開催まで1年を切り、急ピッチで会場予定地の整備事業が進む2025年の大阪・関西万博。カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の開業も見据え、会場の夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)では建設工事が本格化している。こうした中、大阪府警は暴力団の排除に注力。7月には改正府暴力団排除条例が施行され、暴力団と建設事業者との利益供与に厳しい罰則が設けられる。背景には過去の開発事業を巡って、利権が暴力団に流れた経緯がある。
「資金流出、絶対防ぐ」
世界最大級の木造建築物となる大屋根(リング)が徐々に浮かび上がる万博会場予定地。広大な敷地を何台もの重機やトラックがせわしなく走り、関西の一大プロジェクトへの準備を急ぐ。
しかし、7月に施行される改正暴排条例では、大阪市や堺市など府内6市に営業所を置く建設業者を「規制対象建設業者」に指定。指定業者と暴力団との間で利益供与が確認された場合、双方に懲役1年以下か罰金50万円以下の罰則を新たに科す。また、違反が見つかればすぐに逮捕や書類送検ができる直罰規定も定めた。施行は全国でも珍しいという。
影響力高めた「弘道会」
垣添氏によると、総事業費約6千億円をかけて平成17年に開業した中部国際空港(愛知県常滑市)を巡っては、名古屋市を拠点とする特定抗争指定暴力団山口組系「弘道会」が介入し、莫大な利益を得たとされる。弘道会はこの〝軍資金〟を足がかりとし、山口組内での影響力を高めた。
捜査当局の力試される
当時の暴力団の資金獲得方法「シノギ」は、飲食店からのみかじめ料など暴力団の身分を示すことで利益を得るのが一般的。このため、各地で規制強化を求める暴排運動が活発化し、平成23年までに一般人と暴力団員との利益供与を取り締まる暴排条例が全国で制定された。
社会全体で暴力団の締め出しを図った結果、暴対法が制定された平成4年の暴力団の構成員(準構成員含む)は9万600人だったが、暴排条例が全都道府県で制定された23年は7万300人、令和5年は約2万人まで減少した。
こうした中での府の条例改正。垣添氏は「今後は警察や検察の力が試される」と指摘する。50万円の罰金では資金獲得のためのささいな経費に捉えられるとし「条例違反時の積極的な逮捕、起訴が暴力団の撲滅につながる」と話す。
一方で、「シノギ」の方法は変化をみせている。みかじめ料など昔ながらの方法ではなく、暴力団の身分を隠して詐欺を働くなど、より活動実態が見えにくくなったともいえる。警察庁は暴力団構成員の総摘発数に占める詐欺の割合は令和4年には14・4%と過去10年で最も高い割合となっているとし、特殊詐欺に主導的な立場で関与しているとして警戒を強めている。(鈴木文也)