産業情報機密化 恣意的運用の懸念残る(2024年4月10日『北海道新聞』-「社説」)

 機密情報の保護対象を経済安全保障分野に広げる新法案「重要経済安保情報保護・活用法案」が衆院を通過した。
 国が身辺調査で信頼性を認めた人のみが情報を取り扱う「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度の導入が柱となる。
 衆院では、対象となる重要情報の指定や解除への国会監視を導入する修正が加えられ、立憲民主党などの野党が賛成に回った。
 だがどんな情報が指定対象となるかはいまだにはっきりしない。その範囲は際限なく広がる恐れがあるのに歯止めの仕組みもない。
 評価の身辺調査の対象範囲がどこまで拡大し、実際にどのように行われるかも不明確だ。これでは政府が恣意(しい)的な判断をした場合も、排除できないだろう。
 新法で国民の知る権利やプライバシーが侵害されるのは許されない。与野党は安易な妥協をせず、参院で審議を徹底すべきである。
 新制度は秘密保護法制の拡大が主眼だ。経済安保の名の下に、国の秘密指定による情報統制を強化する。漏えいには10年以下の懲役や5年以下の拘禁刑などを科す。
 政府は指定対象となる情報について、重要インフラへのサイバー攻撃対応などを想定しているとしつつ、具体的には、法成立後に運用基準で明確化するとして、詳細な説明を避け続けた。
 高市早苗経済安保担当相は指定情報について「初年度でも数十件程度。多くて3桁」との試算を示したが、人工知能(AI)や半導体など先端技術を使った軍民両用の開発は拡大の一途をたどる。
 それに呼応して秘密保護の網がどこまで広がるかは見通せない。
 指定の範囲が曖昧であれば、技術革新に二の足を踏む企業が出てきかねない。大川原化工機事件のような冤罪(えんざい)を生む懸念も残る。
 修正案が取り入れた国会監視の仕組みは、特定秘密保護法にも導入されているが、的確に機能しているか疑問だ。
 特定秘密の指定件数は施行10年近くで倍増の勢いである。そもそも国会監視の現状について検証が、まず必要だろう。
 新制度は、重要度のより高い情報の扱いについて特定秘密保護法の運用拡大で対処する仕組みだ。
 これまで特定秘密の指定は、外交や防衛などに限定していたが、運用基準を見直すのだという。
 本来は法改正案を提出し、国会で審議すべきものだ。政府の独断による解釈変更は罪刑法定主義に反しており、極めて危うい。