐日米大使は「重大な人権侵害」を知りながら、自衛隊と米軍の連携をアピールした。
 27日に県庁を訪れたマシュー・ドルボ在沖米総領事から被害者や県民への謝罪の言葉は聞かれず、「コメントはない」とだけ語った。
 これはあまりにも異常な事態である。

米兵の少女暴行 沖縄の怒りを受け止めよ(2024年6月28日『新潟日報』-「社説」)
 
 いつまで繰り返されるのか。またしても起こった米兵による犯罪に強い憤りを覚える。沖縄県民の怒りと不安は大きい。米軍施設が集中する現状の改善が急務だ。
 事件を約3カ月間も県に連絡しなかった外務省の対応も理解できない。政府への県民の信頼が大きく損なわれるのも仕方ない。
 在沖縄米空軍兵の男が昨年12月、沖縄県読谷村の公園で16歳未満の少女を車で誘拐、自宅に連れ込み同意なくわいせつな行為をしたとして、那覇地検が今年3月、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で起訴していたと分かった。
 玉城デニー知事が「女性の尊厳を踏みにじるものだ」と述べたように断じて許すことはできない。
 沖縄では、米軍関係者の凶悪事件や性犯罪が頻発している。
 1995年に小学生女児が米兵3人に暴行された。日本側は米兵らの逮捕状を取ったが、日米地位協定により身柄を拘束できず、県民の怒りが爆発した。
 凶悪事件では起訴前の身柄引き渡しに、米側が「好意的考慮を払う」と運用が見直されたものの、決定権は今も米側にある。
 その後も、2016年に米軍属がウオーキング中の女性を性的暴行の目的で襲い殺害した。21年には海兵隊員が女性に無理やり性交しようとしけがを負わせたなど、被害は後を絶たない。
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する団体の代表が「事件が起き続けるのは基地があるからだ」と語る言葉は重い。
 沖縄には今なお在日米軍専用施設の約7割が集中している。
 在日米軍再編に伴い、在沖縄米海兵隊の米領グアムへの移転が12月に始まり、順調に進めば1万9千人近くの隊員は、28年の移転完了までに約1万人に減少する。
 とはいえ、駐留米軍の縮小を求める沖縄県民の声が原動力となり、沖縄の負担軽減として日米両政府が合意したのは06年で、グアム移転の実現はあまりにも遅い。
 沖縄をはじめ米軍基地を抱える自治体から、日本側の捜査を制限する日米地位協定の改定を求める声が根強いのも当然だろう。
 信じ難いのは、起訴を受け外務省が3月末に駐日米大使に抗議しながら、県が今月25日に問い合わせるまで、外務省から県への連絡がなかったことだ。
 地元から「隠ぺい」と非難されるのも当然だ。
 外務省は、被害者のプライバシーに配慮したことなどを、連絡しなかった理由に挙げた。
 県が反対する中、国が代執行し辺野古移設工事が進められている。今月16日投開票だった沖縄県議選への影響を避けようとして知らせなかったのなら、県民の国に対する反発がさらに強まる。
 事件の再発防止の観点からも大きな問題がある。政府は猛省せねばならない。
 

