小池百合子氏の出馬で気になる「カイロ大学卒業をまた明記?」そろそろ疑惑に決着をつけないか(2024年6月14日『ダイヤモンドオンライン』)

鎌田和歌:フリーライター
都知事選への立候補を表明した小池百合子氏。今回も「カイロ大学卒業」を主張するのか 
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Photo:JIJI
ついに次期都知事選への立候補を表明した小池百合子都知事。気になる点の一つは、選挙公報経歴に「カイロ大学卒業」を記載するかどうかだ。以前から学歴詐称が取り沙汰されているが、今回もその「疑惑」が再燃。かつての知人や側近からの告発が相次ぎ、元側近の一人は「カイロ大卒業」を選挙公報に記した場合、刑事告訴を行うと明言している。燻り続けるこの疑惑、そろそろ決着をつけようではないか。(フリーライター 鎌田和歌)
ついに都知事選出馬を表明小池氏本人が最も気にしていること
 ついに都知事選への再出馬を表明した小池百合子都知事蓮舫氏との一騎打ちとなるのは必至の情勢だが、ご本人が気にしている点の一つは「学歴詐称疑惑」についてメディアがどこまで追及するかだろう。
 今春、元側近の小島敏郎氏が4年前の都知事選で「学歴詐称工作に加担してしまった」と告発を行った(文藝春秋4月25日発売号)。
 また、2020年に発売された『女帝 小池百合子』(石井妙子著)の中で、小池氏の「学歴詐称疑惑」を告発していたカイロ大時代の同居人・北原百代氏が、文庫化にあたって実名を公表した。取材を受けた記事の中で改めて「帰国直前の進級試験で落第したのは本人から聞いている。卒業しないまま帰国したと考えるのが自然だ。アラビア語も卒業できるレベルにはなかった」と語っている。
【参考】
 
 なぜ、いつまでも「疑惑」がくすぶりつづけるのか。カイロ大が卒業を認めているのだから、もう疑惑は晴れたのではないかと思っている人も中にはいるだろう。このやや複雑な「疑惑」のこれまでの経緯を、いったん振り返ってみたい。
疑惑は払拭されていないのか?作家から元側近まで度重なる報道の経緯
 まず、カイロ大にまつわる小池氏の「疑惑」は、「カイロ大首席卒業」と「カイロ大卒業」とがある。
 「首席」卒業については小池氏が1980年代に書いた自身の著書中の記載だが、この点を指摘された小池氏は2018年6月19日の都議会答弁で「なお、首席につきましては、当時の担当教授の言葉を鵜呑みにしたということでございまして、そのことで嬉しくなって、その旨を記述したということでございます」と発言。迂遠な言い回しであるが、実質的に虚偽を認めている。
 
 一方で「卒業」自体していないのではないかという「疑惑」については、これまで小池氏は複数回にわたって否定している。
 国会議員時代からあったというこの「疑惑」は2016年の都知事選でも取り上げられたが、小池氏は「卒業証書」と「卒業証明書」をワイドショーの番組担当者に送ることで乗り切った。ただしこれらの証書についても、偽造の疑いが指摘されている。
 その後、石井妙子氏によるルポが文藝春秋に載り、2020年の都知事選に合わせるかたちで『女帝 小池百合子』が出版される。ちなみに発売日の2日前(5月27日)に小池氏は出馬を表明していたが、同日にプレジデントオンラインで「『カイロ大学卒業は本当』小池百合子東京都知事学歴詐称疑惑」というタイトルで、証書偽造疑惑を打ち消す内容の記事が掲載されている。
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 『女帝』発売の影響を危惧した記者による記事だったのかもしれない。
 同居人の北原氏の証言を掲載し、小池氏のこれまでの歩みを詳らかにした『女帝』のインパクトは大きく、都議会でも追及が続いた。これが鎮火したのは、出馬表明から約2週間後の6月9日に駐日エジプト大使館がFacebookページで小池氏の卒業について声明を発表したからだった。
 声明には「遺憾なことに、日本のジャーナリストが幾度もカイロ大学の証書の信憑性に疑義を呈している。これはカイロ大学及びカイロ大学卒業生への名誉毀損であり、看過することができない」「本声明は、一連の言動に対する警告であり、我々はかかる言動を精査し、エジプトの法令に則り、適切な対応策を講じることを検討している」といった内容が含まれており、日本の報道を厳しく牽制するものだった。このためか、その後の報道はトーンダウンする。
 これで学歴詐称疑惑は終わったかに見えたが、小池氏にとって3回目の都知事選イヤーとなる今年に入って行われたのが、元側近の小島敏郎氏の告発である。この告発は、2020年の駐日エジプト大使館の声明は、小池氏サイドが原案となる文章を作ったというセンセーショナルな内容だった。
「疑惑」払拭のために今回はどんな手を使うのか
 小島氏は弁護士で、都民ファーストの会の事務総長を務めた人物。文藝春秋記事によれば、小島氏は2020年当時、小池氏の「学歴詐称疑惑」を疑っておらず、当時『女帝』の発売で狼狽する小池氏に「カイロ大学から、声明文を出してもらえばいいのではないですか」と提案したのだという。
 
 その数日後にカイロ大学総長の署名入り声明が、駐日エジプト大使館のFacebookに掲載される。その早さに驚いた小島氏はその後、声明文の文案を書いたのが、小池氏のブレーンの一人だったジャーナリストA氏だと知るに至った、という顛末だ。
 小池氏が学歴詐称をしたという確定的な証拠はいまだない。しかし小島氏の告発は、2020年に報道がトーンダウンしたきっかけであるエジプト大使館Facebookの声明文が、小池氏の疑惑を払拭するものにはならないと思わせるに十分な証言である。
 小島氏は、今回の都知事選で小池氏が再び経歴に「カイロ大卒業」を明記するかに注目している。2020年やそれ以前については、公職選挙法(虚偽事項公表罪)の公訴時効である3年が過ぎてしまっているが、今回小池氏がそれを書けば、刑事告訴することが可能だからだ。
問われる小池氏の手腕 世論の反応は鈍いが油断は禁物
 当時の同居人や知人が糾弾し続け、かつての側近も反旗を翻した。しかし、次から次へと証言が出続ける「学歴詐称疑惑」について、世論の反応はいまいち鈍い。
 「疑惑の段階だからわからない」というよりも、情報が氾濫する現代においてどの程度濃厚な疑惑なのか、その内容を把握しきれていない人も多いのだろう。
 また、一時期は「既得権益を貪る自民党のおじさん議員」との対決姿勢を打ち出していた小池氏のイメージがいまだ強く、「おじさんに盾ついたから疑惑を持ち出されていじめられている」と思っている層や、「候補者選びの争点はそこにない」と考える層もいるのかもしれない。
 しかし、小島氏の告発記事から読み取れるのは、学歴詐称疑惑への追及に都議会自民党が加わることを懸念した小池氏が、自民党に強く出ることができなくなり、次第にすり寄っていった姿である。学歴詐称疑惑に小池氏がどのように対応するかは、小池氏が再選した際の政治手腕を占うものと言える。
 2020年はFacebookの声明文で乗り切った小池氏。今回はどのような手でこれを乗り切ろうと動くのか。都民ならずとも注目したい点である。