次の「便利」求め、コンビニ50年(2024年5月8日『産経新聞』-「産経抄」)

キャプチャ
1974年に東京都江東区でオープンしたセブン―イレブンの1号店
 
 度胸試しというか、自分への過信というか。コンビニエンスストアのセルフレジを近頃、わざわざ選んでいる。レジ袋の「要・不要」に始まり、支払い方法の選択、ポイントを「使う・貯(た)める」など決済までの道のりが存外遠い。
 商品のバーコードが読み取れず、背後に人の並ぶ気配がする。重圧を乗り越え買い物を終えたときの達成感は、レシートに印字されることのない挑戦の見返りだ。「コンビニエンス(=便利)」の新たな形に追い付くには利用者も鍛錬を怠れない。
 全国どこに行っても同じ構えの店があり、同じ商品が並んでいる。それも24時間。善悪はともかく、「開いててよかった」と人々を落ち着かせる街の灯であり続けてきたのは確かだろう。コンビニ最大手のセブン―イレブンが日本初の店舗を東京に開いてから今月で50年になる。
 電子レンジでチン、公共料金の支払い、ATMの設置。できることが年々増え、地域のインフラとして存在感を高めてきた。日本フランチャイズチェーン協会によれば、全国のコンビニは5万5千店余り、昨年の利用者は延べ約162億人という。
 人手不足の世相を映し、こなれた日本語を使う外国人の店員も都心では目立つ。店員を置かない無人店舗や顔認証による決済まで現れた。そこは社会の縮図であり、最新技術の実装の場にもなっている。次代の「便利」を求めて、進化と模索を続ける21世紀のコンビニである。
 <孤独なる若者ひきよせコンビニは誘蛾(ゆうが)灯のごと深夜を点(とも)す>朝井恭子。仮に社会が老いようと、人々が引き寄せられる図は変わるまい。はやり廃りが習いの言葉の世界でも「コンビニ」は長生きだ。詩歌からもコラムからも、その灯が消えることはなかろう。