「記者に張り込みされるから公開できない」抜け穴だらけの政策活動費、維新が領収書黒塗りを主張した驚きの理由(2024年6月11日『現代ビジネス』)

抜け穴だらけの政策活動費
キャプチャ
写真提供: 現代ビジネス
 政治資金規正法の一部を改正する法律案が6月6日に衆議院を通過した。
 政治資金パーティーの購入者についての公開基準がこれまで20万円以上だったのが5万円以上になったことなどが決まったが、注目されたのは「政策活動費」の扱いだった。
 政策活動費はこれまで政党が党幹部個人に支出されてきた。特に自民党では幹事長に毎年数億円が支出されているが、その使途は明かされてこなかった。そのことに対する批判もあり、自民党日本維新の会を除く各党は廃止すべきだという主張を展開していた。
 自民党日本維新の会と合意した政策活動費についての内容は、「政党から政治家個人への寄付の特例を廃止の上、年間の使用上限を設定し、10年後に領収書、明細書等とともにその使用状況を公開すること」としている。
 要するに、特定の個人に出すのではなく、党として「特定支出枠」を作り、その領収書や明細については10年後に公開する……というのが維新の主張で、それを自民党が受け入れたということだった。
 もっとも、「具体的な公開の方法については今後検討していく」ということに留まっており、実効性には疑問の声が多い。
 国民民主党玉木雄一郎代表はこの法案の衆議院通過に「ありえない」と憤る。
 「一番の問題は政策活動費です。裏金問題を起こした議員が『政策活動費だと思った』と言い訳にしていたわけです。政策活動費を使うと言っているのは自民党と維新だけ。その2党が合意して作るなんておかしい。内容も抜け穴だらけで、政策活動費をむしろ合法化する法案だ」
 実際、立憲民主党や国民民主党は過去には政策活動費を使っていたが、現在では使っておらず、公明党は以前から使っていない。自民党と維新だけが政策活動費の温存に固執したのだ。
 維新の藤田文武幹事長は、委員会で可決された後の記者会見で、「抜け穴だらけ」という批判に次のような反論をした。

 「穴を塞いでいくということを自民党と協議し、最終的に我々が言う抜け穴は全て塞げた。大自民党を相手に100点に近くのませた。今回については誰が見ても相当大きく前進する政治改革の一つだ」
維新議員から繰り返された珍説
キャプチャ2

答弁する維新の青柳議員(筆者撮影)
 
