「#川崎おもしろ自販機」仕掛け人は川口浩探検隊員だった 豊富な品揃えは「川崎あるある」(2024年5月28日『東京新聞』)

 自動販売機から川崎という街の姿が見えてくる。そんな信念で、川崎市内の特色ある自販機を探し、市の公式X(旧ツイッター)アカウントで紹介している市職員がいる。「#川崎おもしろ自販機」のハッシュタグでの投稿に引かれ、一緒に市内を巡った。

キャプチャ

住宅街に設置された、鹿児島県産の食材を使った商品の自動販売機について話す小山均さん=川崎市高津区

◆「コーヒーの自販機」だけど、すぐ飲めません

キャプチャ3

コーヒー豆の自動販売機=川崎市多摩区

 4月中旬、小田急読売ランド前駅にほど近い「カフェ・ド・シュロ」前で、おもしろ自販機担当の小山均さん(68)と落ち合った。「映(ば)えるよね」。その視線の先には、ステンドグラスがはめ込まれた白い木調の自販機。自然が残り、文化人も多く住む地域に趣が合っている。ボタンを押すと、出てきた直火焙煎(ばいせん)のコーヒー豆から香ばしさがふんわりと広がった。

 小山さんは市在住約40年で、2016年から市のメディアコーディネーター(非常勤)を務める。元テレビディレクターで、1970年代後半~80年代に人気を呼んだ「川口浩探検隊」シリーズで隊員役を務めたほか、NHK教育テレビ(現Eテレ)の「えいごであそぼ」などに携わった。

 おもしろ自販機の投稿は22年5月から始めた。情報をキャッチすると、まずは現地へ。気になったら設置者に連絡し、商品の開発秘話などを尋ねる。

◆「ある時期」に多くの飲食店が自販機を導入

キャプチャ4

ラーメンなどの自動販売機=川崎市中原区

 自販機で冷凍の担々麺などを販売するJR南武線向河原駅近くのラーメン店「白湯麺屋 武蔵小杉店」では、小山さんが店主の原健二さん(55)に取材。原さんは「コンビニもいいものを開発している。引けを取らないものを出さないと」と答えた。温めたときにおいしく見えるよう試行錯誤しているという。

 「コロナ禍で外食産業が縮小し、店頭に自販機を導入した店が多い」と小山さん。リース料はかかるが、無人で24時間販売できる利点がある。「地域の店の商売の工夫を聞くのも楽しい」。エピソードは投稿に盛り込んで紹介している。

◆1台の自販機から見えてくるもの

キャプチャ5

鹿児島県産の食材を使った商品の自動販売機で購入したきびなご=川崎市高津区

 小山さん一推しの自販機が、高津区千年のアパート駐車場にあった。「住宅街にポツンとあって、意外性が面白い」。売っているのはきびなご一夜干しやさつま揚げといった鹿児島県の名産品。なんで鹿児島?

 設置しているのは同区の海産物卸「松山物産」。先代の妻という松山ミヅエさん(81)によると、同県甑(こしき)島列島出身で「生まれ育った土地の味を皆さんに知ってもらえたら」との思いがあるという。市は京浜工業地帯の中核で、戦前、戦後を通じて地方出身者が多く移り住んできた。小山さんは「川崎あるあるですよね」とほほ笑んだ。

◆川崎の歴史や住む人のストーリーがギュッと

キャプチャ6

南インド料理の自動販売機=川崎市中原区

 東急東横線新丸子駅近くの南インド料理店「マドラスミールス」ではチキンビリヤニ(米料理)などを自販機で販売。「ここもインターナショナルな川崎ならでは」と小山さん。「川崎は多様性の街。それぞれのルーツやストーリーが自販機という形で見えてくる」

 他にも、戦時中の防空壕(ごう)で栽培されたキクラゲにバラ汁(カルビスープ)…。それぞれに川崎らしさが詰まっている。小山さんのX投稿を頼りに、まだまだ自販機巡りが楽しめそうだ。

キャプチャ2

 文・北條香子/写真・木戸佑

 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。