激震の鹿児島県警 「隠蔽」巡り食い違う主張 捜査手法に批判も(2024年6月20日『毎日新聞』)

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野川明輝・鹿児島県警本部長
 鹿児島県警の前生活安全部長、本田尚志(たかし)容疑者(60)が国家公務員法守秘義務)違反容疑で逮捕された事件が、県警全体の信頼を揺るがす事態に発展している。本田容疑者は県警トップの本部長が不祥事を隠蔽(いんぺい)しようとしたと「告発」。本部長が疑惑を全面的に否定する異例の展開となり、警察庁も監察に乗り出す方針だ。鹿児島地検は21日にも本田容疑者を起訴するかを判断する見通しだが、一連の問題に県警がどう説明責任を果たすのかも注目が集まっている。
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 ◇「告発」内容につじつま合わない部分も
 「県警職員が行った犯罪について、野川明輝(あきてる)本部長が隠蔽しようとしたことが許せなかった」。5日、鹿児島簡裁であった勾留理由開示の手続きで、本田容疑者は県警の捜査情報を漏らした理由を語り、弁護人は「内部通報」だったと主張した。
 背景にあったのは、県警で相次ぐ不祥事だ。2023年10月以降、逮捕された現職警察官は4人。うち1人は同年12月に盗撮事件を起こしたとして逮捕された枕崎署員で、本田容疑者が隠蔽疑惑を具体的に指摘した事件だった。
 本田容疑者は簡裁の法廷で、部長在任中に枕崎署員の事件着手を野川本部長に打診したと主張。だが、野川本部長から「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言われ、事件を指揮する際の押印もしてくれなかったとした。県警が枕崎署員を逮捕したのは、本田容疑者が定年退職後の24年5月だった。
 これに対し、野川本部長は「隠蔽を意図して指示したことは一切ない」と全面的に否定。11日に開かれた県議会の委員会の中でも「本部長事件指揮簿が作成された事実は確認されていない。事件認知時に前部長が私のところに来た事実もない」と強調した。
 本田容疑者は、霧島署員が巡回連絡簿を悪用して女性にストーカー行為をしたとする不祥事も野川本部長が隠蔽しようとしたと主張。ただ、この点も野川本部長は県議会の答弁で「職員を処分し、必要な対応が取られている」と否定し、主張が食い違っている。
 加えて、本田容疑者の「告発」内容につじつまが合わない部分もあり、さらに事態を混乱させている。県警などによると、本田容疑者は定年退職後の24年3月28日ごろ、部長在任中に入手した内部文書などを北海道在住で面識の無いフリーの記者に郵送。送付書面には、問い合わせ先として同じく3月で県警を定年退職した前刑事部長の名前や連絡先が記載されていた。さらに枕崎署員の盗撮事件については、野川本部長ではなく、前刑事部長が「静観」を指示したという趣旨の記載もあった。
 本田容疑者は弁護士を通じて10日にコメントを発表し、自身の関与を隠すために隠蔽を指示した人の名前は本部長ではなく、前刑事部長に変え、その連絡先も記載したと釈明。「実際に隠蔽を指示したのは本部長」と改めて強調し「前刑事部長を陥れる意図はなかった」と謝罪したが、不可解な印象は拭えない。
 ◇偶然見つかった内部文書のデータ
 さらに、本田容疑者の逮捕に至る経緯を巡っても県警に批判の目が向けられている。
 23年10月、インターネットメディア「ハンター」が県警の捜査資料「告訴・告発事件処理簿一覧表」の一部とみられる画像を掲載した。県警は24年4月8日、内部文書を情報漏えいしたとして曽於(そお)署員を地方公務員法守秘義務)違反容疑で逮捕した。捜査関係者によると、この事件の関係先としてハンターで代表を務める男性記者宅も家宅捜索を受けた。そこで本田容疑者がフリー記者に送った内部文書のデータが偶然見つかり、今回の逮捕につながったという。フリー記者はハンターでも記事を執筆していたためだ。
 ◇識者は告発者の逮捕に危機感
 識者は、内部告発のために報道機関に送った資料が捜査機関に押収され、告発者の逮捕につながった異例のケースとして危機感を訴える。早稲田大の沢康臣教授(ジャーナリズム論)は「報道機関は多くの取材協力者を擁している。メディアへの広範な捜索をきっかけに取材協力者が逮捕されたのは、憲法が保障する取材の自由と真っ向からぶつかる。これでは公権力や組織の不正を明らかにしようとする人を萎縮させてしまう」と指摘する。
 ハンターへの家宅捜索を巡っては、代表の男性記者が「県警は捜索時に令状を示さず、押収したパソコン内から文書データを同意なく削除した」とも主張し、県警に苦情を出す事態にもなっている。県警監察課は個別の苦情の有無は明らかにしないとした上で「令状の明示や、データ削除時に必要な同意など適正な捜査と任意性を確保している」と回答したが、両者の主張は平行線のままだ。
 警察大学校特別捜査幹部研修所長などを務めた警察庁OBで中央大の四方光(しかたこう)教授(刑法)はかつて野川本部長、本田容疑者と警察庁の同じ職場で勤務した経験があり「いずれも誠実に仕事をされる方だった。その2人が対立しているのは非常に残念」と驚きを隠さない。その上で「県警には説明責任が求められるが、警察庁も監察に入るとのことなので、第三者の立場から納得できる説明をしてほしい」と話した。【取違剛】
 

逮捕された鹿児島県警の元生活安全部長 現職時代の“公用パソコン”から漏えい情報を作成した形跡(2024年6月20日『TBS NEWS 』)
 
警察情報を漏らしたとして逮捕された鹿児島県警の元部長が、在職中に使っていた公用パソコンから、記者に郵送した資料を作った形跡が見つかっていたことがわかりました。
鹿児島県警の前の生活安全部長・本田尚志容疑者(60)は、在職中に入手した警察情報を記者に郵送したとして、逮捕・送検されました。
関係者への取材で、県警が別の情報漏えい事件の捜査の過程で、本田容疑者が在職中に使っていた公用パソコンを調べたところ、記者に送るための情報を作った形跡が見つかっていたことがわかりました。
本田容疑者の弁護人は、「不祥事を明らかにしようとした内部告発で、守秘義務違反罪にはあたらない」と主張しています。
警察庁は来週にも県警に監察官を派遣し、不祥事を検証する方針です。