政治改革修正案に関する社説・コラム(2024年5月30日)

政治改革修正案 自公の幕引き許されぬ(2024年5月30日『北海道新聞』-「社説」)
 
 自民党衆院で、派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案の修正案を提示した。
 政策活動費の使途公開を巡っては、議員が支出した「年月」を政治資金収支報告書の記載事項に追加する。政治資金パーティー券購入者の公開基準は法施行3年後に見直す規定を設けるという。
 いずれも抜け穴が残る小手先の対応に過ぎない。驚くのは公明党がこれを受け自民党案に賛成の方向で調整しているということだ。
 公明党は安易な妥協はできないとして自民党との共同提出を見送ったばかりだ。この程度の修正でなぜ納得するのか理解できない。
 連立維持を優先し、理屈を度外視して譲歩するなら国民軽視にも程がある。自民党の幕引きを後押しするような動きは許されない。
 両党は中途半端な改正案の成立を強行するのではなく、野党と粘り強く修正協議を続けるべきだ。
 政策活動費について、自民党案は「選挙関係費1億円」などと大まかな項目別に公開する基本は変えていない。これでは支出の年月を示されても、具体的に何に使ったのかは相変わらず分からない。
 パーティー券購入者の公開基準は、公明党が現行の20万円超から5万円超に引き下げるよう求めていたのに対し、自民党は10万円超の案を維持したままだ。
 3年後に見直すと言っても、基準を引き下げる担保はない。単なる問題の先送りと言うほかない。
 自民党は、所属議員に法違反などがあった場合に政党交付金を停止する制度の創設も表明したが、自らの資金源に関わる制度の秘匿性は是が非でも守る構えだ。
 公明党山口那津男代表は当初「同じ穴のむじなに見られたくない」と述べていたが、改革に後ろ向きな自民党案に手を貸すなら、同類と見られても仕方あるまい。
 一連の問題を巡っては、自民党安倍派の一部議員が裏金を党支部などに寄付し、税控除を受けていたことも明らかになった。
 不正の裏金を原資にして、平然と税の優遇を受ける感覚は理解できない。当事者は合法と主張するが、制度の悪用ではないか。
 こうした抜け道が見過ごされるのは裏金の真相がいまだ解明されていないことの証左だ。与野党は早急に規制を進めるべきである。
 パーティー開催禁止法案を提出中の立憲民主党の幹部がパーティー開催を予定していたことも判明した。中止の判断は当然である。
 野党は厳しい批判をする以上、自らの身も正さねばならない。
 

政治資金の審議/自民は他党案受け入れよ(2024年5月30日『神戸新聞』-「社説」)
 
 自民党派閥裏金事件を受け、与野党が提出した政治資金規正法改正案が、衆院の政治改革特別委員会で審議されている。公明党と折り合わず、単独提出となった自民案は抜け道だらけで抜本改革には程遠い。野党案との隔たりも大きい。
 自民は参院単独過半数を持たず、岸田文雄首相が明言する今国会での改正実現には他党の協力が要る。政治への国民の信頼を少しでも取り戻すには、謙虚な姿勢で他党の主張を受け入れねばならない。
 自民案に特に欠けているのは、政党から政治家個人に支出され、使途の公開義務がない政策活動費の透明性を確保する姿勢だ。
 公明は明細書の作成義務化を掲げたが、自民案は50万円超を受け取った議員に、「選挙関係費」など大まかな項目ごとの支出額を党に報告させる。しかし領収書の保存、公開は義務付けないことが審議で明らかになった。自民がきのう各党に示した修正案では使った年月の開示も加えたが、政策活動費そのものの禁止や使途の全面公開を訴える野党案と比べれば弥縫(びほう)策に過ぎない。
 政治資金パーティーの透明化も、自民に歩み寄りの姿勢は乏しい。
 自民が示したのは、パーティー券購入の公開基準額を現行の「20万円超」から「10万円超」に引き下げる案だ。寄付と同じ「5万円超」を唱える公明の主張には応じない。野党は「5万円超」への引き下げやパーティー開催の禁止、企業・団体による券の購入禁止を掲げている。
 10万円超の理由を自民は「切りが良く、わかりやすい」とするが、説明になっていない、裏金事件の当事者としての本気度が感じられない。
 野党が求める企業・団体献金の禁止や、会計責任者が規正法に違反した場合に政治家も責任を負う「連座制」を巡っても自民は及び腰だ。
 ここにきて、安倍派議員が収支報告書への不記載分を党支部などに寄付し税控除を受けていたことが発覚した。自民は修正案で、議員が代表を務める選挙区支部への寄付に対する税制優遇措置の適用除外検討を示したが、裏金が原資であるなら道義的責任は免れない。
 公明は「一貫して主張してきたことが一部反映されていない」として修正案を持ち帰った。自民は法施行3年後の見直し規定を付則に盛り込み決着をもくろむが、連立の枠組み優先で安易に妥協してはならない。
 国会会期末まで1カ月を切った。国民が求めるのは政治資金の徹底的な透明化であり、構造的な金権体質の刷新だ。期限ありきの拙速な議論はさらに深刻な政治不信を招く。会期延長も視野に入れ、各党は熟議を尽くすべきだ。
 

