吉田晴美氏、国会議員票は「大健闘」の28票 女性・当選1回で立民代表選 初挑戦の舞台裏と複雑な党内事情(2024年9月23日『東京新聞』)

 
◆国会議員票では枝野氏、泉氏に肉薄
23日投開票の立憲民主党代表選は、野田佳彦元首相(67)を新代表に選出して幕を閉じた。今回の代表選では、野田氏に加え、党の実質的設立者で官房長官経済産業相など重要閣僚も歴任した枝野幸男氏(60)、現代表の泉健太氏(50)という重量級の男性議員3人が名乗りを上げる中、女性で当選1回の吉田晴美氏(52)=衆院東京8区=が参戦して注目を集めた。
吉田氏は1回目の投票で最下位の4位に終わったものの、国会議員票は2位の枝野氏(33票)や3位の泉氏(29票)に迫る28票まで伸ばし、党員・党友票は泉氏と同数の26ポイントを獲得。「大健闘」(吉田氏の推薦人)と言える結果を出した。吉田氏の戦いを振り返った。(佐藤裕介、宮尾幹成)
投票を前に決意表明する吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

投票を前に決意表明する吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

◆立候補に難色示していた都連幹部も

代表選の投開票が行われた東京都内のホテル。野田氏の当選が決まった後、吉田氏は陣営の報告会で「結果は結果だが、大きなスタートが切れたのではないか」と総括し、「議員が希望を持って行動していくことで党は良くなるし、日本はもっと良くなる」と語った。
1回目の投票に臨む吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(須藤英治撮影)

1回目の投票に臨む吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(須藤英治撮影)

吉田氏は航空会社の客室乗務員、証券会社勤務などを経て、旧民主党政権では小川敏夫法相(当時)の秘書官を務めた。2021年の衆院選で東京8区から出馬し、自民党石原伸晃元幹事長を破って初当選。今回の代表選で、男性のベテラン議員ばかりの顔ぶれになることを懸念した若手・女性議員に推されて立候補を決意した。
だが、吉田氏の出馬表明は告示日の9月7日の朝にずれ込んだ。
立憲民主党の代表選に立候補するには国会議員20~25人の推薦人が必要だ。野田氏、枝野氏、泉氏らベテラン勢が出馬を目指す中で、衆院参院を合わせて136人しかいない同僚議員から20人に名前を書いてもらうのは、挑戦者にとっては簡単なことではない。代表選が終われば「ノーサイド」(野田氏)が建前とはいえ、自身のポストなどを考えれば勝ち馬に乗りたいという議員心理も働くからだ。
吉田氏は当選1回で党内基盤が弱く、吉田氏が所属する東京都連には代表選出馬に難色を示す幹部がいたこともあり、推薦人集めは難航。告示日当日の早朝になって、立候補を模索していた江田憲司元代表代行(68)と候補者一本化の合意にこぎつけ、野田佳彦氏のグループからも複数の推薦人を回してもらうことで、辛うじて21人を確保した。

◆推薦人名簿への「名義貸し」を公言

とはいえ、投開票では国会議員票が推薦人の人数さえ下回る可能性もささやかれた。野田グループから推薦人になった議員の「裏切り」が想定されたからだ。
決選投票に進めず自席に戻る吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

決選投票に進めず自席に戻る吉田晴美氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

野田氏の側近で、吉田氏の推薦人名簿に名を連ねた玄葉光一郎元外相は、自身のフェイスブックで野田氏支持を明言。事実上の「名義貸し」をした理由を「吉田氏の陣営からの要請を受け、代表選の構図全体を考えて推薦人になる判断をした」と記した。
別の野田グループの議員も、投開票前の本紙の取材に「党全体のことを考えて」吉田氏の推薦人になったと説明し、投票先については「大局的に判断する」と、吉田氏以外に入れる可能性をにおわせていた。
首相時代に消費税率引き上げを柱とする「社会保障と税の一体改革」を推進した野田氏が率いるグループと、消費税増税の凍結を唱えて野田政権を厳しく批判した旧みんなの党出身の江田氏のグループ。この双方から支援を得る「呉越同舟」への懸念もくすぶっていた。吉田氏は代表選で、江田氏との政策合意をもとに、消費税の時限的減税や食料品の税率ゼロを訴えたが、野田氏側との火種になりかねない内容だった。
吉田氏の推薦人になった野田グループの議員は「そもそも主要政策についての意見が違っており、同床異夢とも言えた」と声を潜めた。

◆「表立って支援表明できない若手・女性がいた」

代表選を終え健闘をたたえ合う(右から)吉田晴美氏、野田佳彦氏、泉健太氏、枝野幸男氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

代表選を終え健闘をたたえ合う(右から)吉田晴美氏、野田佳彦氏、泉健太氏、枝野幸男氏=9月23日、東京都内で(平野皓士朗撮影)

陣営内の不協和音はあったものの、ふたを開けてみれば、国会議員票は推薦人の21人を上回る28人に。投開票後の報告会で、吉田氏の選対本部長を務めた中川正春文部科学相が「議員票が思った以上に来た。党を支えていく一つの大きな力になっていく」と述べると、大きな拍手が起きた。
推薦人の1人の塩村あやか参院議員は本紙の取材に、国会議員票が伸びを見せたことについて「永田町の『忖度(そんたく)文化』で、表立って支援表明できなかった若手や女性が相当いたのだろう」と話し、「『多様性」を掲げるわが党が男性のベテラン議員だけで代表選をやっていたら、(27日に投開票が行われる)自民党総裁選と比較されて見劣りしていた。吉田さんが挑戦できて本当に良かった」と安堵の表情を浮かべた。

◆吉田晴美氏の推薦人(敬称略)

衆院中川正春阿部知子、荒井優、江田憲司、岡本章子、奥野総一郎落合貴之菅直人玄葉光一郎、酒井菜摘、桜井周、鈴木庸介、谷田川元、山崎誠、山田勝彦、早稲田夕季
参院】石垣のり子、奥村政佳川田龍平小西洋之、塩村あやか