福士蒼汰らアラサーの人気者が集結も
1990年代台は『予備校ブギ』(TBS系)、『GTO』(カンテレ・フジテレビ系)、『魔女の条件』(TBS系)、2000年代は『オヤジぃ。』(TBS系)、『幸福の王子』(日本テレビ系)、『女王の教室』(日本テレビ系)、2010年代は『家政婦のミタ』(日本テレビ系)、『過保護のカホコ』(日本テレビ系)などのヒット作を持つ業界きっての脚本家・遊川和彦。
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その遊川が今冬に手がけるのが『アイのない恋人たち』(ABC・テレビ朝日系)であり、福士蒼汰、岡崎紗絵、本郷奏多、成海璃子、佐々木希ら、主にアラサーの人気俳優をそろえたラブストーリーが放送されている。
しかし、業界内から「視聴率、配信再生数、TVerのお気に入り数などは軒並み不振で最下位争いをしている状態」という声が聞こえてきた。
なぜヒットメーカー・遊川和彦のオリジナル作が不振に陥っているのか。その背景と理由を掘り下げていくと、テレビ朝日系・日曜22時台のドラマ枠、引いては、テレビ朝日の根本的な課題が見えてくる。
令和の時代に合わない恋愛群像劇
『アイのない恋人たち』は、2024年の東京を舞台に7人の男女が織り成す恋愛群像劇。昭和世代の人は「7人の男女」と聞いて、1986年・1987年に放送された『男女7人夏物語』『男女7人秋物語』(TBS系)を思い出した人がいるのではないか。 同作のような主人公だけでなく、周囲の男女を含めた恋模様を描く恋愛群像劇は、主に1980年代から1990年代に流行したジャンル。メジャー作としては『君の瞳に恋してる! 』『君が嘘をついた』『すてきな片想い』『あすなろ白書』(すべてフジテレビ系)などがあるが、2000年代に入ると『オレンジデイズ』(TBS系)や『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』(フジテレビ系)などが時折ヒットする程度に減少していった。
2010年代に入ってもその数は増えず、特に『逃げるが恥だが役に立つ』(TBS系)がヒットした2016年秋以降は恋愛群像劇どころか三角関係ですらなく、主流は1対1の恋愛を描いた物語。実際、『大恋愛~僕を忘れる君と』(TBS系)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)、『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』(日本テレビ系)などでは、ライバルがあっさり引き下がり、1対1の恋愛が描かれていた。 さらに今冬の作品でも、『君が心をくれたから』(フジテレビ系)や『Eye love You』(TBS系)などは基本的に1対1の恋愛を描こうというスタンスが見られる。
近年の恋愛群像劇は、2022年春の『恋なんて、本気でやってどうするの? 』(カンテレ・フジテレビ系)と2023年夏の『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)くらいだろうか。後者は配信再生数こそ伸びたものの、「唯一の夏らしいドラマ」という点が大きかった感があり、ラブストーリーとして視聴者の支持を集めたとは言い難かった。
何か別のことをしながらの“ながら視聴”や、スマホやタブレットなどの“小画面視聴”が定着し、「ドラマを見る集中力や理解力が下がった」と言われる現在、複数の恋愛関係を描いて視聴者を引きつけることは難しい。また、恋の三角関係や四角関係に「嘘くさい」「痛々しい」という声も少なくない中、群像劇という形を選ぶ必要性が薄れている。
なぜレジェンドが若者を描くのか
つまり恋愛群像劇は「昭和の終盤から平成の序盤に流行ったもので、平成の中盤から時代に合いづらくなりはじめ、令和の今はなお厳しくなった」というジャンルなのかもしれない。しかも「令和を生きるアラサー7人の恋愛ドラマを現在68歳の脚本家・遊川和彦が手がける」ところがミスマッチに見えてしまう。
もちろんこれは遊川だけの問題ではなく、企画・プロデュースを手掛ける清水一幸によるところも大きい。その清水は昨春の日曜22時台ドラマ枠新設から4作すべてを手がけてきたが、そのプロデュース戦略に業界内外から疑問の目が向けられはじめている。
ABC制作・テレビ朝日系日曜22時のドラマ枠はこれまで『日曜の夜ぐらいは…』『何曜日に生まれたの』『たとえあなたを忘れても』『アイのない恋人たち』が放送されてきた。いずれも一部の視聴者から上々の評判を得られた一方で、数字面ではふるわず、多くの人々の支持を得られたとは言いづらい。
とりわけ業界内で疑問視されはじめているのは、4作すべてベテラン脚本家のオリジナルであること。順にあげていくと、岡田惠和(64歳)、野島伸司(60歳)、浅野妙子(62歳)、遊川和彦(68歳)で、4人は多くのヒット作を持つドラマ業界のレジェンドであり、その実力に疑いはない。
