【波紋】「現場は混乱」「『希望する』回答もキャンセル」万博への子ども招待に教育現場に広がる不安 教職員組合は「中止」要求も吉村知事「安全守るのは当然」(2024年6月8日『読売テレビニュース』)

 2025年の大阪・関西万博に学校単位で子どもたちを招待する大阪府の事業について、教員らで作る教職員組合が安全上の懸念を理由に事業の「中止」を求める申し立てを行い、波紋が広がっています。
 大阪府の吉村知事は「安全を守るのは当然」として事業を中止する意向はないと改めて表明しましたが、教育現場を取材すると、事業への参加を「希望する」と回答している学校でも不参加を検討するなど、安全への不安の声が聞かれました。(報告:加藤沙織記者)
■7割が「希望する」回答も…「調整がついてもキャンセルするつもり」
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大阪市立中学校の教員
 「熱中症で生徒が倒れてしまった場合に救急車が間に合うのか、どういうところでケアをしてもらえるのか。色々なことが分かっていないので、現場は混乱している」
 読売テレビの取材に対し、困惑の表情をみせたのは大阪市内の中学校の教員です。
 大阪府は、府内に住む4歳から高校生までを無料で万博に招待することにしていて、各学校に対して校外学習など学校単位で参加するかどうかの意向を回答するよう求め、府内の約1900校のうち、5月末の期限までに約1740校から回答があり、全体の約7割にあたる約1390校が「希望する」と回答していました。
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堺市の中学校の教員
 ただ、このアンケートには「希望する」「未定・検討中」の2つの選択肢しかなく、「希望しない」を選ぶことはできません。
 さらに「希望する」と回答した学校でも、安全に実施するための計画作りに頭を悩ませているといいます。
 堺市の中学校の教員は、「『希望する』と答えたが、主任の先生と話して『行かない』という話になっている。仮に調整がついたとしても、キャンセルするつもりだ」と明かしました。
■メタンガス爆発事故…教員「保護者に質問されても答えられない」
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3月にはメタンガス爆発事故も
 教育現場が懸念として挙げている理由の1つが、3月に起きた建設現場でのメタンガス爆発事故です。溶接作業中の火花が可燃性のガスに引火し、コンクリートの床が約100平方メートルにわたって壊れたほか、天井などにも損傷が見つかりました。
 その後、万博協会は再発防止策をまとめた上で工事を再開したものの、海外や企業などのパビリオンが集結する「パビリオンワールド」の建設現場内でも、再検証した結果、4か所で低濃度のメタンガスを検出したことが判明しました。
 検出された濃度は法令が定める基準値の4分の1以下のため、工事は継続され、協会側は「6月中に安全対策をまとめる」と説明していますが、取材した教員からは、「不安に思っている保護者の方もおられて、それを学校に質問された時に答えられないことが多いのが現状。『どこで昼食を食べられるのか』『爆発事故が起きたところには行くのか、通るのか通らないのか』と聞かれても、まだまだ不透明で答えられない」と苦しい胸の内を明かしました。
■バス足りず会場への「移動は無理」下見できるかも不透明
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「移動」に不安の声
 
 さらに大きな心配の声が聞かれたのは、万博会場までの「移動」です。
 読売テレビの試算によりますと、万博の開催期間中、夏休みと休日を除くと、少なく見積もっても1日平均2700人の児童・生徒の来場が想定されます。
 一方で、大阪府が用意している貸し切りバスは、4~6月が450人分、7~10月が2250人分。特に遠足が集中すると想定される5~6月は、バスを確保するのは困難と想定されます。
 この場合、万博会場までは鉄道などの公共交通を使うことになりますが、会場につながっているのは大阪メトロ中央線のみ。ただでさえ、中央線は利用者が集中すると見込まれる中、遠足の時期が重なれば、相当な混雑が見込まれます。
 東大阪市の学校の教員は、「特に小学生の低学年は1~2駅が限界。トイレも我慢できないし、満員電車での移動は無理」と語りました。
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「下見」に行けない!?
 また、通常の遠足の場合は「下見」を実施して、トイレや昼食場所、熱中症や急病人が出た場合の応急体制がとれるかの確認を行います。
 ところが、万博会場はいまも建設中で、海外のパビリオンがどこまで計画通り建設が進むかも不透明な中、下見がちゃんとできるのか、時期すらも見通せていないのが現状です。
 大阪市の教員は「遠足前に教員は何度も下見する。学校が重なれば、他校の児童・生徒と喧嘩になるリスクもある」と不安をのぞかせました。 
 教員らで作る大阪府内の3つの教職員組合は5日、府などに対し、子ども招待事業を「中止」するよう申し入れました。会見で大阪教職員組合の米山幸治書記長は、「誰も爆発事故が起こらない、安全だという方はいない。遠足に引率する立場として何よりも重要なのは『子どもの命』、そういう意味で、安全が保障されたとはいえない」と訴えました。
■吉村知事「安全を守ることは当然!『全部やめろ』は違うのでは」
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6日の会見
 こうした教育現場の不安に対し、大阪府の吉村洋文知事は6日、「学校の招待に限らず、来場者の安全を守ることは当たり前。メタンガスの爆発事故は原因究明や安全対策について万博協会が進めていて、安全に万博を実施するのは当然のこと。会場への輸送の課題については、府・市と教育庁、万博協会が協議会で改善できるところがないか詰めていくように指示している」と語りました。
 参加希望のアンケート方法に批判が集まっていることについては、「今の段階で参加・不参加を表明してほしいというものではない。円滑に調査を行うことが目的で『踏み絵』ではない」と説明。教職員組合が事業の「中止」を求めたことに対しては、「安全じゃないままやるのは違うが、『全部やめろ』というのはちょっと違うのではないか」と語り、事業の見直しはしない考えを改めて示しました。
 ただ、子どもを持つ親たちに話をきいても、「引率する側が安全と思えば行ってほしいけど…」「無理なら無理で冒険する必要はない」などと、安全面を不安視する声が聞かれました。
 開催まで1年を切った大阪・関西万博。吉村知事が言う「ワクワクする未来」を子どもたちに見せるためには、まずは教育現場が“自信をもって”安全だといえるような丁寧な説明や万全の対策が急務です。