同じ男から性被害…男性たちの苦悩を描く ジャニーズ騒動より前に書かれた戯曲「蘇る魚たち」が都内で上演へ(2024年6月7日『東京新聞』)

 
 深く傷ついた体験を話しても、すぐに信じてもらえない。「男のくせに」と笑われる。そんな男性の性暴力被害をテーマにした舞台「蘇る魚たち」が20日から、東京都内で上演される。脚本はジェンダーの問題に鋭く切り込む作家の石原燃(ねん)さん。二次加害の防ぎ方とは。「男らしさ」や「被害からの回復」とは何か―。ジャニーズ問題で男性の被害が知られるようになった今こそ、考えるきっかけにしてほしいと願う。

◆「告発するか」ぶつかり合う意見

 舞台は3人の会話劇で進む。子どものころ実父から性暴力を受けていたノゾミ、同じ人物からやはり被害にあっていた記者のコースケ、その弟のリオだ。ノゾミの父は、複数の男児を手にかけていた。週刊誌で告発するのか。3人の意見はぶつかり合い苦悩する―。
「蘇る魚たち」の舞台光景=撮影・堀川高志

「蘇る魚たち」の舞台光景=撮影・堀川高志

 戯曲は2019年に発表。演劇企画集団「モトキカク」主宰の演出家本木香吏(かおり)さんが石原さんに熱烈にアプローチをして22年に大阪で上演された。その4カ月後に英BBCのドキュメンタリー番組が放映され、故ジャニー喜多川氏による性加害を告発する声が相次いだ。本木さんの提案で舞台の動画を無料配信すると、約7700回再生された。

◆演じることで被害を疑似体験する

 今回の舞台もモトキカクが手がける。本木さんは「知ったかぶりはしたくない」と、臨床心理士の助言を受け、当事者の心理を役者らと勉強した。つらい体験を笑いながら話す…といった仕組みを理解するためだ。役者は演じることで性被害を疑似体験する。心のケアに気を使い、練習のたびに全員で話し合ったという。
「蘇る魚たち」の舞台光景(撮影・堀川高志)

「蘇る魚たち」の舞台光景(撮影・堀川高志)

 男性の性被害は「男らしさ=強さ」を打ち砕かれることだと思われがちだ。だが「泣く、打ち明ける、他者に共感して支えあう。弱さや繊細さも、強さかもしれない」と石原さん。
 公演は20~23日の全9回、王子小劇場(東京都北区王子)。チケットは4500円(整理番号つき自由席)。予約は「モトキカク第3回公演」の専用フォームから。(出田阿生)