日中韓首脳会談に関する社説・コラム(2024年5月28日)

日中韓首脳会談が再開 対話の流れ加速させたい(2024年5月28日『毎日新聞』-「社説」)
 
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対話の継続を確認した日中韓首脳=ソウルで27日、ロイター
 対立を抱えていても、日中韓は意思疎通を通じて、地域の緊張を高めない知恵を出し合うべきだ。
 3カ国の首脳会談が4年半ぶりにソウルで開かれた。岸田文雄首相、中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は、協力の深化が地域に平和と繁栄をもたらすとの認識で一致した。
 前回の2019年以降、国際情勢は激変した。コロナ禍に続き、欧州と中東で二つの戦争が起き、世界の分断に拍車がかかっている。米中対立が長期化する中、台湾を巡る緊張も続いている。
 3カ国首脳の思惑は異なる。多極的な世界秩序を提唱する中国は、日米韓の連携にくさびを打とうとしている。韓国にとって最大の懸案は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮だ。日本は中国と戦略的互恵関係を再確認したが、習近平指導部の威圧的な行動に警戒感を強めている。
 北朝鮮情勢については、踏み込んだメッセージを打ち出せなかった。朝鮮半島の平和と安定は、共通の利益であるとの認識を確認したものの、共同宣言には「朝鮮半島の非核化」の目標は明記されなかった。
 だが、3カ国協力を制度化し、首脳会談の定期開催に合意した意義は大きい。2国間や地域の平和と繁栄の促進にも貢献すると、議長の尹氏は指摘した。首脳同士が直接向き合えば、信頼の醸成に寄与し、緊張の高まりを防ぐことができる。
 今回の会談では、19年以来中断している日中韓自由貿易協定(FTA)の締結交渉を再開することで一致したほか、人的交流の拡大や気候変動問題で協力することを確認した。尹氏は3カ国の国民が「頻繁に行き来することが必要だ」と述べた。こうした取り組みを着実に続けることが重要だ。
 日中韓首脳の対話は、1999年の東南アジア諸国連合ASEAN)首脳会議の際に始まり、今年25周年を迎えた。首脳会談は08年から行われているが、たびたび中断してきた。
 日本は次の議長国となる。岸田首相は今回の会談について「日中韓プロセスの再活性化を確固たるものとする重要な契機となった」と強調した。対話の流れを加速させるのが日本の責任だ。

日中韓首脳会談 地域の安定へ協力積み重ねよ(2024年5月28日『読売新聞』-「社説」)
 
 日中韓3か国の首脳同士で意思疎通を図ることは大切だが、安全保障について日韓両国と中国との間の溝の深さも改めて浮き彫りになった。
 岸田首相と中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領がソウルで会談し、人的交流や経済・貿易など6分野で協力することを柱とした共同宣言を採択した。
 共同宣言は、文化や観光、教育の交流を促進し、2018年に3054万人だった3か国内の往来人数を、30年までに4000万人に増やす目標を掲げた。日中韓自由貿易協定(FTA)の締結交渉を進める方針も明記した。
 ただ、対立の少ない分野に絞って合意をまとめたのだろう。
 日中韓首脳会談は19年末に中国で開かれた後、日韓関係の悪化などで途絶えていた。4年半ぶりに対面で話し合ったことを契機に、地域の安定に向けて、具体的な協力を積み重ねることが重要だ。
 しかし、安全保障に関しては後退も目立つ。
 前回の首脳会談の成果文書では「我々は朝鮮半島の完全な非核化に関与している」としていた。今回の共同宣言では、朝鮮半島の非核化について「それぞれ立場を強調した」と述べるにとどめた。
 会談の当日、北朝鮮が「人工衛星」の打ち上げを予告したことに関し、李氏は「各当事者は自制を保ち、事態の複雑化を避けねばならない」と述べただけだった。
 これらは、中国が軍事的な挑発を強める北朝鮮を擁護していることの表れだろう。中国はこうした態度が北朝鮮を増長させていることを、自覚すべきだ。日本は、米韓両国と安全保障協力を強化していかねばならない。
 日中の首脳会談も行われ、岸田首相は、中国による日本産水産物輸入禁止措置の即時撤廃を求めた。中国が日本の排他的経済水域EEZ)内に設置しているブイの撤去も要求したが、いずれも李氏は応じなかったという。
 懸案の解決に向き合おうとしない李氏の姿勢は残念だ。中国は、不動産不況に苦しむ中で投資を呼び込みたいのだろうが、こうした姿勢では到底望めまい。
 日韓関係では、元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟を巡り、韓国国会で多数派の野党が、政府傘下の財団が賠償金相当額を支払う解決策の撤回を訴えている。
 岸田首相は尹氏と会談し、緊密な意思疎通と関係の強化で一致した。首相は尹氏との信頼関係を生かし、解決策を着実に実行するよう働きかけていく必要がある。
 

日中韓の対話再開を地域の安定に生かせ(2024年5月28日『日本経済新聞』-「社説」)
 