米兵の性犯罪続発 政府は県民守る責務負え(2024年6月29日『琉球新報』-「社説」
 
 異常と言うほかない。卑劣な犯罪の頻発は言語道断だ。これが県民に知らされなかったことも理解に苦しむ。
 政府は、基地の重圧を強いられる沖縄県民の生命・安全を守る責務を負うべきだ。しかし、その責務が認識できていない。個別の事案についてなぜ情報の共有が遅れたか、明確に説明すべきだ。
 ことし5月、米海兵隊員の男が女性に性的暴行し、けがを負わせたとして不同意性交致傷の容疑で県警に逮捕され、今月17日に同罪で起訴されていた。
 昨年12月に発生した事件で米空軍兵がわいせつ誘拐、不同意性交の罪で起訴されていたことに続いての事件判明だ。許し難い事態である。
 被害者、その家族が心身に負った深い傷へのケアが丁寧に行われ、迅速に補償されることを最優先に求めたい。事件後も被害者が理不尽な状態に置かれることがあってはならない。責められるべきは犯罪を起こした当事者とその行為そのものだ。
 あまりに情報統制が過ぎると言わざるを得ない。明らかになった2件の事件発生は県に報告されるべきだ。遅くとも起訴時点での情報提供があるべきだった。米軍に綱紀粛正を求め、警察による警戒を強めるなど再発防止の対策を取ることができたはずだ。
 県民は犯罪の頻発を知らずに日常を送ってきた。事件発生の一報は防犯意識を一定程度高めることにもなる。今回の連続発生は全く情報を出さず、対策が取られなかったことも影響してはいないか。
 日米合同委員会合意によって、日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件などについては米側から日本側当局に通報する義務がある。地元社会に与える影響の大きさや再発防止に資する点を鑑みてのことだろう。
 県民に知らせる必要があるとの認識は各捜査機関にあったのか。広報の在り方について省庁間で責任を押しつけ合うような言動もみられる。どこを向いて仕事をしているのか。合同委員会合意に基づき、速やかに事件の事実関係が通報され、関係機関で共有することを強く求める。
 被害者保護のため公表できない内容もあろう。残念ながら、性犯罪が起こるたびに被害者を責めるような言説がうごめく。正確な情報によって誤情報を否定し、被害者を守ることが政府に求められているのではないか。
 被害者が捜査に協力し公判に臨むことは、同様な被害を出さないとの意思の表れでもあろう。政府全体を通じて、県民の目から事件自体を覆い隠すような一連の対応は、被害者の切実な思いを軽視するものだ。
 池田竹州副知事は地元協議機関のワーキングチームを開催するよう求めた。政府、米軍、県による協議機関は2017年以来休眠状態にある。これも異常な状態だ。直ちに開催するよう要求する。

米兵事件に広がる抗議 基地あるが故いつまで(2024年6月28日『沖縄タイムス』-「社説」)
 
 米軍嘉手納基地所属の兵長による少女誘拐暴行事件に対し、県民の怒りと抗議の動きが広がっている。
 
 「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」や「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」など県内6団体の代表らは27日、県庁で会見し、日米両政府や米軍に抗議するとともに、被害者に対する謝罪や心のケアを求めた。
 出席者は「少女の恐怖と絶望を思うと心がえぐられる」と語り、日米両政府を「県民の命と暮らしが脅かされている現状を放置している」と非難した。さらに県内全ての米軍基地を撤去し、新たな基地を造らせないことに言及した。
 市町村議会では、抗議決議の動きも広がっている。
 浦添市議会は26日、「蛮行に激しい怒りと憤りを覚える」として、再発防止策や日米地位協定の抜本的見直しを求める抗議決議を採択した。
 27日には那覇や中城、北中城の議会が続いたほか、県議会でも与党を中心に決議の動きが出ている。
 名護市では、市民らが「少女の尊厳を踏みにじるな」「米軍よ沖縄から去れ」などと書かれたプラカードを手に持ち抗議のスタンディング。参加した女性は「全国に沖縄の状況を知ってほしい」と訴えた。
 米兵による性暴力が後を絶たず、女性や子どもたちの安全や人権が脅かされるという沖縄の現状は、異常というほかない。
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 県民の憤りは当然だ。
 沖縄戦で米軍が上陸してからこれまで、約80年にもわたり米軍による性暴力は続いている。
 「行動する女たちの会」が1996年からまとめている米兵による女性への性犯罪記録年表には、45年の沖縄戦時から2021年にかけて、沖縄の女性約950人が受けた暴力の数々が連綿とつづられている。
 だがそれとて表に出てきた数であり、氷山の一角でしかない。
 日米両政府は事件事故が起きるたびに「綱紀粛正」と「再発防止」を誓ってきた。しかし犯罪はなくならない。
 軍隊とは力による鎮圧や支配を前提とした組織だ。日々の訓練だけでなく、紛争地で凄絶(せいぜつ)な暴力に直面すれば緊張は増し心身は疲弊する。
 米軍関係者は地位協定によって、さまざまな面で保護され優遇されている。そのことが占領者意識へとつながり、再発防止を妨げているとも指摘されている。
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 事件を受け、池田竹州副知事は嘉手納基地第18航空団のニコラス・エバンス司令官、マシュー・ドルボ在沖米総領事に抗議し、再発防止と被害者への謝罪や補償などを求めた。司令官は「心配をかけていることは遺憾」と述べたものの謝罪の言葉はなかった。
 米軍は昨年12月の事件発生後、何か対策を講じたのか。3月の米兵起訴後、県に連絡がなかったのも納得いかない。
 
