多頭飼育崩壊(2024年3月27日『新潟日報』-「日報抄」)

 夏の日、蒸し風呂のようになった6畳間に160匹以上の猫がひしめいていた。家庭内で動物が増えすぎて管理できなくなる「多頭飼育崩壊」の実例として、以前の本紙に載った惨状だ

▼これは東京のアパートでのケースだが、県内でもペットが無秩序に繁殖して飼い主が手に負えなくなることが少なからずあるらしい。特に猫は妊娠期間が2カ月と短く、生まれた個体も6カ月で妊娠可能になる。一度に3~8匹が生まれるため、1匹のメスから1年後には20匹以上に増えてしまうことがある

▼ペットを家族としてかわいがり、心のよりどころにする人は多い。ただ不妊去勢手術は、ある程度の費用がかかる。飼育崩壊に至る飼い主は経済的に苦しい1人暮らしだったり、独居の高齢者であることが多いという

▼専門家は飼育崩壊には「飼い主の社会的孤立や貧困などの社会問題が隠れている」と指摘する。動物を劣悪な環境から救い出すと同時に、飼い主も助けることが求められる

▼県動物愛護協会とボランティア団体などが7月にも、多頭飼育の猫を対象にした不妊去勢手術の専門病院を開設することになった。新潟市内で開業する獣医師が週1回程度対応し、一度に10~20匹を手術できる見通しだ

▼手術代は、一般より安価に設定した。クラウドファンディングで当面の資金のめどは立ったが、安定的に続けるための資金も、さらに募っている。ペットといい関係でいられる社会でありたい。彼らは多くのものを与えてくれるのだから。