規正法の修正案 抜本改革を先送りするな(2024年5月30日『西日本新聞』-「社説」)
 
 
 抜本的な改革を先送りすれば、国民の怒りは到底収まらない。自民党公明党にその自覚はあるのか。
 自民派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正案について、与野党による修正協議が始まった。
 自民がきのうの衆院特別委員会に示した修正案は、多額の裏金を生んだ政治資金パーティーをはじめとして、カネの流れの透明化がほとんど前進していない。
 現在は「20万円超」となっているパーティー券購入者の公開基準の引き下げに関しては、当初案の「10万円超」を譲らなかった。不透明な資金は温存される。
 「5万円超」を主張していた公明は、3年後に規正法を見直す規定を修正案の付則に盛り込むことなどを自民と調整し、賛成する方向という。
 事件を起こしたにもかかわらず、改革意欲に乏しい自民の尻をたたくのが、同じ与党の公明の役割である。山口那津男代表は「同じ穴のむじなと見られたくない」と自民を批判していたではないか。
 小手先の修正案の成立に手を貸すようでは、与党でいることを優先したと思われても仕方あるまい。
 政党から政治家個人に支給され、使途の公開義務がない政策活動費も、自民の修正案ではブラックボックスであることに変わりはない。
 大まかな項目別支出額を年単位で公開する当初案を、月単位に変更した程度だ。領収書の添付を義務付け、公開しない限り、具体的な使途は国民の目に触れない。妥当かどうかも判断できない。
 自民案は規正法違反などで起訴された議員が所属する政党に対し、政党交付金を減額することを加えた。これは国民民主党が提起し、立憲民主・国民両党の共同提出法案に含まれている。公明も付け加えるよう要請していた。
 一方で立民と国民、日本維新の会共産党が主張している企業・団体献金の禁止には応じなかった。
 野党は政策活動費の廃止や領収書の公開、会計責任者が規正法違反が認められた場合に議員も連帯責任を負う「連座制」の導入を求めている。これらは自民と意見の隔たりが大きい。
 政治とカネを巡る不祥事を防ぐためにも、自民は野党案を採り入れ、より厳しい規正法に改めるべきだ。
 野党第1党の立民の姿勢も問われている。政治資金パーティーを全面禁止する法案を提出していながら、岡田克也幹事長ら幹部が国会会期中に開催を予定していた。
 批判を浴びて中止し、党として自粛を決めたものの、ちぐはぐな対応は見苦しい。パーティー収入が政治活動を支えている実態を図らずも露呈したと言える。
 禁止した場合に政治資金をどうやって確保するかが描けていないのだろう。説得力のある代替策を伴わないと、他の政党の理解は得られない。