 市民団体が米軍基地の撤去を求めたのは、基地あるが故に繰り返される犯罪だからだ。沖縄の過重な基地負担と不平等な地位協定がその元凶である。

米兵による少女連れ去り及び性的暴行事件に対する抗議決議

昨年 12 月 24 日、嘉手納基地所属の米空軍兵長沖縄本島中部の公園で 16 歳未満の少女を連れ去り、同意なく性的暴行を加えたとして、わいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で、3月27日付で起訴されていたことが報道によりわかった。この米兵による蛮行に激しい怒りと憤りを覚えるとともに改めて県民に強い衝撃と不安を与えている。又も発生してしまった凶悪な事件に、米軍の再発防止策の弱さを指摘し、抜本的な改善策を求めるものである。

よって本市議会は、今回の事件に対し満身の怒りを込めて抗議するとともに、事件・事故の実効性ある再発防止に向けて下記のとおり強く要求する。

1.事件の全容を解明するとともに速やかに公表し、誠意ある対応を行うこと。

2.市民・県民が安心して生活することができるよう、実効性ある再発防止策を講じること。

3.日米地位協定の抜本的な見直しを図ること。

以上、決議する。

令和6年(2024年)6月26日

沖縄県浦添市議会

宛先

米国大統領、米国国防長官、米国国務長官、駐日米国大使、在日米軍司令官、在日米軍沖縄地域調整官、在沖米海兵隊太平洋基地司令官、在沖米国総領事、外務大臣、外務省特命全権大使(沖縄担当)、沖縄県警察本部長


米兵少女暴行事件 人権軽視、主権が問われる(2024年6月27日『琉球新報』-「社説」)
 
 事件から約半年後、那覇地検による起訴から約3カ月後に明らかになった米軍嘉手納基地所属の空軍兵による少女暴行事件は、米軍基地から派生する事件・事故に絡む問題を浮き彫りにした。
 事件の究明と再発防止を図る上で必要な容疑者の身柄引き渡し、事件・事故の通報体制に関する取り決めがないがしろにされた。事件・事故抑止に関する協議機関も機能していない。県民の人権が軽んじられ、日本の主権の内実も問われる事態だ。
 事件発生は昨年12月末で、空軍兵は本島中部の公園で少女に声をかけて自宅で犯行に及んだ。110番通報で事件を認知した県警は米軍の管理下にある空軍兵を任意で調べた。起訴後に身柄は日本側に移ったが、現在は保釈されている。
 1995年の日米合同委員会合意では米側は「殺人または強姦(ごうかん)という凶悪な犯罪」の場合、起訴前でも日本側の身柄引き渡し要求に「好意的配慮を払う」とされている。今回、県警は身柄引き渡しを米側に求めていないが、16歳未満の少女を被害者とする事件は、身柄引き渡し要求の要件にある「凶悪な犯罪」に相当するのではないか。検証を求めたい。
 那覇地検が空軍兵を起訴したのは3月27日であり、同日、外務省は駐日米大使に抗議した。その後も政府から県への連絡はなく、7月12日の初公判期日が確定するまで事件の存在は公にならなかった。報道によって事件を知った玉城デニー知事が連絡がなかったことについて「著しく不信を招くものでしかない」と批判するのも当然だ。
 日米合同委員会は97年、在日米軍の事件・事故の日本側への通報体制改善について合意した。この中で(1)米軍機や米艦船の事故(2)危険物や有害物の誤使用・流出(3)日本人やその財産に実質的な損害を与える可能性のある事件―などについて速やかに米側から日本側関係当局、地元社会に通報する義務を確認している。
 少女を被害者とした性犯罪事件のため通報に慎重を期す必要はある。しかし、起訴から3カ月も事件の事実が伏せられたのは異常だ。日米合同委員会の合意事項に反しているのではないか。政府は明確に説明すべきである。
 米軍の事件・事故に対処する地元協議機関も機能不全に陥っている。
 1979年に米軍、那覇防衛施設局、県による三者連絡協議会が発足したが2003年5月の開催を最後に自然消滅した。00年に始動した「米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキングチーム」も休眠状態にある。事件・事故に対処する地元協議機関はないに等しい。
 米軍人・軍属による事件・事故が起きるたびに原因究明と再発防止、綱紀粛正が叫ばれてきた。しかし、このような現状では事件・事故の抑止はおぼつかない。
 

