武道館で挨拶する岸田文雄総理
能登半島地震の犠牲者への黙禱、国歌斉唱と、大会の滑りだしは整然と進んでいた。続いて式次第は来賓あいさつに移る。
司会に紹介され、満席の来場者の拍手に包まれて演台に進む岸田首相。ようやく拍手が鳴りやむかというとき、3階席の中年男性が、米粒ほどの大きさに見える階下の岸田首相に向かって叫んだ。
続く言葉を最後まで発することなく、数人のスタッフらに取り押さえられる男性。「痛い、痛い」とわめきながら、瞬く間に場外に連れ出された。
「お前が騒ぐなよ」
男性の退場を冷ややかに見つめる観客がつぶやく。静けさが戻りつつあった空間には、自民党の裏金事件に対する怒りを共有する空気はなかった。
年1回のペースで岸田首相に面会する謎の組織
来場者が不規則発言を嫌ったのは、岸田首相の一言一句に注目していたからかもしれない。演台の背後には、岸田首相を映す巨大スクリーンがあり、その脇の垂れ幕には次のスローガンがあった。
緊急事態条項を憲法に明記する国会発議を―。
「岸田首相が参加したのは『ニューレジリエンスフォーラム』(以下、フォーラム)という任意団体の大会です。岸田首相は『緊急事態や混乱のなかで、国家の機能が維持できるかどうかは現実的で重要な課題だ』と話し、災害やテロの発生時に、政府に権限を集中させる緊急事態条項の条文を加える憲法改正に意欲を示しました」(永田町関係者)
岸田首相は、施政方針演説でも総裁任期中の改憲を掲げている。しかし、6月に入っても裏金事件への対応などで世論や党内の支持を得られず、国会運営が混乱したことで断念している。一方でフォーラムが発足した'21年6月以降の活動を振り返ると、改憲をめざす岸田首相に、積極的に働きかけてきたことがわかる。
首相動静によると、フォーラム関係者はこれまで、年1回のペースで岸田首相に面会している。目的は毎年まとめている政策提言を手渡すためだ。
取材・文/宮下直之(「週刊現代」記者)
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