大阪・関西万博「世間の関心のなさ」がハンパない…それでもまだ一縷の望みがある理由(2024年5月5日『
ダイヤモンド・オンライン』)
 
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「ミャクミャク」もとばっちりを受ける、大阪・関西万博の評判の悪さ Photo:JIJI
 
 不安な要素ばかりが伝えられる大阪・関西万博。また、アンケートの結果からは万博に「全く関心がない」と答えた人が9割に及ぶ勢いであり、吉村洋文知事の意気込みと世間の関心に温度差があるように思える。想定来場者数が約2820万人とされる万博は、なぜこれほどまでに人々の心を掴んでいないのか。(フリーライター 武藤弘樹)
● 「大阪・関西万博」に関心ある? 残酷なアンケート結果
 開催まであと1年を切った大阪・関西万博だが、Yahoo! JAPANで行われているアンケートではなかなか酷な結果が出そうである。
 「あなたは、大阪・関西万博のニュースに関心はありますか?」という質問に対し、9852人が回答している(4月25日時点)のだが、「全く関心がない」が圧倒的多数の87.8%となっているのである。選択肢は「とても関心がある」「ある程度関心がある」「あまり関心がない」「全く関心がない」の4つ。
 
【参考】
大阪・関西万博のニュースに関心はありますか? - みんなの意見 - YAHOO!ニュース みんなの意見
 
「”嫌い”はまだマシ。一番つらいのは”無関心”」といった言説があるが、それを参考に上記アンケートの推移を見れば、ここまで”つらい”イベントもなかなかない。
 万博開催に関しては反対の声も少なくなく、反対派の人が先のアンケートで「関心がある」とは回答しにくかったかもしれないから、「無関心」に票を投じたケースもあろうが、ニュース記事のコメント数を見ると、やはり万博関連のものは少ないのである。つまりは、本当に関心を持たれていない可能性がある。
 だが、YAHOO!ニュースで行われているアンケートの注目度としては、ざっと見渡したところ回答数が1万ほどになるとわりあい高いと言えて、上記アンケートはほぼ1万だから、比較的注目はされているのである。
 注目はされているが、個別のニュースに対してのコメントが多く引き出されるほどの熱意を、万博は皆に抱かせることができていない、というところであろうか。あるいは、万博開催は長らく批判を受け続けてきているので、もはや批判は出尽くして枯れ始めているのかもしれない。
 当記事では、大阪・関西万博の評判がなぜここまで低迷しているかを考察する。
● 建設費問題に爆発事故 負のカリスマとなった大阪・関西万博
 万博に関するネガティブなニュースや憶測、不安視する声は、すぐに複数挙げることができる。ここ数日で聞かれているものだと、たとえば以下のようなものがある。
・安全性は大丈夫か。災害時の避難ルートや目玉となっている大屋根(リング)など。
 ・爆発事故があったけど大丈夫か。
 ・過去の万博では人気を博したライド型のパビリオンが、今回は地盤の問題でなくなる可能性。
 ・パビリオンの建築が遅れているようだが大丈夫か。
 ・会場建設費が当初の約1.9倍になったが大丈夫か。
 ・能登半島地震もあったというのに、万博にお金使っている場合ではないのではないか。
 ・チケットの売れ行きは大丈夫か(現時点では6%しか売れていないが売れ行きの推移を見る限り大丈夫、との主張もある)。
 ・吉村知事のゴリ押し感が不安。
 ・マスコットキャラクター「ミャクミャク」が不気味。
 中には、ただ万博を下げたいだけのデマまがいの情報もあるのだが、それを除いても、よくもまあここまでたくさんの不安要素が並んだものである。ここまで来ると、ただ運に恵まれていないだけでなく、運営サイドにも一定の原因はあると言い切っていいであろう。不測の事態によってケチがつくのはイベントのような水ものには付き物だが、その過程で運営は世論の信頼を獲得することができていない。ケチがついても説明の仕方いかんで信頼の獲得は可能である。
 カリスマが人を魅了するのは、カリスマ自身が発する魅力があるのはもちろんとして、カリスマを支持する人たちの熱狂がさらにそれを補強するからで、その熱狂がカリスマをカリスマたらしめる要因となる。そして大阪・関西万博は現在負のカリスマっぽくなっている。
● 「ミャクミャク」にもバッシング 世論を形成するマスコミの立ち回り
 ただ、こうなっているのはマスコミの立ち回りによるところも関係している。もはやこのような雰囲気なので万博を叩くトーンで報道をした方が、注目も支持も集めやすく、その方向の記事がどんどん出されて、どんな些細な(たとえば「ナンバープレートがさながら血しぶき」といった)記事でもウケて、世論がそちらの方にどんどん固められていっているのである。
 わかりやすいのがマスコットキャラクター・ミャクミャクの評価で、万博への支持の度合いを測る、ある種リトマス試験紙のように使うことができる。
 ネット記事やSNSを見ると「ミャクミャクが不気味」「ミャクミャクが無理」という意見が目立って目に入ってくるが、大阪・関西万博がもっと支持されたイベントであったなら、ミャクミャクも「個性的で憎めない」といった切り口で、今よりは支持を集めていたのではあるまいか。
 興味深いのは産経リサーチ&データが昨年5月に行った、ミャクミャクについて「良いと思う」と「あまり好きではない」の二択のアンケート結果で、これによると「良いと思う」が20代で65.9%、30代で60.9%、40代で50.7%、50代で46.6%、60代34.5%となったことだ。昨年の、今ほど万博が批判を集めていない時分の結果を見ると、ミャクミャク単体ではそこそこ支持されうる素養を持っていたのである。
 そのミャクミャクが現在主に不気味扱いされている現況は、大阪・関西万博への人々の印象が如実に反映されているからに他ならない。
【参考】
ミャクミャクは50代以上に人気ない? 産経R&D調査
 