米兵が不同意性交 やまぬ性暴力、米軍撤退を(2024年6月26日『琉球新報』-「社説」)
 
 許しがたい事件が起きてしまった。米軍基地あるがゆえの非道がまたも繰り返されたのだ。県民は基地から派生する人権侵害にいつまで耐え続けなければならないのか。
 昨年12月、県内に住む16歳未満の少女を車で誘拐し、自宅で同意なくわいせつな行為をしたとして、那覇地検がわいせつ目的誘拐と不同意性交の罪で米空軍兵長の男を起訴した。起訴の日付は3月27日である。
 今月23日に糸満市摩文仁で開かれた沖縄全戦没者追悼式における平和宣言で玉城デニー知事が「広大な米軍基地の存在、米軍人等による事件・事故、米軍基地から派生する環境問題など過重な基地負担が、今なお、この沖縄では続いています」と述べたばかりだ。それからわずか2日後、県民は過酷な現実を突き付けられた。
 私たちは少女の尊厳を傷つけた米兵に強く抗議する。日米両政府は被害者の心的ケアを含め、全面的に補償すべきだ。そして、県民の人権を踏みにじる事件を抑止できない限り、全ての米軍は沖縄から去らなければならない。
 ふに落ちないことがある。25日の記者会見で林芳正官房長官は、3月27日の起訴を受けて岡野正敬外務事務次官からエマニュエル駐日米大使に遺憾の意を申し入れたことを明らかにした。少なくとも政府はその日までに事件を把握しているのだ。県は報道によって事件を知ったのである。
 このような重大事件がただちに県に通報されなかったのはなぜか、政府の関係機関は説明すべきだ。今月は県議選があった。何らかの政治的意図から県へ連絡しなかったのであれば言語道断だ。
 県民は米軍の蛮行に長年傷つけられてきた。米兵の性暴力は米軍が上陸した1945年から始まった。米軍が設置した民間人収容所などで女性を被害者とした事件が多発したのである。
 女性の性被害は72年の施政権返還後も変わることがなかった。戦後一貫して米軍の性暴力は続いてきた。これ以上、米軍駐留による人権侵害を許すわけにはいかない。
 全戦没者追悼式に出席した上川陽子外相は21日の会見で「沖縄の皆さまには大きな基地負担を担っていただいている。沖縄の基地負担軽減は政権にとって最重要課題だ。引き続き取り組んでいきたい」と述べている。
 外務省はこの発言を単なる口約束に終わらせてはならない。厳重に抗議し、再発防止策の確立を求めるべきだ。犯罪抑止に向けた兵員教育の徹底などやるべきことは多い。
 手始めに米兵らの外出・基地外飲酒を制限する勤務時間外行動指針(リバティー制度)の強化が必要だ。2022年12月にリバティー制度を緩和して以降、米軍事件が多発傾向にあった。
 当然、主権国家として日米地位協定の抜本改正にも取り組まなければならない。