命の残り時間に気付かされた時…(2024年6月17日『毎日新聞』-「余録」)

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最期のプロジェクトに挑む大野寿子さん=本人提供
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大野さんの著書「メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた」
 命の残り時間に気付かされた時、人は何が一番大切なのかを知る。千葉県浦安市に住む大野寿子(おおの・ひさこ)さん(73)にとってそれは、少女や少年が困難を乗り越え、夢に向かって奮闘する姿を伝え、残すことだった
▲難病を患った子どもの夢をかなえる慈善団体「メイク・ア・ウィッシュ」が日本支部を設立したのは1992年である。大野さんは6年後に事務局長となり、18年間務めた
▲筋肉の病気に侵されながら、野球選手に会うため京都から甲子園球場まで1駅ずつ歩いた少年。白血病で体力が衰える中、絵本を作り続けた少女。大野さんが夢の実現を手伝った子どもは約3000人になる
▲その本人に今年2月、肝内胆管がんが見つかった。腫瘍は約7センチに膨らみ、リンパ節に浸潤していた。手術や放射線治療は不可能である。終末期医療を視野に入れ、自分の夢と向き合った
▲子どもたちを紹介した自著「メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた」はすでに絶版になっていた。できるだけ多くの人に、これを読んでもらいたい。無料(協力してもらえる人には有料)配布を決め、自費で500部を刷り直した
▲大野さんは言う。「病気の子は自分のことでいっぱいいっぱいのはずです。でもみんな誰かの役に立ちたいと思い、心から他者の幸せを願っていました」。そうした姿を伝える本の配布は「最期の大野プロジェクト」と名付けられた。スタートはきょう17日。子どもたちと大野さんの夢を乗せた本が、希望者に届けられる。