衆院採決が迫る政治資金規正法の改定案。不可解な動きを見せてきたのが、日本維新の会だ。企業献金の廃止などで他の野党と一致していたのに、自民党と接近。焦点の政策活動費では抜け穴が疑われる見直し案を先導した。そうかと思えば自民の規正法改定案に抵抗する。「是々非々」と言えば聞こえはいいが、打算が潜んでいないか。(西田直晃、宮畑譲)
◆急転、岸田首相と合意文書を交わす
「足並みをそろえたはずだったが、(維新は)いつの間にか方針を後退させてしまっていた。自民にすり寄ったのか、それとも抱き込まれたのか。いずれにしても情けない」
日本維新の会の馬場代表
◆「10年後の情報公開」に実効性はあるのか
特に注目すべきは、政策活動費の扱いだ。
政治資金規正法の改定を巡って集会を開いた市民団体のメンバーら=4日、東京・永田町で
だが維新案で情報が公開されるのは「10年後」。自民との合意文書にも「10年後に領収書、明細書、使用状況の公開」と記された。
不可解なのが「10年後」という区切り方だ。
22日の会見で、維新の藤田文武幹事長は「支出先のプライバシーや(政党の)戦略上の理由」と説明し、「いきなり公開するのではなく、機密性などの点で、ハレーション(周囲への悪影響)の抑止が必要。時間差を置いての公開は、公文書の世界では諸外国が取り入れている」と語った。
さらに、記者団の取材に応じた同党の青柳仁士衆院議員が「自民案の問題は、最後まで領収書を出さず、それでは何も分からない。10年後でも最後に公開するようにすれば、むちゃくちゃな使い方はできない」と強調した。
ただ「10年後の公開」は実効性に疑念が向けられる。
◆カネの抜け道を温存したいだけ
さらに「政党は離合集散を繰り返し、政治家個人も所属政党が移ったり、会計責任者が交代したりする場合がある。何の意味も持たなくなる」とも述べる。
「10年後の公開」となった場合、収支報告書の虚偽記載や選挙買収などの「政治とカネ」を巡る犯罪が公開後に判明しても、時効によって罪に問えないという指摘も出ている。
元特捜部検事で、国会議員秘書の経験もある坂根義範弁護士は「そのもくろみも一応あるかもしれない」と語りつつ、「時間を置かずに公開すると、次の選挙までに報道機関に調べられることになる。メディアの批判をかわしたい思惑のほうが強そうだ」とみる。
神戸学院大の上脇博之教授
自民の裏金問題に端を発するのが今回の規正法改定の論議だが、先の上脇氏はいら立ちを募らせている。「ふたを開けてみれば、違法なカネを『どう残すか』に様変わりした。政治家はこれまでと同じ手法で選挙を勝つつもり。その方程式を温存したいだけだろう」
◆万博のつまずきで支持率急落、お膝元の選挙でも失敗
結局のところ、維新は何がしたいのか。政策活動費で自民と相乗りできる見直し案を示したのはなぜか。合意文書まで交わした思惑は何だったのか。
「大阪・関西万博でつまずいて、この1年で支持率が急落している。実は自民以上に追い込まれている。助け舟を出したように見えて、恩着せがましくすり寄っているだけ」
大阪を拠点にするジャーナリスト、今井一氏はこう読み解く。
日本維新の会の馬場代表
全国的にも地元でも、勢いに陰りが見られる現状に、今井氏は「このままいけば、次の総選挙で自公も維新も伸びない。自公で衆院の過半数を取れないことを想定し、連立を組むための布石を打とうとしているのだろう。その時においしいポストをもらうための駆け引きだ」と説く。そして「政権与党に入れば、万博の予算を国から引き出せる可能性だってある」と指摘する。
◆「パーシャル連合」という皮算用
そもそも馬場氏は5月23日、衆院選で与党が過半数割れとなった場合、政策や法案ごとに政権に協力する「パーシャル(部分)連合」の可能性に言及しており、「連立入りするか閣外協力するか、パーシャル連合を組むのかいろんな連携の形はある」とも述べた。
不可解さは他にもある。
維新が自民と合意文書を交わした5月31日、会見した馬場氏は「われわれの案を丸のみした」と豪語した。しかし、維新側は今月3日の衆院政治改革特別委員会で一転、自民が示した規正法改定案を巡って「このままでは賛成できない」と発言、4日の衆院採決は先送りになった。
維新側は、政策活動費の使途公開の対象を「50万円超の支出」とした自民案に反発したというが、政策活動費を巡って維新が先導した「10年後の使途公開」がSNSなどで批判されたことが影響したのか。
「丸のみした」から「賛成できない」に変遷する経過を巡り、法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「言っていることを変えたのなら、野党でも説明する責任がある」と訴える。
◆政権の延命に手を貸した維新に明日はあるのか
その上で根本的な姿勢を疑問視する。「維新は『身を切る改革』を掲げてきた。自民の秋波に応じず、厳しく攻め込めばよかった。単なる第2自民党、補完勢力だとみられるだろう」
肝心の規正法改定を巡っては4日、自民案が維新の求めに応じる形で修正され、6日にも衆院を通過する見通しになっている。
際立つのは拙速さだ。
白鳥氏は「政治とカネの問題をチェックできるようになる絶好の機会。国民の大きな注目が集まり、盛り上がっている」と述べる一方、「維新はその機運に水を差し、むしろ政権の延命に手を貸してしまった。野党としての存在意義がない。国民の支持は得られないだろう」と切り捨てる。
政治ジャーナリストの野上忠興氏も、足元が定まらない維新の今後をこう見通す。「国民をなめちゃいけない。カネの問題は敏感に反応する。他の野党と一緒に行動し、徹底的に抵抗したほうがよかった。維新の支持率はじり貧になるだろう。自民と一緒になっても使い捨てにされるだけだ」
◆デスクメモ
維新と自民の急接近、合意文書の取り交わし。世の人びとは憤り、SNSも荒れた。土日が明けた3日。維新は自民が示した規正法の改定案を強く非難した。文中でも触れた不可解な対応。「批判そらし」「ガス抜き」をしているようにも見えてしまい、さめた思いがこみ上げた。(榊)