 
 だが、委員会審議からはとても胸を張れる内容ではないことは明らかだった。
 6月3日の審議で「なぜ10年間公開しないのか」と問われると、答弁者の一人だった維新の青柳仁士議員は「一定程度、政党として今それを出してしまうと外に迷惑がかかってしまうような支出があるということは、我が党として認めているからだ」として、次のように答えている。
 「政府の審議会の委員の方にお知恵を拝借することがあるが、野党に力を貸しているとなれば政府の審議会はもう降りてもらわなきゃいけないというような意地悪をされる可能性は十分ある」
 しかし、政府の審議員を務めている人物が野党に協力したために審議員を降ろされたなどという話は聞いたことがない。実際、維新は2020年に講師代として経営コンサルタントの冨山和彦氏に30万円を支出し、収支報告書にも記載しているが、冨山氏は岸田首相が設置した「新しい資本主義実現本部」のメンバーになるなど、その後も政府の委員に名を連ねている。
 また、2022年の収支報告書では「審査員謝金」として辛坊治郎氏、須田慎一郎氏、三浦瑠麗氏に各60万円支払っている。こうして「野党に力を貸している」ことをこれまで明らかにしてきた点はどう説明するのだろうか。
 また、青柳議員はこうも語っている。
 「選挙の情勢調査をどういったところに何回、どのように委託しているのかということが明らかになると、こういう数字を持って選挙の戦略を立ててくるだろうということが他党に丸わかりになってしまう」
 しかし、これも明らかな詭弁だ。維新の2022年の収支報告書には「情勢調査」としてグリーンシップ社に約3000万円、イチニ社に約600万円を支出していることが記載されている。もちろん他党も同様に調査会社への支出は報告書に明記している。
「使っている店を明かすと記者に張り込みされる」
キャプチャ3
自民党と維新の合意文書の一部
 維新は自発的に昨年の政策活動費の使途をおおまかに明らかにし、11~12月分については領収書も公表した。ところが、その領収書は日付と宛名と金額以外は黒塗りにされたもので、支出先は明らかにされなかった。その上、その多くは飲食店での支出だった。
 この点について問われると、同じく答弁に立った中司宏議員は次のような珍答弁をした。
 「我が党では、利用する飲食店が大体決まっている。具体的な店舗の情報が公開されるということで、張り込みや待ち伏せなど政策活動に重大な支障が生じる恐れがある。また、先方にも迷惑がかかる可能性がある」
 一方、自民党鈴木馨祐議員は「特段、公開できない飲食店があるとは承知しておりません」と答えた。もっとも、総理大臣に至っては首相動静として行った店が全て新聞に載るほどだ。維新だけが「どうしても党幹部が使う飲食店の名前は教えたくない」というのはあまりにも無理がある。
 使った飲食店も公開できないとなると、世間から批判を浴びるような店を使っているのかという疑念を生じさせ、政治不信を招くだけだ。むしろ政治改革が後退した印象すら与える。
 ところが、馬場伸幸代表は法案が衆議院を通過した直後の記者会見でこう語っている。
 「もう既に、複数の飲食店にある記者がいろんな調査に回っているという情報が我々のところに入っています。それが事実かどうかは別として、やはり飲食店はお客さん商売ですから、そういうところに皆さんがどんどん取材に行けば、先方に迷惑かかるのは当たり前です」
 これも理解し難い説明だ。そのお店に行ったこと自体が問題になるようなケースを除き、記者がわざわざ政治家の行きつけのお店に取材攻勢をかけるということは考えにくいからである。また、まだ公開していないにもかかわらず既にそういう被害を受けているというのならば、非公開にしたところでどのような効果があるのかわからない。キャプチャ4
険しい表情で遠藤国対委員長と話す馬場代表(筆者撮影)
 「抜け穴だらけ」という批判の最たるものは「なぜ公開が10年後なのか」ということに説得力のある説明が全くなされていないからだ。
 離合集散を繰り返す政界にあって、10年後には今の政党が存在しているかどうかもわからない。10年前にあった民主党、維新の党、生活の党、次世代の党などは、今はもう存在しない。
 事実、維新の馬場代表も「10年という数字に何か完全な根拠があるわけではありません」と語っている。
 岸田総理は「10年後に公開しなかった場合の罰則については今後検討していく」と述べるにとどまっている。つまり、現状は10年後にどのように公開するのか、また公開しなかった場合の罰則があるのかも決まっていないのである。
 国民民主党の玉木代表は次のように指摘する。
 「政治資金規正法の不記載の罪、あるいは所得税法納税の義務の違反、こういったものは全部公訴時効が5年です。10年後に罰則に問うことはできない。だから10年にしたのではないか」
政治改革の熱意なき空疎な国会審議
キャプチャ5
いつも通り淡々とした答弁に終始した岸田首相(筆者撮影)
 この法案では政策活動費については、「政治活動に関連してした支出」についての領収書や明細を公開していこうという方向性が決まったというのにすぎない。
 問題はこれだけではない。まず、水道光熱費や人件費についても明細を明かす必要がない。また、「払い切り」の問題もある。100万円受け取っても政治活動に50万円しか使わなかった場合、50万円分の領収書を公開しても残る50万円を返還するわけでもない。その場合、本来であれば雑所得として確定申告する必要があるが、その時効はすぎているため逃げ得となる。
 さらに、他の条文では「政治活動(選挙運動を除く)」としている箇所がある一方、政策活動費についての条文では「政治活動」とだけにしているのは、自民党が政策活動費を選挙活動費として配布したいからではないかという指摘もなされている。選挙運動への支出は詳細が明かされないのであれば、まさにブラックボックスそのものである。
 政治資金改革の大きな論点であったはずの政策活動費はこのように「穴だらけ」の状況を是認する形となった。しかし、この点を厳しく追及していた公明党自民党と歩調を合わせて賛成し、同じく賛成した維新は「維新案を自民党が丸呑みして政策が進んだ」と強弁する。
 さらに野党第一党立憲民主党はパーティー禁止法案を出したものの、幹部がパーティー開催を計画していたことが明るみとなり永田町を唖然とさせた。結果、立憲のパーティー禁止法案については他のどの党からも賛成を得られなかった。
 今回の法案は自民党の裏金問題に端を発して議論が始まった。裏金問題に国民が怒っているのは、政治家があまりにもいいかげんに政治資金を扱っているのではないかという不信感を抱いているからだろう。
 政治資金の不記載は違法であるにもかかわらず、何十人もの議員が多額の不記載をしていたのだ。いくら法律を変えたところで、そのルールを守らないのであれば意味がない。それに対して行われたはずの法改正の議論で、各党の姿勢はその不信感を払拭するには程遠いものであったと言わざるを得ない。
 参議院へと移った法案審議を注視したい。
 
小川 匡則(週刊現代記者)