OECDが担う新たな役割(2024年5月4日『日本経済新聞』-「社説」)

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OECD閣僚理事会の関連会合で演説する岸田首相=2日、パリ(共同)
 
 もはや「先進国クラブ」の時代ではない。米欧を中心に活動してきた経済協力開発機構OECD)は新興国との関係を深め、自由で公正な世界経済の枠組みづくりで新たな役割を果たすべきだ。
 日本は今年、OECDに加盟して60周年の節目を迎え、10年ぶりに議長国を務める。岸田文雄首相は2日、年に1度の閣僚理事会で演説し「『共通の価値』を持つOECDが非加盟国に手を差し伸べることが重要だ」と訴えた。
 生成AI(人工知能)やデジタル、気候変動への対応、自由貿易や国際課税の推進といったグローバルな課題で、日本が担う責任はこれまで以上に重い。
 その際にカギを握るのが、OECDに加盟していない国や地域の協力をどう取りつけるかだ。首相が演説で強調したように、価値観の一方的な押しつけをせず、相手国の事情に寄り添う姿勢が欠かせない。
 世界経済に占めるOECD加盟国の割合は、かつて8割を超えていた。OECDは先進国クラブと呼ばれ、そこで決まったことがそのまま世界貿易機関WTO)や国連機関のルールになっていた面は否めない。途上国が不満を募らせたのは当然だ。
 時代は変わった。中国やインドといった国々の台頭で、OECDが世界経済に占める割合はいまや6割ほどにすぎない。新興国の協力なしに、実効性のあるルールを決められないのが現実だ。
 OECDの下部組織である国際エネルギー機関(IEA)がインドと加盟交渉を始めるのは、その象徴と言っていい。OECDインドネシアの加盟に向けた審査に入っており、タイも加盟を申請している。
 こうした仲間の輪をさらに広げていきたい。日本にはOECDとアジアなどの非加盟国を橋渡しする責務がある。
国際秩序の変更を試みる中国と向き合ううえでも、自由で公正な経済成長を掲げるOECDの役割は大きいはずだ。