「裏金」で新証言 説明の食い違い解明せよ(2024年7月2日『山陽新聞』-「社説」)

 疑惑がより深まったと言わざるを得ない。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件である。派閥の幹部だった国会議員と事務局トップの説明が大きく食い違い、国民の政治不信は募る一方だ。
 事件の主な舞台となった安倍派の事務局長で政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪に問われた松本淳一郎被告の公判が東京地裁で行われている。被告は先日の第2回公判で、2022年4月に一度中止となったパーティー券販売ノルマ超過分を所属議員側に資金還流する仕組みについて、同年8月に協議した派閥幹部4人の判断で再開が決まったと証言した。
 4人は当時、会長代理の塩谷立下村博文両氏、事務総長の西村康稔氏、参院側会長の世耕弘成氏。還流中止を指示した会長の安倍晋三元首相が同年7月に死去し、対応を協議した。松本被告も同席していた。
 4人は事件の発覚後、国会の政治倫理審査会に出席し、還流再開の経緯を問われたが、8月の幹部協議で決定したとの説明は一切なかった。西村氏と世耕氏は「結論は出なかった」と断言し、下村氏も「結論が出ず、その後復活した」とした。塩谷氏は「具体的に決めてはいない」とした上で、還流を「継続するしかない状況で終わった」と述べていた。正反対の内容の証言が新たに出てきたことで、4人には改めて説明責任が強く問われよう。
 再開決定後、4人が手分けして所属議員側に伝達したなどと証言は具体的だ。松本被告は連絡を終えるのを待って還流を再開したという。「私が独断で『還流します』とは一切言えない」との主張も、幹部の国会議員と事務局職員という立場を考えれば、説得力がある。
 先の公判では、幹部協議に至ったいきさつについても「7月末ごろに、ある幹部から『ある議員が還流してほしいと言っている』と再開を要求されたことから、塩谷氏に相談したことで開催された」と説明した。幹部の氏名は明らかにしなかったが、共同通信は「下村氏が再開を要求した」と派閥関係者が東京地検特捜部の事情聴取に供述したと報じている。下村氏は否定している。パーティー券収入の一部を政治資金収支報告書に記載せず、裏金化する悪弊が温存されることになった重要な局面である。徹底解明をしなければならない。
 裏金事件を受け、規正法は先の国会で改正されたが「抜け道」だらけで実効性に疑問は拭えない。これで幕引きとすることは許されない。裏金づくりはなぜ始まり、何に使ったのか。事件の全体像は依然、闇の中だ。再発防止を図るには事実を明らかにし、今後の教訓とする必要がある。
 渦中の議員が説明責任を果たすため、国会は、うそをつくと偽証罪に問われる証人喚問も視野に入れ、対応を迫るべきだ。