少子化対策法案 財源と中身 根本の議論を(2024年4月10日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 少子化対策の財源として、公的医療保険料に上乗せして徴収する「支援金」を巡り、こども家庭庁が1人当たりの年収別の負担額の試算を示した。

 関連法案の審議が衆院で進む中、野党にせっつかれ、渋々の公表である。これまでは医療保険別の平均額しか示していなかった。誠実さに欠ける。

 徴収は2026年度に始まる。制度が確立する28年度時点での負担額の試算はこうなる。

 健康保険組合協会けんぽなど会社員らが加入する被用者保険の場合、年収200万円なら月350円、600万円なら千円、1千万円だと1650円。年収によってかなりの差が出てくる。

 根本的な疑問が拭えない。支援金制度は、少子化対策の財源として適切なのか。

 医療保険を土台としているため、負担の主な担い手は、子育て世代を含む現役世代になる。

 一方、恩恵は子どものいる世帯に集中する。少子化対策の柱は児童手当の拡充で、対象を高校生の年代まで広げて所得制限を撤廃するなどの内容だ。育児休業給付の引き上げも盛り込まれている。

 これでは社会保険の負担と給付の理念がゆがむ。同じ現役世代の中でも負担に見合う利益を受けられない世帯が出てくる。

 保険料は所得税などに比べて累進性が弱い。格差を是正する「所得再分配」の効果を得にくい点にも注意が要る。

 岸田文雄首相は「実質負担ゼロ」との説明に固執し、社会保障の歳出削減ありきで支援金制度の規模を設定している。給付減につながり、負担増となるのではないか。

 国民の反発を恐れて、はなから税負担の議論を封印したことに無理があった。国会の審議では、財源のあり方を根本から見直してもらいたい。

 同時に、少子化対策の内容こそ精査が求められる。現段階では既に子どものいる世帯への現金給付に偏っている。

 昨年1年間の出生数は過去最少を更新し、想定を上回るペースで少子化が進んでいる。若い世代の経済的な不安に加えて、価値観や生活様式の変化も影響しているとみられる。この流れに歯止めをかけるのは難しい。

 子育て支援はもちろん、次の世代が自分の人生を自由に選択できるよう、総合的な施策に視野を広げる必要がある。奨学金を含めて教育を受ける機会の確保、雇用の安定、ジェンダー平等と個の尊重など社会の基盤を整えたい。