日航のトラブル ミスの連鎖が示す組織の緩み(2024年5月29日『読売新聞』ー「社説」)

 大きな事故の前には小さな予兆があると言われる。日本航空は組織の緩みを排し、安全確保のための基本動作を改めて徹底せねばならない。
 国土交通省は、安全上のトラブルが相次ぐ日航に対し、航空法に基づく臨時の立ち入り検査に入った。今年2月にも検査を実施しており、3か月間で2度という異常事態である。
 国交省はこれと併せて行政指導にあたる厳重注意も行った。
 日航機は昨年11月と今年2月、米国の2空港で滑走路への誤進入と、滑走路手前での停止線越えというトラブルを起こした。そのため、国交省から最初の検査を受け、再発防止策を提出していた。
 それにもかかわらず、5月にも福岡空港で機体が停止線を越えるトラブルが発生した。米国出発便に搭乗前の機長が酒に深酔いして欠航となる事案も起きている。
 いずれもけが人こそ出なかったが、トラブルはパイロットが管制官の指示を十分に確認しないなど、基本動作に関わる内容だった。機長の深酒も含めて、乗客の命を預かっているという緊張感を欠いていたと言わざるを得ない。
 特に深刻なのは、5月の福岡空港でのトラブルの際、1月に羽田空港で起きた航空機衝突事故後の対策が生かされなかった点だ。
 海上保安庁機と日航機が衝突・炎上した事故では、海保機が管制官の指示を取り違え、滑走路に誤進入したとされる。
 国は緊急対策として、パイロットに指示の復唱を、管制官にはその確認を徹底するよう求めた。しかし、5月のトラブルでは両者とも、これを怠っていたという。
 航空機同士が衝突・炎上するという衝撃的な事故を忘れたかのようだ。ミスが相次ぐ背景に組織の緩みがあるのではないか。日航は原因を検証し、再発防止に何が必要なのか検討する必要がある。
 管制官の実務でも、パイロットとの交信で誤解を招かないようにするための対策が求められる。
 滑走路への誤進入が起きた場合には、それを知らせる警報装置を充実させるなど、人的なミスを補う機器の導入も進めるべきだ。
 昨年以来、コロナ禍で落ち込んだ訪日外国人の数が回復し、航空需要は急速に高まっている。
 日航は1985年のジャンボ機墜落事故以来、社員に徹底してきた安全教育の原点に立ち返る時だろう。客室乗務員出身で4月に社長に就任した鳥取三津子氏は、安全の徹底を最優先の経営課題として指導力を発揮してほしい。