起業の加速で日本経済に活気を吹き込め(2024年5月10日『日本経済新聞』-「社説」)

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ソラコムはKDDIの支援を受けて上場にこぎ着けた(3月26日、東京都千代田区
 
 世界でスタートアップ企業の資金調達への逆風が続いている。金利上昇により米国などで投資が落ち込む一方、日本は相対的に影響が軽微だ。日本は競争環境の変化を好機と捉え、起業で経済を活性化する取り組みを加速させる必要がある。
 国際会計事務所のKPMGによると、2024年1〜3月期の世界のベンチャーキャピタル(VC)投資は前年同期より21%少ない759億ドル(約11兆8100億円)だった。8四半期連続で前年割れになったが、日本はほぼ横ばいだった。
とはいえ、日本で若い企業への資金の流れが細い実態に変わりはない。1〜3月期も世界の1%強にとどまっている。VCやファンドなどが成長資金の供給を増やし、スタートアップの需要に応えることが引き続き課題となる。
 大企業の役割も大きい。VC部門などによる投資に加え、スタートアップのM&A(合併・買収)を成長戦略と位置づける必要がある。米国ではITに加えて、金融や製薬など幅広い業界で一般的になり、投資の出口としても一定の役割を果たしている。
 日本では投資と買収を別々の部門に任せる大企業が多いが、両部門を一体化して専門性を高めるべきだ。投資先やその候補をM&Aの対象として捉え、必要があると判断した際に機敏に取り込める体制が必要になる。
 大企業の関与で参考になるのはKDDIが通信関連スタートアップのソラコムを支援した事例だ。KDDIは17年にソラコムを子会社化して成長を加速させ、上場に導いた。大企業がVCやファンドの役割を代替する新たな形が広がるか注目したい。
 スタートアップの成長には法務や財務などを担当する専門人材も欠かせない。米バブソン大学などが2月に公表した世界の起業環境の比較調査報告書によると、日本は市場参入の容易さなどで諸外国に先行する一方、専門人材の分野で大幅に劣っていた。人材育成や流動性の向上が急務だ。
 起業家教育や起業家の地位も海外に比べて見劣りしている。若いうちから起業をキャリアの選択肢のひとつとして考えられる環境を整え、社会的な地位を高めていく必要がある。岸田文雄政権が22年に策定した「スタートアップ育成5カ年計画」の実行を含む着実な取り組みが不可欠だ。