日本再生のビジョンなき者は国会から去れ(2024年5月27日『産経新聞』-「産経抄」)

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国会議事堂外観(矢島康弘撮影)
 中島みゆきが歌う主題歌が流れ、田口トモロヲのナレーションが聞こえてくると、もういけない。中高年男の涙腺を刺激するNHK番組「新プロジェクトX」のあざとさは、先刻承知の上だが、ついついチャンネルをあわせてしまう。
▼先週土曜日は、日本海に浮かぶ隠岐諸島島根県海士町(あまちょう)をとりあげていた。少子高齢化の荒波が地方を襲う中、人口減を食い止めた海士町は、全国自治体にとって希望の星なのだが、きっかけをつくったのは、一人のリーダーだった。
▼22年前に町長に選ばれた山内道雄さんは、破綻寸前だった財政を立て直すため自らの給与を半分にし、職員の意識改革を進めた。それだけならよくある話だが、営業マン出身の町長は、「島のブランド化」を徹底的に推進し、東京などからやってくる「よそ者」を大歓迎した。
▼町のスローガンとなった「ないものはない」精神もいい。島には都会のような喧噪(けんそう)や娯楽はないが、豊かな自然と濃い人情がある。「大事なもので、島にないものはない」というリーダーの強い信念が、町職員を奮起させ、島民を動かした。
▼6年前に惜しまれながら退任した山内さんは今年1月、85歳で亡くなった。彼の遺志を受け継いだ海士町は、人口が右肩上がりに増えるとの青写真を描いている。その意気や良し。平和で豊かなこの国に、「ないものはない」はずなのである。
▼いや、「ないもの」があった。国会議員の志である。国会では各党が提出している政治改革関連法案を審議しているが、与野党泥仕合は見るに堪えない。政治にカネがかかるならかかると、正直に言えばいいじゃないか。破綻の危機にあるこの国を再生するビジョンなき者は、議事堂から去ってもらいたい。