那須雪崩事故、引率教諭ら3人に実刑判決 宇都宮地裁(2024年5月30日『日本経済新聞』)

 
判決公判のため宇都宮地裁に入る遺族ら(30日午後)=共同
2017年に栃木県那須町で登山講習中の高校山岳部員ら8人が亡くなった雪崩事故で、業務上過失致死傷罪に問われた引率教諭ら3人の判決公判が30日、宇都宮地裁であった。滝岡俊文裁判長は3人に禁錮2年(求刑禁錮4年)の実刑判決を言い渡した。

3人は県高等学校体育連盟が開いた講習会で責任者だった猪瀬修一被告(57)、生徒を引率した菅又久雄被告(55)、渡辺浩典被告(61)。公判は雪崩発生の予見可能性や事故を回避するための安全確保措置が争点となった。

事故は17年3月27日、国有林内のスキー場付近で発生した。雪崩に巻き込まれた県立大田原高の生徒7人と教諭1人が死亡し、5人がけがをした。猪瀬被告は講習会本部のあった旅館で待機し、菅又、渡辺両被告は現場で直接引率していた。

検察側は論告で、3人が前夜からの約30センチの降雪など雪崩が起きる危険を予想できたのに安全確保を怠り、急斜面で歩行訓練を実施したと指摘。学校教育の一環である講習会は生徒の安全を最優先にすべきもので「当たり前の安全対策をしていれば事故を防ぐことができた」と強調した。

弁護側は最終弁論で、雪崩発生の予見は不可能だったと反論。必要な情報を集めて定めた訓練範囲を参加者に伝えるなど、安全確保措置も取っていたとして「3人の行為と事故に因果関係はない」と無罪を主張した。

事故を巡っては、遺族の一部が損害賠償を求めて提訴。宇都宮地裁は23年6月、事故原因について「雪崩への危機意識の希薄さから講習会を中止しなかったことが一因」などとして、県と県高体連に対し計約2億9千万円の賠償を命じた。

教諭ら3人にも賠償を求めていたが、地裁判決は「公務員が職務で損害を与えた場合は自治体などに責任がある」と国家賠償法上の規定に言及し、訴えを退けた。双方が控訴せず、判決は確定した。