少子化の参院審議 財源を明確にするときだ(2024年5月20日『産経新聞』-「主張」

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衆院本会議で4月19日、少子化対策関連法案が可決し起立、一礼する加藤鮎子こども政策担当相。参院でも審議入りし議論が本格化する=国会(春名中撮影)
 児童手当や育児休業給付の拡充などを盛り込んだ少子化対策関連法案が、参院で審議入りした。近く議論が本格化する。
対策を確実かつ継続的に行うには、財源に関し国民の理解を得た上で、しっかり確保しなければならない。
 だが、岸田文雄首相は衆院審議で「実質的な追加負担は生じさせない」と語るばかりで、財源論にきちんと向き合っているとは言い難かった。
 政府は公的医療保険に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」を令和8年度に創設し、8年度に6千億円、9年度に8千億円、10年度に1兆円集める方針を示している。
 実質負担ゼロというのは、社会保障費の歳出削減と賃上げで国民負担の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金を徴収するという理屈だが、これが分かりにくい。
 しかも、高齢化で医療や介護の需要が高まる中、削減の中身が十分に見えてこない。首相や関係閣僚は、歳出を減らす方策をより具体的に提示してほしい。それなくして実質負担ゼロといわれても説得力がない。
 衆院の審議で首相は、支援金の具体的な額の見通しを問われ、当初、医療保険の加入者1人当たりの平均月額は10年度に500円弱と答えていた。加入者には子供らも含まれる。
 政府はその後、医療保険ごとの収入に応じた試算を出した。例えば、会社員らが入る被用者保険で年収600万円の場合は、保険料を支払う被保険者1人当たり月額1千円を見込んでいる。
 負担の議論を避けたいがために、試算を出し惜しみしていたといわれても仕方あるまい。負担を巡る問題から逃げずに、正面から丁寧に説明すべきだ。
 参院では財源論や個々の対策にとどまらず、長期人口目標や、人口減でも豊かさが実感できる社会の在り方といった大局的な見地からの議論も、政府や与野党から聞きたい。
 安倍晋三政権時に、50年後、1億人程度の人口を維持するという目標を経済財政運営の指針「骨太の方針」に掲げたことがあった。だが目標は消え、現在、目指すべき人口規模を政府は示していない。
 国全体で少子化を乗り切っていくには、国家目標を明確にすることが欠かせない。