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日中韓サミット後の共同記者発表で発言する岸田首相(左)。中央は韓国の尹錫悦大統領、右は中国の李強首相(27日、ソウル)=代表撮影・共同
 
 4年半ぶりとなる日中韓サミットが27日、ソウルで開かれ、自由貿易協定(FTA)交渉の再開など幅広い協力をうたった共同宣言を発表した。緊張が高まる東アジアで首脳級が顔を合わせる意義は大きい。対話再開を地域の安定に生かさねばならない。
 宣言は、合意しやすい人的交流と相互投資の拡充を前面に打ち出した。日韓にとって中国は貿易総額の20%ほどを占める最大の貿易相手国で、人口減少と少子高齢化といった同じ課題も抱えている。安定した隣国関係づくりは安全保障、経済両面で重要である。
 同サミットの久々の再始動は中国の意向が左右した。国内景気の冷え込みや地方財政の悪化などで日韓と経済関係を立て直す必要性に迫られたのではないか。昨年11月に釜山で開いた3カ国外相会談の際は見送られた晩さん会や共同記者発表にも今回は応じた。
 中国が外資誘致への期待を示す一方、東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出に関し、日本側が求める日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃などでは大きな進展がなかった。宣言には北朝鮮の非核化に向けた連携も入っておらず、溝の深さを物語る。
 北朝鮮はこの日、軍事偵察衛星とみられる人工衛星を打ち上げると日本側に通告した。夜に発射したが、失敗した。今回の発射は国連安全保障理事会の決議に違反する。共同宣言がめざす地域の平和と安定に挑戦する行為で、断じて容認できない。
 岸田文雄首相と韓国の尹錫悦大統領の信頼関係が中国を同サミットに呼び戻したのは間違いない。新総統が誕生した台湾をめぐる問題は日韓の経済安全保障やエネルギー問題にも波及する。中国の強圧的な言動に声をそろえて言うべきことを言う姿勢が大事だ。
 4月の総選挙で与党が大敗した韓国では尹政権が対日政策を含めて野党の攻撃にさらされている。26日の日韓首脳会談では、水素などのグローバル供給網の確保などに向けた協力の強化で合意した。両政府は成果を積み重ねて揺るぎない関係を築くよう求めたい。
 日中韓サミットに中国から参加するのは首相で今回も李強氏だった。中国はトップの習近平国家主席に権力が集中する。最近も台湾全域を取り囲む形で軍事演習に踏みきるなど強硬姿勢を鮮明にしており、岸田首相は習氏を対話の場に引き出す努力も必要になる。
 

岸田首相の外交 一層の対中発信が必要だ(2024年5月28日『産経新聞』-「主張」)
 
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日中韓首脳会談に臨む(左から)岸田首相、韓国の尹錫悦大統領、中国の李強首相=27日午前、韓国・ソウル(内閣広報室提供)
 
 
 岸田文雄首相が訪韓し、中国の李強首相、韓国の尹錫悦大統領と会談した。日中韓首脳会談は4年半ぶりで、日中、日韓、中韓の2者会談も行われた。
 中韓両国とはそれぞれ懸案があり首脳会談開催に意義はある。
 3首脳は、北朝鮮の非核化と朝鮮半島の安定が日中韓共通の利益とし、半島問題を政治解決する必要性で一致した。中断していた自由貿易協定(FTA)締結交渉の再開や、広範な分野での協力推進を確認した。岸田首相は拉致問題の即時解決への支援を求めた。
 韓国が文在寅前政権のような反日一辺倒から、国際安全保障に留意する尹政権に代わったこともあり、日中韓の枠組みで首脳会議を開きやすい環境になった。その中で岸田首相が、さまざまな外交を展開しようと努めたこと自体は否定しない。だが一方で、一層の努力が必要な点も浮かび上がった。
 それは、傍若無人な言動を繰り返し、力による現状変更をためらわない中国に、もっとはっきりと日本の立場を伝える努力である。
 岸田首相は李首相との初会談で、台湾をめぐる軍事情勢を注視しているとし、「台湾海峡の平和と安定は国際社会にとって極めて重要だ」と伝えた。日本周辺での中国の軍事活動に「深刻な懸念」を表明し、尖閣諸島周辺の日本の排他的経済水域EEZ)の中国ブイの即時撤去を要求した。中国当局が拘束した日本人の早期解放も求めた。南シナ海での中国の威圧的行動やウイグル人の人権状況への懸念も伝えた。
 これらは当然だが、十分とはいえない。中国の呉江浩駐日大使の暴言の撤回と大使更迭を求めなかったからだ。
 呉大使は20日、日本が台湾をめぐり「中国の分裂」に加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と語った。前提条件付きでも中国軍が日本国民を殺傷するという露骨な脅迫だ。岸田首相自身が怒りを伝えないようでは侮られ、中長期の日中関係は歪(ゆが)むばかりとなる。
 中国はウクライナを侵略するロシアに対し、軍需生産を強化させる工作機械や電子部品、ロケット弾の推進剤になる「ニトロセルロース」を輸出している。岸田首相は、李首相に侵略への加担をやめよと明確に迫るべきだった。