高山一実さんを突き動かす「誰かのため」 乃木坂46を卒業して絵本作家に チャレンジの軌跡に迫った(2024年7月2日『東京新聞』)

 女性アイドルグループ「乃木坂46」1期生の高山一実さんが、古里の千葉県南房総市を訪れた際に、東京新聞のインタビューを受けた。2月に発売した自身作の絵本「がっぴちゃん」(絵・みるく、KADOKAWA)を携え、同市の子どもたちに読み聞かせ会を開いている高山さん。その思いを語った2回の記事に続き、今回は番外編として、アイドルを目指したきっかけや今後の活動についてたっぷり紹介する。
 
高山一実さんインタビュー>全3回
<番外編>高山一実さんを突き動かす「誰かのため」 乃木坂46を卒業して絵本作家に チャレンジの軌跡に迫った(この記事)
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アイドルを目指したきっかけなどについて振り返る高山一実さん=千葉県南房総市
◆「近づきたい」って思ったのが原点
 ーアイドルを目指した原点は。
 最初は、「天才テレビくん」とかNHK教育テレビに出演する同世代の子たちを見て、「ああ、いいなあ」と憧れました。小学校高学年の頃に「ピチレモン」という当時のティーン誌を買い始めると、そこでも同世代の女の子がメイクして、人気のブランドを着て、すっごくかわいい。地元で売ってる洋服を、なんなら自分の意思じゃなくてお母さんに選んでもらった洋服を着てる自分と、180度違って見えて。「近づきたい」って思ったのが原点かもしれません。
 まず洋服から近づこうと思って、夏休みなどに東京にしかない洋服屋さんに行くようになりました。お小遣いを握り締めて、1着でもいいからちょっと高い服を買うみたいなことがすごい幸せで。そうしているうちに同世代の活躍の場がどんどん増えていくんですね。モデルさん、女優さん、アイドル。その内で一番引かれた職業がアイドルでした。
◆「なれるもんならなりたい」
 ただ、当時私はずっと剣道をやっていて、髪の毛を伸ばしても怒られる。力を付けないと怒られるから体格も良くて。アイドルになりたい夢は両親に言ってなかったこともあって、なかなか剣道をやめることもできなくて。憧れは憧れのまま、しまっていました。
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読み聞かせの後、園児と一緒に踊る高山さん=千葉県南房総市
 高校に入って剣道をやめ、自分の自由に時間をすごすようになってからは「アイドルが好き」という思いを前面に出して、アイドルを見に行ったり、アイドルのDVDを家でずっと見てたり。両親も、私がアイドルを好きなことに気付いたと思います。見てるだけで十分という気持ちもありましたが、やっぱり、天才テレビくんを見た時とか、ピチレモンのモデルさんを見たときの「いいなあ」って思いはやっぱりあって。「なれるもんならなりたい」と思っちゃいましたね。
 ーレッスンを積んでオーディションに合格。
 そうです。オーディションに運良く受かったので。受からなかったら、大学に行って、それはそれで東京に出てたとは思うけど、たぶん年齢とかで区切りを付けて、芸能の道は諦めていたと思います。
◆「これからもいい人生だったら、ボーナス」
 ー乃木坂を卒業して、現在の気持ちを聞かせてください。
 乃木坂ではいいことばかりでしたから、卒業コンサートの日に「明日から不幸になります」と言いました。これからちょっと悪いことが起きても、「これまで30年間わりと幸せに生きてこられたからいいよ」という思い。これからもいい人生だったら、ボーナス。
 がっぴちゃんを大勢の人に知ってもらえてたら一番うれしいですが、そこまでならなくても、読み聞かせを聞いてくれた子たちが、「そういえばさあ、がっぴちゃんかわいかったよね」と思い出してくれたらすごくうれしい。自分がこうなりたいというよりも、自分以外のものが羽ばたいてほしいって思いに変わったんだなという、心境の変化を感じてます。
◆「衝動的に」絵本ができちゃった
 ー「がっぴちゃん」はシリーズ化を目指しているが、絵本作りにも原点のようなものはありますか。
 絵本は昔から好きです。わが家にバムとケロという絵本シリーズ(島田ゆか作・絵、文渓堂)があって、バムとケロは子どもの頃から大好き。私は絵がうまくないけど、「絵は描けないけど絵本を作りたい」という思いが暴走したのを、KADOKAWAの編集者さんに助けていただきました。
 文章は、衝動的に浮かび上がってきて。私、ご飯が好きで。思い返すとやっぱり南房総で昔からおいしい海鮮を食べて育ったからでしょうか。そこで「おいしいハマグリを食べたいから有名な(三重県の)桑名まで行こう」って言って、実際に行ったのが去年の話。桑名のハマグリは本当においしくて感動して。この思いをどうしようと思ったときに、絵本ができちゃったんですよね。
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園児たちの方へ身を乗り出すようにして読み聞かせする高山一実さん=千葉県南房総市
 がっぴちゃん作りは本当にワクワクして、これが世に放たれるのがすごくうれしかった。みるくさん(絵)やデザイナーさんたちの力をお借りして「いいものができた」って心から思います。なのでこれからも、がっぴちゃんのことだったら頑張れる。私がいま何の絵本も書いてなくて今から何かを作ろうとすると、どこかでくじけちゃいそうな気がしますが、がっぴちゃんの続編を作ろうということなら、すごく頑張れる。がっぴちゃんだったらこうかなあとか、こんな世界あるかなあと思うのが楽しい。
◆「みんなのためなら頑張れる」
 ータレントとしての活動はどうなりますか?
 読み聞かせで、南房総の子どもたちも私のことを知っててくれたし、テレビに出ている方がみんな喜ぶかなという思いはあります。高山一実一人のためでは頑張れないけど、みんなのためなら頑張れる気持ちになります。今いただいてるレギュラー番組も、関係者の皆さんを大好きだから全然頑張れる。対して、初めて呼ばれる番組とか、どんどんいっぱい露出しなければ、という頑張りは、うーん。
 たぶん私は、ずっと「誰かのため」というのを探しているんでしょうね。アイドルになりたいという夢だけは自分のためでしたが、アイドルという職業がすてきだと思うのは、人のために頑張れること、ファンの方のために頑張れる仕事だから、それがすごいすてきだなと思って。
 でも今はそれがなくなっちゃったから、ずっとたぶん誰かを探してて。それが子どもたちだったり、がっぴちゃんを手に取ってくれる方々だったり、そのために頑張るって思いに変わっていくんだと思います。

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「ぼくはここだよ。 ちきゅうさん、おはなししよう。」
がっぴちゃんは 5さいになりました。
おたんじょうびのよるに、おかあさんはいいました。
「ちきゅうさんというとってもおおきなともだちが
あなたをまっているわ。
はずかしがりやさんだから
たくさんあるいたらみつかるはずよ。」
がっぴちゃんのぼうけん、はじまりはじまり!
「ぼくはここだよ。
ちきゅうさん、おはなししよう。」
著訳者プロフィール
●高山 一実:1994年2月8日生まれ、千葉県南房総市出身。2011年8月、乃木坂46第一期メンバーオーディションに合格。グループ在籍中の16年から『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)誌上で連載され、18年に刊行したデビュー小説『トラペジウム』は「平成世代が買った本1位」(日販WIN+調べ)となり、累計30万部を突破。21年11月にグループを卒業してからはソロタレントとして活動。『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(テレビ朝日)や『オールスター後夜祭』『私が女優になる日_』(TBS)のMCなどを務める。
●みるく:インスタグラムなどSNSを中心に活動するイラストレーター。
ゆるくてやわらかそうなお絵かきをしている。