機密情報の保全対象を経済分野に広げる重要経済安保情報保護法案が、参院内閣委員会で可決された。プライバシー侵害や国民の知る権利の制約などの懸念が一層募る。成立を急がず、懸念が払拭されるまで審議を尽くすべきだ。
法案は、政府がインフラや重要物資の供給網などに関し、漏れると安全保障上、支障がある情報を重要経済安保情報に指定。取り扱いを有資格者に限る適性評価(セキュリティー・クリアランス)制度を導入し、漏えいに最長5年の拘禁刑などを科す。特定秘密保護法と一体運用され、機密性の高い情報は同法の指定対象となる。
最大の問題点は対象となる情報の範囲が曖昧なことだ。
岸田文雄首相は成立後、運用基準を閣議決定し、明確化すると答弁したが、第三者機関による検証がなければ、政府に都合の悪い情報の多くは秘密指定されかねず、国民の知る権利の侵害に歯止めがかからなくなる懸念がある。
適性評価が民間人にも広く適用されることになるが、国会審議では個人の性的関係も調査対象になることが明らかになった。
親類や友人の政治傾向まで探られかねないという強権的な手法はプライバシーの侵害どころか、民主主義とも相いれない。
適性評価は任意だが、拒否による人事上の不利益を禁じる法的保障は法案に明記されず、事実上の強制となることを恐れる。
これまでの審議では立法の必要性自体にも疑問が生じた。
政府は類似の制度があるとする欧米各国と足並みをそろえることで、企業が国際共同開発に加わる利点を強調する。しかし、英仏は重要経済安保情報と同程度の秘密指定を廃止し、米国でも情報保全監督局が廃止を提言しており、法案は国際的な潮流に逆行する。
人権侵害を許さないためには、成立ありきでなく、秘密情報の運用実態を検証することが先決だ。徹底した国会審議を求めたい。