安倍派裏金のキックバック復活は「ある幹部の要望だった…」 会計責任者が法廷で語った一部始終(2024年6月18日『東京新聞』)

 自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件で、政治資金規正法違反(虚偽記入)罪に問われた安倍派事務局長で会計責任者の松本淳一郎被告(76)の第2回公判が18日、東京地裁であった。松本被告は被告人質問で、パーティー券販売ノルマ超過分の議員への還流をやめると決めた経緯について「ある幹部が再開を要望してきた」と発言。約1時間に及んだ公判で、被告は安倍派の「裏金づくり」をどこまで語ったのか。(中山岳)
◆中抜き分「認識していない」
 松本被告は5月10日の初公判で、2018~22年の安倍派の政治資金収支報告書に収支計約13億5000万円を記載しなかったとする起訴内容を大筋で認めた。一方、議員側がパーティー券のノルマを超えた分を納めない「中抜き」について、18、19年の計約8000万円は「認識していない」と虚偽記入を否認している。
松本淳一郎被告の初公判が開かれた東京地裁104号法廷
 18日の公判で松本被告は紺のスーツに赤いネクタイ姿で入廷し、裁判官席に向かって一礼。裁判長に促され、証言台の席に座った。
 被告人質問でまず、弁護人は18、19年の中抜き分について「留保金(中抜き)は認識していなかったか」と切り出した。松本被告は「はい。認識しておりませんでした」と述べ、前の会計責任者や事務担当者から引き継ぎも受けなかったという。
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◆「ノルマ達成ならいいと」追及せず
 弁護人から「2019年のパーティー後、議員側からノルマの超過分を派閥に入金しないといけないか聞かれたか」と質問され、「時期は覚えていないが、そういうやりとりはした」と供述。「納付しなくてよいと言った?」と重ねて尋ねられると、「たぶん、そのようなことを言った」と認めた。弁護人から「議員が報告せずにプールしているとは思わなかったか?」と問われると、「そこまでは思わなかった」と述べた。
 中抜きを認識したのは20年ごろだったと主張。派閥の事務局は、ノルマより多い枚数のパーティー券を各議員に割り当てていたが、19、20年の2年間はノルマと売り上げが一致する議員が多かったことから不自然に思い、中抜きを疑ったとする。ただ、弁護人が「議員側に確認しなかったのか?」と質問すると、「申し訳ありませんが、確かめていない。ノルマが達成していればいいと思った」と小さな声で答えた。中抜きの総額は、検察の取り調べで知らされるまで知らなかったという。
◆還付金の額は「細田会長のゴーサイン」
 弁護人の質問が続く。収支報告書を提出する前、どんなチェックをするか問われた松本被告は「収支の合計額や、数字のチェック、誤字脱字がないかなどだ」と説明。弁護人から「形式的な面か?」と問われ、「はい」と答えた。
 安倍派でのパーティー券の販売ノルマや還付金額の決め方を明かす場面もあった。2019年分のパーティー券のノルマ設定について聞かれ、「ノルマの案を私が考え、会長に説明する。会長がそれをご覧になった後、『これで行け』と指示するので、それぞれの会員(議員)に連絡する」と説明。当時の会長は細田博之氏=23年に死去=だった。還付金については、「パーティー後、ある程度の入金状況が分かると会長に説明する。『還付していいよ』とゴーサインが出てから手続きする」と話した。
安倍晋三会長が「いろいろ問題が」
 弁護人の質問は、還流がいったん廃止された後、再開された経緯に移る。「事務局長の時、還付をやめたほうがいいという動きはあったか?」と問われ、松本被告は「22年4月ごろあった。会長から呼ばれ、『還付のやり方はいろいろ問題があるんじゃないのか?』と言われた」と答えた。弁護人から「安倍(晋三)会長ですよね?」と尋ねられると、「そうです。会長からの指示で幹部を集めた」と明言した。
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(左上から時計回りに)下村博文塩谷立世耕弘成西村康稔の各氏
 安倍氏の指示で開かれた会合は、安倍氏松本被告に加え、当時会長代理だった「塩谷立先生」と「下村博文先生」、「事務総長の西村康稔先生」、「参院(幹事長)の世耕弘成先生」の4人が出た。この会合で安倍氏は「還付の仕方は問題あるからやめた方がいいのでは」と提案し、了承されたという。
◆幹部抜きでの独断「それはできない」
 だが、同年7月の安倍氏の死去後、廃止の流れは一転する。弁護人が「方針の変更があったのか」と問うと、松本被告は「ある幹部から私に、『一部の議員が還付してほしいと言っている』と言われた」と明かした。幹部4人と8月に再び会合を開き、「いろんな議論があったが、方向性として還付しようとなった」と説明。弁護人から「還付が決定されたのか」と質問されると、「はい。還付してほしいという議員が他にも何人かいたということで、還付やむなしという結論になった」と述べた。
 弁護人は「幹部の知らないところで、松本さんが事務局長として独断で還付することは?」と質問。松本被告は「それはできません」と即答し、会長はじめ幹部の議員の決定に従っただけだと強調した。
◆中抜き金額「こんなにあるのかと驚いた」
 一方、弁護人から「会計責任者は重い責任がある。責任を果たしてきたと言えるか?」と問われると、「残念ながら、十分に果たしてきたとは言えません」と淡々と答えた。「社会的影響は非常に重く感じており、おわび申し上げる。(収支報告書の虚偽記入は)ずっとこのやり方を踏襲してきたが、やめることを考えればよかった。世の中の方々に疑惑を持たせてしまって大きな反省をしている。妻をはじめ家族に心配をかけ、謝りたい」と、後悔と謝罪を口にした。
 弁護人から最後の質問で、議員たちの中抜き分の金額を知ってどう思ったか尋ねられ、「こんなにあるものかとびっくりした。それを私たちが明らかにできなかったのは大きな反省です」と神妙に答えた。
 この日は全て弁護人が松本被告に質問した。還流再開のきっかけとなった「ある幹部」が誰かや、還流再開を希望した議員が誰かについて弁護人の質問はなく、松本被告も述べなかった。次回の公判は7月9日で、検察側が質問する予定。
◆政倫審での説明と矛盾する幹部も
 還流継続を決めたとされる22年8月の会合について、幹部4人のうち塩谷立氏は今年3月の衆院政治倫理審査会で「(還流廃止で)困っている人がたくさんいるから、仕方ないぐらいの話し合いで継続になった」と説明した。一方、他の3人は「継続議論で終わった」(下村氏)などと主張し、松本被告の説明と食い違っている。
 松本被告の公判後、下村氏は「衆院政治倫理審査会で説明した通り」、西村氏は「私が還付を指示、了承したことはない」とのコメントを出した。