那須雪崩判決 危機意識の欠如が招いた人災(2024年5月31日『読売新聞』-「社説」)

 雪崩で高校生ら8人の命が失われたのは、引率の教諭らが雪山のリスクを軽視したことが原因だと判断された。全国の教育関係者は、事故の再発防止策を講じる必要がある。
 栃木県那須町で2017年3月、部活動で雪山の登山講習を受けていた高校生ら8人が死亡した雪崩事故で、宇都宮地裁は業務上過失致死傷罪に問われた被告の引率教諭ら3人に、いずれも禁錮2年の実刑判決を言い渡した。
 現場周辺には、事故の前日から大雪と雪崩の注意報が出されていた。裁判では、被告らが前夜からの積雪によって雪崩が起きる危険性を予見できたかどうかや、講習を安全に行う義務を怠ったかどうかが争点だった。
 判決は「前日からの新雪が30センチに達しており、雪崩の危険性を予見することは十分に可能だった」と認定した。そのうえで「安全確保が強く求められる教育活動だったのに、緊張感を欠き、漫然と訓練を実施した」と指摘した。
 厳しい環境の雪山で、引率の教諭らは、訓練に参加した高校生らの命を預かる立場だ。判決は、その責任への自覚と慎重な行動を欠いたと判断したのだろう。
 3人は、事故前夜の降雪のため、予定していた登山を中止し、雪上を進む訓練に切り替えた。しかし、雪山の危険性を十分に検討した形跡はなく、訓練の目的と行動範囲についても引率教諭間で共通の認識はなかったとされる。
 被告の一人は事故後の記者会見で、「経験則から絶対に安全だと思った」と述べた。経験頼みの対応が、取り返しのつかない惨事を引き起こしたと言わざるを得ない。判決も、この事故を「重い不注意による人災」と非難した。
 再発防止には、登山活動を現場の教諭任せにしないことが重要だ。学校と高校体育連盟、教育委員会が連携して安全対策のルールを作り、登山計画を事前に確認する体制を整えるべきだろう。
 スポーツ庁は、山岳関係者らによる「登山計画審査会」の設置を都道府県に求めた。引率者の資質やルートの安全性を審査し、必要なら改善を指示するという。
 天候の急変で、登山が計画通りに進まないことも多い。場合によっては途中で引き返すといった臨機応変の判断が必要になる。山を熟知した地元の山岳ガイドに同行を依頼することも一案だろう。
 登山は、大自然の中で自立心と協調性を学ぶ機会でもある。それには、「安全第一」の備えが絶対条件になると肝に銘じたい。