23区は多選のベテラン区長がずらり…弊害あるけど「有能なら安定」の側面も 港区長選は2日投開票(2024年6月1日『東京新聞』)

 大企業の本社や最新の流行を発信する商業施設が集まり、東京23区でもトップクラスの財政力を誇る港区のリーダーを決める区長選が2日、投開票される。6期目を目指す現職の武井雅昭さん(71)=自民、公明推薦=に無所属新人の2人が挑む選挙戦で、声高に語られるのは「多選」の是非。23区の現職区長は3人に1人が4選以上のベテランが務めている現状があり、有権者の判断が注目される。(小沢慧一)
◆6選目指す現職に多選を批判する新人2人が挑む港区長選
 新人2人が公約にしたのは、いずれも「多選自粛条例」の制定。元都議の菊地正彦さん(71)は区長任期を「2期8年」、元区議の清家愛さん(49)は「3期12年」までとするように訴える。武井さんは「選挙民が4年ごとに選出している。同じ結果が続くことが悪いとは思わない」と反論する。
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 4期以上の現職区長は、4月の区長選で6選を果たした青木英二さんなど8人がいる。過去、最多選は元中央区長の矢田美英さんで1987〜2019年まで8期務めた。
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港区長選の実施を知らせる掲示板=告示前の5月撮影
 首長の多選を巡っては、各地で知事らの不祥事が相次いだことを受け、全国で2000年代に多選自粛条例などを制定する動きが拡大。杉並区は03年に全国で初めて区長が3期を超えないよう努める条例を制定した。
 一般財団法人地方自治研究機構」によると、全国の27の県や区市町村が「連続3期」超を多選とみなすとして条例を制定したが、長続きせず、杉並区の後任区長が自粛条例を廃止し、4選を目指して立候補、落選したことがある。中野区は14年、大田区は19年にそれぞれの区長が自ら制定した自粛条例を撤回して4選した。今も自粛条例を施行するのは全国で7自治体に過ぎない。
 東北大学大学院の河村和徳准教授(政治学)は「多選には忖度(そんたく)などの弊害がある一方、有能な人物の場合は政治が安定するという側面もあり、政党でなく個人を選ぶ傾向が強い日本の首長選では是非を決めづらい」と指摘する。
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◆古代から、世界各地で「多選」は警戒されている
 多選制限の議論は古今東西に見られる。起源も古くは古代ギリシャアテネ共和制ローマの時代に遡る。国会図書館の調査によると、ギリシャの多選制限は多くの市民が国政に参加する直接民主主義の実現のため、ローマは権力乱用の抑制という性格がそれぞれあったという。
 近代でも、権力の乱用を経験したメキシコ、ドイツ、韓国、フィリピンなどでは多選の制限がみられる。アメリカでは職業政治家に代わる市民による政治を掲げ、1990年代に市民から多選制限の導入を求める運動が高揚。現在多くの州で任期制限が設けられている。
 こうした制限は一時法制化されても永続するとは限らない。野心ある現職者の意向や行政改革を継続を求める声から、制限の緩和や廃止されることもある。アメリカでは多選制限に違憲判決が出て制限が廃止された例もある。ただし、多選制限の理念の是非まで踏みこんだ判決は出ていない。