遊園の再生 「百貨店文化」の復権へ(2024年5月18日『東京新聞』-「社説」)

 昔々、そこは夢の国だった。豆汽車や観覧車、コインを入れると動く乗り物やアニメキャラの遊具。特撮ヒーローのショーやアイドルのキャンペーンも開かれた。そんな百貨店の屋上遊園も、いまや「絶滅危惧種」。しかし、時代の流れにあらがうように、名古屋・栄の松坂屋名古屋店は、全面リニューアルを決めた。
 1903年日本橋白木屋呉服店が店内にシーソーや木馬などの遊具を並べたのが「店舗内遊戯施設」のルーツとされる。
 その後、最上部に集客施設を置いて客をいざない、下の階へ下りながら買い物をしてもらおうという「シャワー効果」を狙い、屋上遊園の設置が全国に広がった。
 しかし、レジャーの多様化や少子化、風雨にさらされる設備の維持に経費がかかることなどから、70年代になると、撤退が相次いだ。今月6日には長崎市浜屋百貨店の「屋上プレイランド」が閉園。松坂屋名古屋店を含め、今や全国に4園しか残っていない。
 114年の歴史を背負う同店本館の屋上遊園=写真=は、広さ約1300平方メートル。メリーゴーラウンドや乗り物類、クレーンゲーム機など72点の遊具が並ぶ。今月14日から一時休園。来春の再開をめざしてリニューアルに取りかかる。
 改装のテーマは、サステナビリティー(持続可能性)とローカリティー(地域密着)。「新しさと懐かしさが入り交じり、近くの人も、ふらりと足を運んでぼんやり時間を過ごしてみたくなるような、都心のオアシスにしたい」と営業推進部の原口渚沙さんは言う。
 例えば、さりげなくアート作品を配置した芝生広場で、地産地消のマルシェ(市場)を開く。世代を超えて親しまれてきたレトロな遊具は持続可能性の象徴として、できる限りそのまま残す-。そんな構想を膨らませているという。
 日本百貨店協会の加盟店は現在167。ピーク時の91年から101店減った。百貨店そのものの持続可能性が問われる今、屋上遊園の再生が、地域のにぎわいの核となる百貨店という文化の復権につながるか。老舗百貨店の試みを期待を込めて見守りたい。