五輪の難民選手団 平和の尊さ伝える存在に(2024年5月26日『毎日新聞』-「社説」)

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東京五輪の開会式で入場行進する難民選手団の選手たち=国立競技場で2021年7月23日午後8時39分、大西岳彦撮影
 世界に戦火が絶えない中、オリンピックは「平和の祭典」としての理念を示せるだろうか。
 7月26日のパリ五輪開幕に向け、国際オリンピック委員会IOC)が「難民選手団」の顔ぶれを発表した。紛争などで母国を離れざるを得なくなり、IOCから支援を受けて他国で競技を続けるアスリートたちだ。
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国籍の違いを超え、東京五輪の柔道混合団体でチームを組んだ難民選手団日本武道館で2021年7月31日、徳野仁子撮影
 アフガニスタンやシリア、イラン、南スーダンなど11カ国から過去最多の36人の選手が選ばれた。新競技のブレイキンを含め、12競技に出場する予定だ。
 難民選手団が初めて結成されたのは、2016年リオデジャネイロ五輪だ。当時、アフリカや中東から欧州への難民が急増しており、4カ国から10人が出場した。21年の東京五輪では11カ国の29人に膨らんだ。
 戦争が続くウクライナパレスチナのアスリートは今回の難民選手団に入っていないが、安心して競技に打ち込める環境ではないだろう。選手やコーチにも多くの死傷者が出ている。
 ウクライナへ侵攻したロシアとそれに協力したベラルーシは、国としての参加を認められていない。ただし、侵攻を積極的に支持していないなどの条件を満たす「中立」の立場の選手は個人資格で出場できる。
 一方、パレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を続けるイスラエルについて、IOCは特別な条件を付けずに出場を容認する方針だ。ロシアとは異なる対応に「二重基準」との批判も出ている。
 国連によると、紛争などで避難を強いられている人は世界で1億1000万人以上に上る。
 「難民選手団は特定の国の代表ではなく、同じ経験を共有する1億人以上の代表です」。団長を務めるアフガニスタン出身の女性、マソマハ・アリザダさんの言葉だ。IOCは国連とも連携し、支援を継続・拡充していくことが求められる。
 難民選手団のユニホームには、中心にハートが描かれたエンブレムがあしらわれる。故郷を追われた世界中の人々の「心の連帯」を促す意味が込められている。
 2カ月後に始まるパリ五輪が、平和の尊さを思い起こさせる場となることを願いたい。