「イチョウの切り株が問いかけている」 神田の並木伐採を巡る対立を映像に収めた専修大生4人の思い(2024年4月7日『東京新聞』)

 
 専修大の学生が「まちづくり」をテーマにしたドキュメンタリー映像を制作した。キャンパスがある東京都千代田区では、神田警察通りのイチョウ並木の伐採を巡り、区と区民らが対立しており、その場面も扱った。映像制作を通して学生たちは何を感じたか。解決の一助になるのか。(木原育子)

千代田区の助成を受け「変わりゆくまち 神田」制作

 「4人の学生たちの努力に拍手を送ってあげたい。大きく成長してくれた」
 3月中旬、専修大であった発表会。冒頭、映像化を試みた土屋昌明教授が開口一番、そう訴えた。
 映像化は、区が「千代田学」と銘打ち、区に関する調査研究に助成する事業の一環で取り組んだ。土屋教授は「区の事業だからこそ、区内で起きている現実を理解することが大切だと思った」と狙いを語る。
昨年11月に伐採されたイチョウの切り株を映し出したシーン(ドキュメンタリー「変わりゆくまち 神田」より)=土屋教授提供

昨年11月に伐採されたイチョウの切り株を映し出したシーン(ドキュメンタリー「変わりゆくまち 神田」より)=土屋教授提供

 タイトルは「変わりゆくまち 神田」。土屋教授のゼミに通う新4年生の4人が昨年9月から4カ月間にわたって現場に通い、スマートフォンで動画を記録。約15分のドキュメンタリー作品に仕上げた。
 並木伐採を巡っては、住民の意向を聞かずに工事契約を結んだのは違法だなどとして住民訴訟で係争中だったが、区が昨年2月に一部を伐採。以後、伐採を食い止めようと連夜、住民らが座り込みをしている。

◆区が撮影の承諾を撤回…「意見交換」の場面

 昨年11月末には工事業者が夜間に突如工事を始め、一部を伐採しようとし、反対する住民がイチョウに抱きつき話し合いを求めたが、業者は譲らず膠着(こうちゃく)状態に。作品では神田に暮らす人たちのインタビューに加え、工事が一時中断した際の映像も記録した。
 学生らは現場に何度も出向いた。残念だったのは区側の思いを盛り込めなかったこと。学生が区の担当者と意見交換する場面も、区の撮影承諾を得てカメラを回したが、後に承諾は撤回された。作品には意見交換の冒頭しか描けず、その後は真っ黒な背景画面に切り替え、区のコメントを掲載するだけの形になった。
 作品作りに技術面で協力した映画監督の舩橋淳さん(49)は「区が区民に対してどれだけ説明会を開いたと主張しても、納得していない区民はいる。そんな中で、撮影承諾さえ撤回するのはさらに不信を招くのではないか」と話す。

◆「まちづくり」の視点から 「もっと対話が必要だ」

 発表会で学生たちも思いを語った。安岡美紀さん(21)は「大学では海外の文化を学んできたが、日本人同士でもひとりひとり違う異文化だと改めて実感した」と訴え、江川響さん(21)も「大学がある地元でこんなことが起きているなんて全く知らなかった。刺激的だった」と自身の小さな変化を話した。
 映像は伐採問題の是非だけに主眼を置かず、「まちづくり」の視点から捉えたのが特徴だ。横山友亮さん(22)は「区か住民かではなく、肩書なしで考えてみた時に、もっと対話が必要だと感じた。この作品が対話のきっかけになったらいい」と話した。
ドキュメンタリー制作を通して感じた思いを発表する専修大の学生ら=東京都千代田区で

ドキュメンタリー制作を通して感じた思いを発表する専修大の学生ら=東京都千代田区

 作品は、こんなナレーションで締めくくっている。「まちづくりとは一体なんだろう。意見の相違も生まれるが、乗り越えるには、話し合いしかないはずだ。そのプロセスを考えることもまちづくりなのではないだろうか。イチョウの切り株が私たちに問いかけているような気がする」
 ちなみに区はどうか。コミュニティ総務課は「学生さんが作った事実が重要で、千代田学の成果。昨年度いただいた6提案全てのパネル展示は計画中だが、個別の作品だけを公開する予定はない」とした。