しかし、一方でいずれも若年層の生き方や恋を描いた物語だけに、「脚本家の年齢や感覚とフィットしているのか?」という疑問の声があがっているのだ。
たとえば、現在61歳の脚本家・福田靖は今冬、父と娘の関係性を描いた笑って泣けるホームドラマ『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)を手がけ、おおむね称賛を集めている。もし遊川がこのようなジャンルの作品を描いていたら、もう少し支持を集められていたように思えてならない。「レジェンド脚本家たちに自由を与えてオリジナルで勝負する」という戦略は素晴らしいが、「なぜ若年層の生き方や恋を描く物語ばかり続けているのか?」という疑問が浮かんでしまう。
さらに岡田、野島、浅野の3人がそれぞれ支持された理由に注目すると、プロデュース戦略の課題が見えてくる。
テレ朝の日曜夜は中高年狙いが顕著
まず『日曜の夜ぐらいは…』は、偶然出会った女性3人の友情を描いた物語だが、これは岡田らしい穏やかで牧歌的な世界観の作品。岡田が手がけた『ひよっこ』(NHK総合)や『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)などが好きで、特に「ドラマで癒されたい」という志向の人から支持された。
次に『何曜日に生まれたの』で描かれたのは、心に傷を持つ引きこもり女性と売れっ子小説家がトラウマから解放され、愛情が生まれていく過程。謎が多く、先が読みづらく、予想を裏切る脚本は野島らしさであふれ、その繊細さと難解さを好む視聴者層から熱烈に支持された。
『たとえあなたを忘れても』は、夢を失った元ピアノ講師の女性と記憶障害を持つ男性のラブストーリー。かつて『ミセスシンデレラ』『神様、もう少しだけ』『イノセント・ラヴ』(すべてフジテレビ系)などで強烈な“恋の障害”を描いてきた浅野らしい物語の系譜で、それを知る層を中心に支持された。 いずれも「以前からの持ち味を発揮して自身のファンを喜ばせる」という点では王道のプロデュースだが、それが「令和の大衆に当てはまるか」は別の話。「かつてメジャーだったものが今はマニアックなものに変わった」という一例にも見えてしまう。
そもそも60代の脚本家にわざわざ若年層の生き方や恋を描かせているからには、「長年のファンである中高年層だけでなく、若年層に見てほしい」という狙いがあるのは間違いないだろう。 しかし、テレビ朝日系の日曜ゴールデンタイムには中高年層向けの『ポツンと一軒家』『サンデーステーション』が並び、「それが終わる22時になったら若年層にチャンネルを合わせてもらおう」という狙いには無理がある。裏を返せば、中高年層に20時台から22時台まで継続視聴してもらうことが必要であり、そのために60代脚本家を起用したのなら合点がいく。
とはいえ、多くのスポンサーの好むのは若年層であり、中高年層ですらテレビから離れやすい日曜22時台はなおさら、無理にでも狙わなければいけないところ。その意味で、「オリジナルで攻めている」というより、「60代脚本家で守りに入っている」ように見えてしまう。
日曜劇場との“かぶり”を承知で開始
昨夏あたりから、このドラマ枠について何度か他局のテレビマンと話してきたが、「ウチの局ならリニューアルするし、春か秋で打ち切りの可能性も十分ありうる」「系列局の制作だとしても、さすがに(キー局の)テレビ朝日はこのままでは許さないのではないか」「テレビ朝日は日曜の編成自体を見直さなければ厳しそう」などの声を聞いた。
“60代のレジェンド脚本家によるオリジナル”という現在の戦略を継続するのか。それとも軌道修正をするのか。制作のABCが選んだのは後者。16日、4月期の同枠で松本まりか主演の『ミス・ターゲット』が放送され、現在40歳の政池洋佑が脚本を手がけることが発表された。これまでの4作とは異なり、脚本家と主人公の年齢が近いラブストーリーだけに、同作で局内外の疑問や不満を抑えたいところだろう。
しかし、各作品の1話放送日は、『日曜の夜ぐらいは…』が4月30日、『何曜日に生まれたの』は8月6日、『たとえあなたを忘れても』が10月22日、『アイのない恋人たち』が1月22日と、他作と比べても極端に遅く、ここに後発ドラマ枠ならではの自信のなさや迷いがうかがえる。
もともとこのドラマ枠は、「民放トップの影響力を持つTBSの日曜劇場(21時~)が“〇分拡大SP”を連発して22時のスタート時間にかぶってしまう」ことを承知でスタートしたはず。さらに日本テレビの日曜ドラマ(22時30分~)も約9年の放送で定着した中、2つのドラマ枠に勝って選ばれなければいけない。少なからず「打倒! 日曜劇場」の気持ちがなければ新設できないドラマ枠であることは確かだ。
まもなく開始1年となるだけに、“中高年のドラマ好き向け枠”と揶揄される状態からいかに抜け出すのか。ABCとテレビ朝日の真価が問われている。 ・・・・・
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木村 隆志(コラムニスト/コンサルタント)