「観光大使」がいなくなる? ジェンダー、採用難、出演機会の減少・・・ 一般公募枠に工夫を(2024年5月12日『山陰中央新報)

 
 自治体をPRする「観光大使」の採用を巡り、関係者が苦慮している。時代の変化に合わせて名前や募集要項を変更するが、女性が就くとのイメージを払拭(ふっしょく)できずにいるという。背景を探った。(西部本社報道部・中村成美)

 桃色のジャケットに黒のワンピース姿で、島根県産品をPRする女性。県観光連盟が一般の応募者から選び、2年間の任期で採用する「しまね観光大使」だ。
 

島根県産品をPRするしまね観光大使(島根観光連盟提供)

 歴史は1986年にさかのぼる。当時の呼び名は「ミス山陰」。地域活性化を目的としたご当地ミスコンが全国ではやっていたためだ。92年に「観光島根キャンペーンレディ」に改称。2000年に現在の名称となり、男性にも門戸を開いた。変更理由は定かではないが、1999年の男女共同参画社会基本法の施行が影響しているという。

 仕事はイベントの司会や物産展での県産品のPR、メディア出演と幅広く、県外出張もある。一般の県民が県の顔役になれる機会だが、これまで就任した69人のうち男性はわずか1人。そもそも男性の応募は1割ほどといい、担当者は「公平に選考するが、男性の母数が少ない」と明かす。


コロナ禍契機に廃止も

 山陰両県の観光大使を調べると、一般の人を募るのは島根県では、しまね観光大使のみ。鳥取県ではとっとり観光親善大使(鳥取県観光連盟)と、鳥取しゃんしゃん鈴の音大使(鳥取しゃんしゃん祭振興会)を性別不問で募集するが、同様の理由で男性の採用実績はともにゼロだ。

 浜田市観光協会は2021年度に「観光大使はまだ」を廃止した。20年間で男性2人を含む38人の市民が活躍。1年の任期を締めくくる新、旧大使の交代式は市最大級の夏祭りの特設ステージで行われ、祭りの目玉の一つだった。
 

浜田市の久保田章市市長と握手する「2016観光大使はまだ」の2人(資料)

 大使の派遣依頼が頭打ちとなり、宣伝効果が広がりを欠く中で、新型コロナが決定打となり廃止に踏み切った。市民からは惜しむ声もあったといい、中山良一事務局長は「大勢の人が集まる夏祭りに花を添えてもらったと思う」と話す。

大使のあり方議論を

 一般公募の観光大使に代わり、自治体が起用を進めるのが、ゆかりのある著名人や経済人だ。

 松江市は2002年に始め、人気お笑いコンビ「かまいたち」の山内健司さん(松江市出身)や浜家隆一さんなど566人が就く。観光大使に支給する専用の名刺は、市内の観光施設で提示すると割引が受けられる特典付きだ。著名人に「お墨付きのまち」として宣伝してもらえる上、事業費も少なく済む。市観光振興課の大島恵美課長は「積極的に名刺を配ってくれる人もいる。一定の経済効果はある」と断言する。
 

松江観光大使かまいたち山内健司さん(左)と浜家隆一さん=松江市末次町、市役所

 一般公募の観光大使はなくなってしまうのか。ジェンダー論を研究する島根大教育学部の香川奈緒美准教授は、容姿の美しい女性を優れているとみなす昭和の価値観を疑問視する流れになっていると指摘する。選考では性別や容姿によらない選定をアピールしたり、県外出張がない枠を設けたりするなどの議論が必要とし「時代に合わないからといって簡単に廃止せず、社会全体でもっと議論が生まれるといい」と述べた。