● 東京オリパラのケースに見出す 大阪・関西万博の一縷の望み
 1970年の大阪万博は来場者数6422万人という大成功を収めて、その盛り上がりが今なお語り継がれている。当時日本は高度経済成長期のほぼピークの時期にあって、国全体に上がり調子のエネルギーが渦巻いていた。
 かたや2005年の愛・地球博は動員人数が目標を大きく上回って最終的に2205万人となり、129億円の黒字となったそうで、成功といっていいであろう。
 そして2025年の大阪・関西万博では、想定来場者数が約2820万人とされている。この数字の達成も不安視される向きが強いが、はたしてどうなるか。
 時代の背景を比べると、1970年は好景気真っ只中、2005年は緩やかな景気回復の中にあった。そして今年はというと、目下極端な円安進行と物価高で、景気に対する不安の空気がまん延している。万博のようなアッパーなイベントを楽しんでやろう、という雰囲気にはなかなかなりにくい。
 しかし、万博不支持の報道一色の現状を見渡しても、開催本番を迎えてみれば、ひょっとしたら前評判ほど惨憺たる結果にはならない可能性もある。思い出されるのは2021年の東京オリパラである。コロナ禍の中での開催という難しい状況にもあったが、それに加えて実に様々なすったもんだが出てきて、開催前はものすごい勢いで批判されていたが、いざ始まってみると応援ムードとなった。
 Yahooのアンケートを掘り返してみると、2021年5月には東京オリパラを「中止するべき」と79%(約57万票)が回答し、6月には観客上限1万人の開催決定を「妥当だとは思わない」と91%(約23万票)が回答した。
 そして五輪が閉幕し、成否についての8月のアンケートでは「失敗したと思う」が58%(20万票)、「成功したと思う」が36%(12.6万票)となった。「失敗したと思う」が大きく上回ってはいるが、批判にまみれた開催前と比べればマシだろう。
【参考】
東京五輪・パラの開催、あなたの考えは?
 東京五輪の観客上限1万人で決定、どう思う?
 東京五輪の成否、どう思いますか?
● 挽回か、破滅か 「フタを開けたら意外」な展開も?
 もっともオリパラというイベントの性質上、多くの人は運営の至らなさと競技に挑む選手を切り分けて考え、選手への応援をしっかりやるうちにオリパラを楽しめた向きもあろうから、イベントの性質が違う大阪・関西万博とは厳密なところで比較することはできない。だが2021年東京オリパラのケースを見るにつけ、マスコミの過熱報道を差し引いて判断する余地はありそうだということがわかったから、大阪・関西万博も「フタを開けてみたら意外と――」という可能性も、万が一くらいにはあるかもしれない。
 とにかく前評判が低迷している大阪・関西万博であり、ここから少しでも挽回できるのか、あるいは破滅への行進を見守るしかないのかといったところであるが、経産省の試算によると大阪・関西万博の経済波及効果は2.9兆円で、会場建設費2350億円に対して極めてコスパの高い経済政策として一部から期待が寄せられてもいる。動向を見守っていきたい。
武藤弘樹