レジ内にイスがないのは理不尽…「座って接客ダメですか?」店員ら苦しみ訴え 政府が決めたルールの中身は(2024年5月25日『東京新聞』)

 
 スーパーやコンビニでレジに立つ従業員らが24日、ある行動を起こした。立ち続けて仕事をすることが心身の負担につながるとして、厚生労働省にイスの設置を求める申し入れをした。日本では当たり前のようになっている「立ちっぱなしの接客」だが、諸外国では事情が異なるとも。彼らの思いをどう考えるべきか。(曽田晋太郎)
厚労省の担当者(左)にレジなどへのイス設置促進を求める要請書を手渡す茂木楓さん=国会内で

厚労省の担当者(左)にレジなどへのイス設置促進を求める要請書を手渡す茂木楓さん=国会内で

◆労働安全衛生規則「いすを備えねばならない」

 「労働者の健康を守り、多様な人が働ける環境整備を進める観点から、今こそ規則の具体化や周知徹底を図る必要がある」。スーパーなどで立ち仕事をする若者や労働組合首都圏青年ユニオン」の有志らでつくる「#座ってちゃダメですかプロジェクト」のメンバーが24日、国会内で厚労省の担当者にこう訴えた。
 メンバーが言う「規則」とは、省令で定められた労働安全衛生規則。615条には「事業者は、持続的立業に従事する労働者が就業中しばしばすわることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできるいすを備えなければならない」とある。メンバーはこの条文に関し、具体的な事例集作成や職種範囲の明示、実現に向けた周知の徹底を求める要請書を厚労省の担当者に手渡した。

◆イギリス、ブラジル、韓国などはイス設置

 要請書では英国やドイツ、ブラジル、韓国などではスーパーやコンビニのレジにイスが設置されていると指摘。「世界の動向に照らしても、国が労働者の安全配慮の観点から企業に対して積極的にイスの設置を促す必要がある」と求めた。厚労省の担当者は「ヒアリングなどを通じて情報収集し、対応を精査したい」と述べるにとどめた。
 会場では、立ち仕事をする当事者が「立ちっぱなし」の苦労を訴えた。

◆立ちっぱなし8時間 休日寝たきりの日も

 2021年から埼玉県内のスーパーのレジでアルバイトする大学4年の茂木楓さん(22)は「長いときは3、4時間立ち仕事が続き、足や腰の疲労感を強く感じる」と吐露した。
 同僚の中には腰が痛くて月に1度、マッサージに通う人や仕事がきつくて辞めた人が何人もいると紹介。「想像より厳しい環境と理解してほしい」と訴えた。スーパーの運営会社にイス設置を求めてきたが、実現していないという。
 化粧品などを販売する東京都内の店舗で正社員として立ちながら接客を担う坂本雅咲(みさき)さん(27)は「1日の業務で1時間の休憩を除き8時間立ちっぱなし。疲れすぎてベッドに寝たきりの休日もある。精神的負担が大きく、肉体的疲労もあり、とてもつらい」と過酷な実態を口にした。

◆「労使交渉では実現に限界」

 メンバーは22年末に活動を始め、企業側にイス設置を求めたほか、賛同署名を集め、街頭で周知を図るイベントを開いた。最近では大手ディスカウント店をはじめ、レジでのイス導入の動きが広がり始めている。この日の申し入れについてメンバーの冨永華衣(はなえ)さん(25)は「労使交渉では実現に限界があると感じた。労働行政を担う厚労省に使用者側に働きかけてもらい、実現に向けた好循環が生まれてほしい」と話す。
 「座って接客」の提案について、和光大の竹信三恵子名誉教授(労働社会学)は「立ちっぱなしで顧客への犠牲的精神を見せることがいいサービスという概念があるとすれば、それは間違っている。労働者が落ち着いて安全に仕事に携われる方法を模索するのが、管理者側の任務。疲れていると仕事の能率にも影響するので、イスの設置は当然必要だ」と指摘する。
 その上で「いいサービスのためには何が求められるか、日本社会における労務管理の発想を変えないといけない時期に来ている。イス設置を望む動きに対し、国は労働安全衛生規則に基づき企業側に何らかの指導をすべきだ」と強調する。